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 お待たせしましたー、の声と同時に、テーブルに酒が置かれた。


「生ビールおふたつと、ハイボールと……あー、カシスオレンジっすね」


 やる気のない店員の声を聞き流して、ジョッキとグラスを回していく。

 晃太郎と謙太郎にビールを、私にハイボール、カナちゃんにカシスオレンジ。

 晃太郎の適当な音頭に合わせて、グラスを軽くぶつけた。


「うはぁー、ビールうめー」

「なに食う?」

「私からあげ」


 カナちゃんが小さい声で「ガキかよ」と言ったが、無視無視。味覚が小学生で悪うございましたね。


 後ろの壁にかけたコートのポケットから、ブーブーとスマートフォンのバイブレーションが聞こえた。体を捻ってポケットから取り出す。


 グループ欄、晃太郎からメッセージ。


『カナちゃんイエローカードでーす』


「ぶっは……!ごめ、ふふ、あはは!」

「怖い怖い!突然笑い出すなよ!」


 白々しい!テーブルの下で晃太郎の足を踏んづけてから、メニューに目を戻した。


「カナは?なに食う?」

「んー、サラダ」

「シーザー、海鮮、豆腐、どれ?あ、ポテトサラダもあるわ」


 突然カナちゃんを構い出す謙太郎、隣で痛みに悶えている晃太郎、笑いが止まらない私。


 カナちゃんは今日も香水がキツい。



 話は三十分前に遡る。


 久しぶりに三人で飲みに行こうと鷹条大前駅の西口で待ち合わせをしていた。

 カナちゃんとのアレコレや、私が聖と仲良くなったこともあって、こうして三人だけで飲みに行くのは実に久しぶりのことだった。


 待ち合わせたとき、一番初めに来るのは大抵晃太郎である。おちゃらけたように見せかけて、高校卒業までは硬派な野球少年だったのだ。実は真面目な男。


 次に来るのは謙太郎。ときどき遅刻することを除けば、だいたいの待ち合わせで私より早く着いている。


 最後が私。遅刻するわけではない。待ち合わせ時間、ちょうどというだけのこと。


 だって、待ちたくないし。ヒールで無駄に突っ立ってるの、嫌だし。私は自分の利で動く。誠実な人間ではないのだ。


 今日も私は待ち合わせ時間ちょうどについた。ノモト教授ばりに神がかった時間調整だとおもう。

 しかし、そんな冗談を言っている場合ではない。


「えーと、お待たせ?」

「お、おう。スマンけど、今日カナも参加で」

「うん、うん?……ど、どうぞご自由に」


 カナちゃんである。


 そこにはコバンザメかのごとく謙太郎に引っ付くカナちゃんがいた。

 わかる、謙太郎が連れてきたくて連れてきたわけではないことくらい。どうせ、今日は飲み会だとかの話をして、メンツを吐かされたのだろう。


 私が来ることを知って、嫉妬魔ちゃんは無理に着いてきた。と、どうせそんなところ。


 店に着く前に、三人のグループメッセージに投下された晃太郎の言葉が問題だった。


『カナちゃんが場の空気を壊すこと言ったら追い出すかんな。ペナルティ三回で退場。けんたろーは頑張れ』


 カナちゃんに恨みはない。嫉妬する気持ちも、私を敵視したい気持ちも、キチンと分かっている。

 だけど、晃太郎が味方であることにスッとしてしまった。


 どうやら最近のカナちゃんはサークル内でも疎まれ気味なようで、晃太郎もかなりの煽りを受けているらしかった。

 めんどくせぇ、めんどくせぇ、とよく言っている。


 謙太郎が別れたがっているのは明白だった。


 そんなこんなで私たちの飲み会に、追い出される危険性を孕んだまま、カナちゃんは飛び入り参加を許された。



「俺、マグロユッケ食っていいー?」

「あたしナマモノ食べられな……」


「カナ、これ好きだろ。頼もうぜ」


 オカン太郎の実力が発揮されている。

 カナちゃんが何か言い出す前に謙太郎がアレコレと世話を焼き、私と晃太郎はその光景を肴に酒を飲む。


 ブーブーとふたたびスマートフォンが震えた。


 晃太郎かと思い、即座にメッセージアプリを開く。


『瑞ちゃん、来月の二十四日と二十五日あいてますか』


 猫執事クロスチャンのスタンプ。聖だった。


 二十六日はスノボ合宿の出発日であるため、前日の二十五日はバイトのシフトも入れていない。問題は二十四日。


 あ、シフト入ってる。


 でもなぁ、せっかく誘ってくれたし、聖と遊びに行きたい。

 返事を出す前にバイトの先輩にメッセージを送る。来月の二十四日、シフトかわってください、と。


 即座に既読がついて、即座に返答。レスポンスが早い。


『良いけど、デート?』


「デート?」

「なに、急に」


「いや、独り言……」


 問うてきた謙太郎にそう返して、ようやく気がついた。


「ん?来月の二十四、二十五って」

「クリスマス」

「だよね……」


 聖とのメッセージ画面を再度開いて、ちょっとだけ考える。


『瑞ちゃん、来月の二十四日と二十五日あいてますか』


「あのさ、二十四と二十五の予定聞くのってデートの誘い?」

「それしかねーだろ!つか、は!?デート!?ついにハジメに春がくんの!?俺をおいて!?」


「るっさい、晃太。声がデカい」


 ひとまず先輩に返事をする。


『なにをデートの定義とするのか不明なのでノーコメントで』

『イブですが、恋人さんは大丈夫ですか?』


『別れた』


 なるほど。ならば代わってもらおう。

 デートかどうかはこの際置いておくとして、聖と遊びにいって楽しくないわけがない。


「相手は!?俺らが知ってるやつ!?」

「晃太くん、あんまりプライベートなこと聞いちゃダメだよ!」


「…………ほぇ?」


 今の今まで静かにしていたカナちゃんの発言に、晃太郎が間抜けな声を出した。私もたぶん、間抜けな顔をしていた。


「ハジメさん、良い感じの人いたんだね」


 にこにこ。


 え、なに、怖いんですけど!


「そう、いうのじゃ……ない、のか?あれ?そういうのなのかな……わかんないけど、え、突然どうしたの……」


「は!?やっぱり男か!?」

「だから晃太くんは静かにして!」


 えぇ、なんかすごい良い笑顔ですごい怖い……

 隣の謙太郎を見ると、謙太郎も驚いたのか変な顔をしていた。


 この女、情緒大丈夫か?


「どんな人なの?カッコいい?同い年?」

「ど、え、か、可愛い……年上」

「へぇー!ハジメさん、年上好きだったんだ!しかも可愛い系!」


 なになに、怖い怖い!謙太郎どうにかして!

 呆けていやがる!役立たない男め!


 晃太郎は晃太郎で、「俺だけクリぼっち……」とか嘆いていやがる!ブレない男め!


「クリスマスにデート誘ってくるってことは、ハジメさんのこと狙ってるってことだよ!」

「あ、ハイ、ソウデスネ」

「ハジメさんも満更じゃないんでしょ?」


 ハジメも満更じゃなさそうだし、と言ったのはマスターだったか。

 満更じゃない、ね。うっすらと自分でもそんな気がしていた。


 カワタさんの時は面倒だなぁ、とか思っていたのに。聖から向けられるそれは満更でもないなんて、それは一体、自分の中でどう処理すれば良いものか。


「ストーップ!ストップ!待て!ちょい待て!」

「だから晃太く……」


「二十四、五の誘いってソレ、泊まりじゃねーか!」


 え、そうなの?二日連続ってことではなく?


「それだけハジメさんに本気ってことでしょ?」


 なんでコイツ、ちょこちょこマスターと同じこと言うかな!腹立つなぁ!


 なにか言いたい気持ちもあるが、聖のアルバムを見てしまった今、「いやいや、ただの友達だから」とも言えないのだ。

 それでもなお、聖の一番の友達になりたいと思ったのも私だ。


 あぁ、もう面倒くさい!謙太郎とカナちゃんに巻き込まれることも、彼女欲しい病の晃太郎も、ウジウジ考える私も!面倒くさい!


 開きっぱなしにしたメッセージ欄に、高速で返事を打ち込んでいく。


『空けた!』

『どこ行くの?』

『泊まり?』



 私も!なんでこの精神状況で"聖と話したい"なんて思うかなぁ!

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