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 この子に会うのは久々だなぁ、とぼんやり眺める。


「ケーンくん!お昼行こう!」

「……おう」

「カナちゃんおはー」


 おはよ、晃太くん。にこにこ、小さい体で謙太郎の腕にしがみつく。否、ぶら下がっている。

 私に挨拶がないことはもう慣れた。


「お弁当、つくってきたよ!」

「おう、サンキュー」

「いいなー!彼女の手作り弁当!」


 謙太郎は今日も仏頂面で、晃太郎は今日も騒がしい。私の待ち人は、まだ来ない。


 本当にこいつ、カナちゃんのこと好きなのかな、と最近よく思う。

 カナちゃんへの対応がぶっきらぼうなのは、私たちの前での照れ隠しなのかと思っていた。それか格好つけているだけなのだろうと。


 しかし、晃太郎の様子を見るに、サークルでの活動中もこの態度なのだろうと思う。私たちのあいだでカナちゃんの話題が出ても面倒くさそうだし、この前は電話もシカトしていた。後でかけ直す、と言って。

 私がかけても、晃太郎がかけても、すぐに出るくせに。


 あれか?落とすまでは本気で、付き合い始めたら興味がなくなるってやつ。最低かよ。知らんけど。


「あ、そだ。今のうちに渡しとくわ。ほい、これ謙太郎とカナちゃん。あとハジメ」

「なーに、これ」

「あー、先週のミーティング、カナちゃんいなかったっけ。毎年やってる冬休みの合宿」


 当たり前のように私のぶんも説明の紙が用意されている。もはや準メンバー扱いだ。


 ダサいポップ体で『スノボ合宿の時期がやってきました!』とタイトルが書いてある。なにこれ、ダッサ。ワードで作ったのかな。

 アパートの近くにある将棋クラブ、もとい爺さんの集い。あそこの入り口に貼ってあるお知らせ並みにダサい。


「なんだコレ、くそダセェ」

「謙太……言わないでおいたのに……」

「うっせぇ!俺の渾身の作だぞ!」


 作ったの晃太郎かよ。ダサ。


 日程も場所も決まっているらしい。参加希望者は幹事に連絡しろ、とある。

 数名の幹事のなかに、晃太郎の名前があった。


 合宿と言うわりに、昨年は誰も楽器を持っていかなかった。スノボで遊んで、夜は飲んだくれて、起きたらまたスノボして……


 私はスノボしなかったけど。


「ふぅん……ケンくん行く?」

「……まぁ」


 ふぅん、のところで私を見た。あれでしょ、なんでお前まで当たり前みたいに参加する前提なの、ってやつ。

 大丈夫、ソレ、私も思ってるから。


 今年はどうしようかな。カナちゃんのあたりは相変わらず強いし、聖と遊びに行こうとも話している。

 正式なメンバーじゃない私が行って場の空気を汚すより、こっちはこっちで楽しんだほうがいい気もする。


「お、ハジメの待ち人きたぞー。おっすー、ショウさん」

「こんにちは、晃太郎くん。瑞ちゃん、お待たせ」

「待った」


 ダサい紙を半分に折り畳んで、バッグにしまった。


「そうだ。ショウさんも来てよ」

「え……どこに?」

「スノボ」


 毎週水曜日に顔を合わせるせいで、晃太郎たちと聖も仲良くなりつつある。

 いまでは誰も、彼女のことを盗撮魔とは呼ばない。


「聖が行くなら、行こうかな」

「え、え、なんの話?」


「なんだよ、ハジメ来ないつもりだったの?」


 非難するように謙太郎に言われたが、お前マジでそういうところだぞ。お前の腕にぶら下がった女がすごい顔になっていることに気づけ。


 カバンにしまったばかりの紙を取り出して、聖に渡す。


「え、ダ……んん、えっと?……でもこれ、軽音の集まりだよね?」

「まーねー。メンバー以外も結構来るから、ショウさん来ても大丈夫だよ。むしろ歓迎」


 いまぜったいダサいって言おうとした。その通りなので口にしてもいい。だって、本気でダサいもの。


「ハジメも去年きたしな。多い方が楽しいし、是非」


 謙太郎も肯定派。待って、待って、カナちゃんの目がヤバいから。

 お前はいい加減カノジョの相手をしろ!


「瑞ちゃんは行く?」

「聖が行くなら行く」

「えー……えへへ」


 嬉しそうな顔しやがって。ちょっと待ってね、と小さいスケジュール帳をリュックから出した。


 カナちゃんが小さな声で何かボソッと言ったけど、誰も聞いていなかったし、私も聞こえなかった。良くない意味が含まれていることしか、分からない。


「うん、まだ空いてる」

「行く?」


 チラッとこちらを見る。いま気づいたけれど、今日のリップ、色が違う。変えたのかな?


「う、うん。お邪魔しようかな」

「じゃあ私も行く」


「おっけー!二名確保ー!」


 晃太郎がスマートフォンに何かを入力した。なんで幹事なんかやってるのだろうか。面倒だろうに。


 カナちゃんが謙太郎の服をちょいちょいと引っ張る。


「ケンくん、あたしも行く」

「は?お前、冬休みは実家帰るって言ってただろ」

「行くもん」


 大変ですこと。

 私もカナちゃんの真似をして、聖の服をちょいちょいと引っ張った。


「ぅゔん!」

「今!?」

「不意打ち禁止!」


 以前より明らかに頻度は落ちたが、聖の謎発作は未だ健在である。

 謙太郎といちゃついていたくせに、カナちゃんが聖を冷たい目で見ながら、また何かを言った。


 芋?


 あぁ、キモ、かな。腹立つなぁ。

 たしかに聖の挙動不審には気持ち悪い動きだな、と時々思うが、それを言っていいのは私だけだ。ましてや、友達でもなんでもないカナちゃんに言われるのは大いに腹が立つ。


「聖、お腹すいた。行こう」

「あ、うん!」


「お疲れ、謙太。晃太も、じゃね」


 お疲れ、の意味は伝わっているだろうか。謙太郎と晃太郎には、きっと伝わっている。

 短い言葉のなかに詰め込んだ嫌味が、カナちゃんにも伝わっているといい。


 無意味な敵意をいつまでも許すほど、私は優しくないのだ。

 とか言って、ちらっと嫌味を言うくらいしかできないのだけど。


 私も所詮、カナちゃんと同レベルの女ってことだ。

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