一つ目のパーツ
「でもどうして殺さなかったの? また来るかもしれないわよ」
「あいつも最初、俺を殺せたのに殺さなかったからな。これでお相子だ。」
俺は自分の身体に包帯を巻きながら答えた。
「ふーん。アンタ、残酷なのか甘ちゃんなのかよく分かんないわね」
「……好きで忍者になったわけじゃないからな。さてと」
俺はへたり込んでいるレイラに目を向ける。
「帰りましょう」
しかしレイラは反応しない。先ほどからじっとうつむいているだけだ。もしかしてどこか怪我をしているんじゃ……。
「大丈夫ですか?」
心配して手を差し伸べたが払われる。
「触るな! この光る男性器め!」
「ひどい」
「ちょっとお姫様。そんな言い方は無いんじゃない? こいつは確かにチ〇コ光るけど」
「光らせてんのお前だけどな」
クーは一度咳払いをする。
「チ〇コは光るけど、アンタを助けに来てくれたじゃない。カッペーが来なかったらアンタ今頃何されてたか分かんないわよ」
今更だが「チ〇コは光るけど」ってとんでもねえ前置きだな。
レイラは再びうつむいてしまった。
「言い過ぎだぞ、クー」
王族で何不自由なく暮らしてきたであろう娘がいきなり誘拐されたのだ。乱暴に扱われていたようだし、ゴブリンにも迫られていたし、光るチ〇コも見てしまった。死ぬほど怖かったに違いない。気持ちの整理も出来ていないんだろう。
「私は、帰りたくない」
レイラの口から出たのは意外な言葉だった。帰りたくない? 誘拐されていれば普通は家に帰りたくて仕方ないんじゃないのか。
まさかアルマの言う通り、本当に「家出」だったとでもいうのか。
「どうして帰りたくないんですか?」
「私はもう疲れた。姉と比較され続ける生活も、権力争いに利用されるのも、お母様の駒になるための政略結婚も。それから……」
レイラは通り雨のような勢いでどんどん愚痴を並べ始めた。確かに俺は帰りたくない理由を聞いたが、ここまで強いレスポンスは期待していない。
恐らく極度のストレスに晒されたためにレイラ自身気持ちの整理が付いていないんだろう。
「それから……私の中にその『パーツ』とやらがあるのなら、またさっきのような連中が襲ってくるだろう。たまたま今回は助かったが、これから毎日襲撃に怯えながら暮らすのは嫌だ」
「じゃあ今ここで俺と」
「絶対に嫌だ!」
傷付くわ。
「だったら、俺と一緒に来てみませんか?」
「貴様どさくさに紛れて夜這いの申し込みだと!?」
こいつの脳みそピンク一色だな。
「いえ、違いますよ。俺たちが住んでいるギルド……というか島は外敵が入りづらい場所だし、優秀なギルドメンバーもたくさんいます。何より俺と一緒に来てくれるんなら護衛はします」
それは何気ない提案のつもりだった。いろいろな重圧を抱えていて同情したという点もある。それから俺はフィアールカの護衛任務を預かっているが、守る女が一人から二人に増えたところであまり変わらない、と安易に思ったのが一つ。
ま、王族の娘がそんな簡単に国を出られるわけがないか。
「それならいいかもしれぬ」
思いがけない言葉に驚いてレイラの方を見た。彼女はほどけていた長髪をポニーテールに括り治しているところだった。
「私は一度死んだも同じ。何もかも投げ出して、何年か知らぬ土地に住むのも悪くないかもしれぬな」
俺はここでやっと自分の口の軽さに気付いた。身体の末端部分から血の気が引いていくのが分かる。あ、これはやべえぞ。俺のせいでレイラが国外に逃亡したとなれば、俺は晴れて国家級の犯罪者(二犯目)だ。俺の首が何本飛ぶだろうか。
「い、いやいや! もっと考えて決めたほうが良いかもしれませんよ。だってほら、レイラ様のご家族も心配しますよ」
俺は慌てて言った。めっちゃ早口で言った。しかしレイラは考え直すどころか自嘲するように笑った。
「お父様にとって大事なのは世継ぎ、つまり私の義理の兄だけ。妾だった私のお母さまは口を開けば『お前が男だったらよかったのに』と言うばかり」
この国のお家事情はよく知らないが、これまでの彼女が言動を見れば複雑な環境にいるのは分かる。王族なんて生まれながらの勝ち組だと思っていたが、王族なりに色々あるんだな。……しかしここで同情に流されたら俺の首が飛ぶ。
「そうはいっても、この非常時ですからご家族は心配していると思いますよ」
言いながら俺はアルマの事を思い出していた。別に妹が死んでいても何とも思わないかのような態度と口ぶり。もしかして、本当に家族から心配されていないのだろうか。
「だが実際に私を助けに来たのはこの国の誰かではなく、今日会ったばかりの貴様だ」
レイラは顔を上げ、少し戸惑ったように俺を見た。
「おい、股間光り男」
「多彩なバリエーションで俺を下ネタ扱いするのやめろ」
「すまん、一度聞いたがお前の名前を忘れてしまったのだ。興味のない事はすぐ忘れる」
無意識に俺の心を抉って来るぅ!
「俺の名前は猿渡勝平です」
「そうだった。カッペー。その……」
レイラは急にモジモジし始めた。
「その……欲しがっている物を、お前にやっても構わない」
「本当ですか!?」
それは願ってもない申し出だった。もはや盗賊のように夜忍び込み、キスを交わす以外の手段が無いと思っていたところだ。
「その代わり条件がある。私をお前と一緒に連れて行け! それが出来ぬのなら貴様と、その、え、エッチなことはしないからな!」
頬を紅潮させた彼女はぷいっと顔をそむけてしまった。大人びた身体と正反対に心は乙女のままのようだ。
しかし困った。もちろんパーツは欲しいが、そのために条件を飲んでしまえば俺はこの国を敵に回すことになる。
それに妙なのは、この場でパーツの受け渡しをしてくれるのなら、今後レイラが謎の組織に追われることも無くなるはずだ。それなのに、苦行(俺とキス)をする条件を飲んでまで海外に出ようとする動機は何なんだろう。
俺が返答に戸惑っていると、またレイラが話し始めた。
「私はここに捕らえられてからずっと自分に問いかけていた。もしあと少し、もう少しだけ生きられるんなら何がしたいだろうと。そして気付いたんだ。私は外の世界を見てみたい。王族という地位も、任されている公務もどうだっていい。このまま閉塞感と息苦しさを感じ続ける毎日はごめんだ、とな」
聞き方によってはただのわがままにも聞こえる台詞だ。だが文字通り寿命をすり減らしながら生きている俺にとって、レイラの言葉は琴線に触れるものがあった。心を揺すられるような気持ちだった。
俺は本心でどう思っている? もし俺の寿命があと一か月だとしたら、今と同じ行動をしているだろうか。すぐに答えは出ない。だが、少なくとも……。
「分かりました。条件を飲みます。だから、私と口づけを交わしてください」
一瞬レイラの身体が震えるのが分かった。どんどん顔を紅潮させていく彼女は無言でうなずく。
俺は改めてレイラに手を差し出した。唇を固く結んだ彼女は、俺の手を握り、立った。
視線のすぐ先にレイラの瞳がある。その灰色の瞳は朝露のように潤んでいて、じっと俺の方を見ている。すぐ下の双丘、いや聳え立つ二つの山に視線が吸い込まれそうになるが我慢する。
二人分の命を背負う覚悟は決まった。
俺はしっかりレイラの目を見返した。躊躇っている暇はない。時間を掛ければあちら様の気が変わってしまいかねない。
俺は彼女の両肩に手を置き、身体を寄せて唇に触れた。一瞬レイラの身体が強張る。初心な反応が可愛い。
その時、暖かなだるさと、心地よさが俺の身体にのしかかった。この感覚はフィアールカと最初に口づけを交わしたときの感覚に似ている。
その直後、目を開けていられないほどの眩い光(俺のチ〇コ経由ではない)がレイラのお腹からあふれ出て来た。
「な、何だこの光は! 貴様のチ〇コが私に感染ってしまったんじゃないのか!」
俺を性病みたいに言うな。
慌てている本人などお構いなしに、光に続いて正三角形がゆったりと出現した。これが、五芒星のパーツ……!
ゆっくりと俺の方に進んでいた幾何学的な三角形は、やがて俺の中に沈み込むように収まって行き、同時に光が消えていった。
レイラは目を白黒させて俺の腹を見たり、触ったりしている。状況が呑み込めないのは無理もない。自分の腹から得体のしれない物体が出て来たと思ったら、今日知ったばかりの男に移動したのだ。俺がこいつの立場でも同じ反応をするだろう。
レイラは驚いたような顔をして言った。
「貴様、意外と腹筋バキバキだな」
「呑気か」
「カッペー、アンタやっぱりチュー上手いわね。毎日枕で予行練習でもしてんの?」
横でつぶさに俺の表情を観察していたクーが言った。
「してねえよ」
したことはあるけどな!
「ま、浮気現場はしっかり見たことだし、早く帰ってフィアールカお嬢様に報告しなきゃね。あー楽しみ」
「おい止めろ! 俺は疚しい事など何もしてないぞ」
「でもチューしたじゃん」
「パーツを取り出すためだよ。仕方ないだろ!」
「あんなにデレデレしてたのに」
「し、してねえし!」
「チ〇コも光らせてたのに」
「お前のせいだよ!」
「おい、か、カッペー」
レイラがもじもじしながらこちらを見ている。
「その、責任は取ってもらうからな」
何だその嫁に来るみたいな言い方は。最高だな。
「分かっています。言った以上は必ずお守りします」
俺は大きく頷いた。それを見てぎこちなくレイラが笑った。安心したように目を細める。
「これからよろしく頼む」
その安らいだ表情を見ていると「守ってやりたい」欲が湧いてくる。女を守ろうとするのは男の本能なのかもしれない。それはそうと……。
さて、どうやってこの国を出ようかな!
レイラが国外に出るにあたり、激しく一悶着あったわけだが、その話は割愛する。
何はともあれレイラを仲間に加え、無事ミーアの国を出ることが出来た。ただ問題が一つあった。レイラと一緒に行動し始めてから、フィアールカの機嫌が死ぬほど悪いのだ。
帰りの馬車の中でも、俺はずっとフィアールカの隣に座らされ、端っこに押し込まれていた。そのくせ話しかけても口を聞いてくれないし……女心というものは難しい。
こいつはひょっとして俺の事が好きなんだろうか? いや、まさかな。独占欲が強いだけで、恐らく俺を『所有物』みたいに考えているだけだろう。
さて、これからどうなることやら。
次章へ続く
お読みいただきありがとうございました。
次章についてはほとんど未定ですが、
「カッペーの故郷編」か「魔法学園編」
のどちらかにしようと思っています。




