9、ポスフォード侯爵家 ⑤
マリーの話以降、慌ただしい時が過ぎていく。交換制度は2ヶ月ほどで終了すると聞いていたブリジット達。彼女達は言いつけ通り、情報収集のみを行なっていた。
だが、あからさまに情報収集をし始めれば侯爵家の使用人に不審だと抱かせてしまう。そのため表立って動くことはなく、今に至っている。
勿論、表立って動くことをフランシスに禁止されていることが一番大きいのだが。
今日も通常通り仕事を任されていた。いつもと一つだけ違うことを挙げるのであれば、ブリジットが一人で仕事をしている、という事であろう。
なんでも、今日共に仕事をするはずだった使用人が、急遽体調を崩したらしい。朝礼時シンディより、一人で仕事を遂行する様に、と指示が出たのだ。
と言っても、何をすべきなのかはシンディが教えてくれたので問題なく仕事に取り組むことができた。また、一人でもできる量だったので、彼女は黙々と仕事を終えていた。
今日の指示された分の仕事を終えシンディの元に向かう途中、偶然に掃除用具を持ったシンディとマリーに出会う。仕事を終えたことを伝えたブリジットに、シンディは一つため息をついて話しかけた。
「随分と有能なのですね。流石ですわね……」
彼女曰く、ポスフォード侯爵家の使用人の仕事量としては1日かけて終わらせる量だったという。そんな仕事を後数時間とはいえ、時間を残して終わらせるのは賞賛に値すると思った様だ。
「では、マリーと共に図書室を掃除を任せます」
「わかりました」
「注意事項はマリーに聞く様に」
そう残してシンディはブリジット達と別れるのだった。
そしてマリーと二人で掃除用具を分担して持ちながら、図書室に向かう。図書室には壁一面大量の本が置かれている。本が置かれている棚はブリジットの背の2倍以上はあるのではないかと思われる。真ん中には休憩用か、テーブルや椅子がいくつも置かれていた。
伊達に、侯爵家を名乗っていない。特にこの本棚にある専門書は非常に高価なものであり、ブリジットにとっても簡単に購入できるものではなかった。ブリジットはその本の量に目をみはる。
娯楽小説などとは値段も価値も違うのだ。この本棚には価値の高い専門書ばかりであった。
「この部屋には専門書しかありません。本棚の本には手を触れない様に、と旦那様からの指示です」
マリーが注意事項を話してくれる。いつもの様な軽さはなく、その時だけは真面目な顔で話している。
簡単にいうと、本を触るな。ということらしい。
「本棚の奥は掃除されないのですか?」
「旦那様が好きでよく本の整理をされているのよ。だから触らなくていいわ」
きちんと伝えたぞ、と言わんばかりに掃除を始めるマリー。ここは守るべきだと思い、静かに仕事を始めるのだった。
掃除中、ふと違和感を感じたのはいつだろうか。ブリジットは背筋が凍る様な不快感を感じていた。
(何かしら、これ)
そして思い出す。似た様なことが一度あった気がするのだ。
両親から聞いた話だ。彼女は幼少の頃に一度だけ、大泣きをしたことがあるらしい。その事については、彼女ははっきりと覚えていた。
その時の感覚とそっくりだったのだ。
両親はその後一時期、私を怯えた目で見る時があった。何故かその時のことはしっかりと覚えていた。
あれは何だったのだろうか、と思う。彼女もその件については両親に聞くこともなく、過ごしてきた。だが、何かがあるのではないか、という気持ちは拭えなかった。
だが、どう話すかというところだ。正直、勘のようなものだ。そんなものを報告できるのか。
悩みながら掃除をしていると、今まで以上に違和感を感じる箇所がある事に気づく。その本棚の手前に立って掃除をしていると、一つだけ古い本が置かれていた。
その棚は様々な魔術系統の専門書が置かれているようだ。だが、その古い本一冊だけは違った。
(これは……古代語かしら?)
数百年前に使われていた言語だ。歴史学者や学の深い貴族、専門家のようなごく一部の人たちしか翻訳することはできない。ブリジットは以前王都の図書館で読んだ本の中に古代語があったので、それを覚えていた。
だから古い本の背表紙も読むことができたのだ。
「魔道具……」
つい声を出してしまうブリジット。慌てて周囲を確認するが、マリーはブリジットの反対側で鼻歌を歌いながら掃除をしている。マリーが近くにいなかったことにホッとする。
その非常に怪しい本を横目に見ながら、彼女は掃除を続けるのであった。
ブリジットは有能ですが、知識は浅く広くが多いです。
その割には何でも知ってるので、超人です。
次回は明日、明後日のどちらかで更新します!




