15 何も無い自分から
ゆっくりと、フローラさんが階段を上がってきた。
「⋯⋯あら、意外ね。てっきり部屋に逃げ込んでそのまま逃走するものだと思ってたわ」
フローラさんは俺が待ち構えていたことに少々面食らったようだ。
「そんな回りくどいことしませんよ。逃げるつもりなら初めからあの部屋に瞬間移動してます」
俺は余裕の表情を取り繕い、フローラさんの瞳を真正面から見つめる。
「⋯⋯そういえば。あなた、私の所へ来てから1度も能力を使っていないわね」
よし、少し冷静になって、俺の意図に気づいてくれたみたいだな。
「そうなんだよ。俺には頼れる味方がいるからな⋯⋯ハハッ」
俺の煽りともとれる発言に、ピクッと、フローラさんが反応する。
「何が言いたいの!?」
「がっ!?!」
超高速度で繰り出された茨の鞭の攻撃を足に受け、俺は勢いよく、地面に頭から倒される。
「あなたが⋯⋯悪いのよ!? ⋯⋯あなたが、私の期待を裏切るから⋯⋯!?」
「⋯⋯そうだな。俺が、みんなを頼ってばかりだから⋯⋯それでいてフローラさんには頼らなかったから⋯⋯」
「⋯⋯っ!」
フローラさんが俺の言葉に動揺する。
「⋯⋯知ってたの?」
「ああ、初めからおかしかったんだ。魔王の行動が気になっていたのなら、まず魔王本人に事情を聞きに行くはず⋯⋯でも、あんたはそうしなかった⋯⋯だろ?」
(だが、わざわざ翔太に聞いたことを報告しなかっただけの可能性もあるんじゃないか?)
それは俺も考えた。⋯⋯けど、
「完璧主義のフローラさんが、俺に協力を求めたのに報告を怠るとは思えなくてな」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
依然としてフローラさんは黙ったままだ。
「そこで俺は予想したんだ。フローラさんは、魔王が浮気をしているなんて、はなっから考えてなかったんじゃないかって⋯⋯」
実際に浮気なんてしてなかったが、重要なのははそこじゃない。
「フローラさん⋯⋯いや、フローラが求めていたのは、魔王から⋯⋯愛する人から、頼られることだったんじゃないかって」
自分で言っといてなんだが、なんとも身も蓋もない話だし、雑な推理だとは思う。⋯⋯でも、ここで自身の見解を述べそびれたくもなかった。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
しばしの沈黙。
やがて、フローラの方から、ポツポツと語り出した。
「⋯⋯そうよ。私は、あの人のずっと隣にいた。⋯⋯そして、これからもそのつもり⋯⋯だけど、100年前よりも、私に頼ってくれることが少なくなってしまった。⋯⋯理由は、沢山あるし、一応納得は出来るけど」
彼女の瞳には、光る雫が見える。
「頼ってくれないだけならまだ良かった⋯⋯けど、私が気づいた時には、あの人は自分が今していることについても、全く話してくれなくなってた」
⋯⋯フローラの言葉を反芻しながら、俺は自問自答をする。⋯⋯普段から魔王城内に対して気に掛けていたのなら、こんなことにはならなかったのではないかと。
「そうか。⋯⋯なら、これから沢山話すといいよ。相手は死人でも行方不明でもなんでもないんだから、2人で、ゆっくり」
「⋯⋯」
ふとフローラが、こちらを見る。
「裏切っといて、何を今更って? いやいや、俺は別にどちらかについたわけじゃないからな」
「⋯⋯いや、いつまでそんな体制でいるのかしらと思って⋯⋯プッ」
「⋯⋯あ」
話すことに集中していて気にしていなかったが、俺は今、フローラの前で無様にも床に這いつくばっているところだった。
(あはは! 翔太って、本当に面白いよな! あははは!)
今まで黙りを決め込んでいたシルフも、フローラに続いて笑いだした。
「⋯⋯2人ともなんだよ。こっちは命がけだったっていうのに」
「ごめんなさい。少し、安心してしまって⋯⋯」
「⋯⋯まあ、いいですよ」
安堵の溜息を吐いて、立ち上がる。
そのまま流れるような動作で、フローラの手を取って、扉の前まで瞬間移動する。
「さあて、ここからは魔王のターンだな!!」
俺は勢いよく扉を開けて、フローラを連れてみんなが待つ部屋の中へと足を踏み入れた。
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ねむ! 無茶苦茶ねむい!(現在23時44分)
……ということで、作者はもう寝ます!




