16 このまま何事もなく……えぇ……
「今までありがとうフローラ。そして、これからもよろしく!」
扉を開けて1番に目に入ってきたのは、魔王が膝をつけて花束をフローラに向けて捧げている姿だった。
(うわーお。初めて見たな、こんなベタな光景)
(そうだな⋯⋯ちなみに私は花より団子派だぞ?)
(ああ、うん)
シルフのわりとどうでもいい話に生返事で返しながら、夏蓮とコレットの元へ向かう。
「⋯⋯また派手にやられたね」
「うぅ、なんだか気持ち悪くなってきた」
後方支援組がそれぞれ感想を述べつつ、負傷した箇所に治癒魔法をかける。
「すまんな⋯⋯そしてありがとう、2人とも」
俺は多くの人に助けられてここにいる⋯⋯それを確認するための一言だ。
「あらあらあら、またしょーちゃんが女の子を侍らせてるわよ」
「ほんとだ、いつか包丁かなんかで刺されるぞ」
「うぐ⋯⋯俺だって、好きでやってるわけじゃないし⋯⋯」
魔王のは、妙に現実味のある言い方だな。
こちらに何気なく話を振ってきたフローラだが、サプライズに感動して、泣いてしまったのか、目の周りが赤かった。
「はい、これで終わり!」
「こっちも終わったわ」
「お、サンキュー」
コレットと夏蓮による治療が終わったので、身体の状態を確かめるために腕を回して3回ほど飛び跳ねる。
⋯⋯うん、特に異常のない、完璧に健康な状態だな。
「これ、レンちゃんが作ってくれたの?」
「あ、はい。翔太の指示で」
先程まで魔法に集中していたレンがようやく口を開く。
「へぇ⋯⋯ねえ、もっと作った時の話を聞かせてくれない?」
「もちろんです!」
フローラが改めて、夏蓮の作ったケーキをまじまじと眺める。
「おい、どういうことだ? 俺は別にこんなにデカいケーキを頼んだ覚えはないぞ?」
夏蓮とフローラが料理トークに夢中になっている間に、魔王が俺に耳打ちしてくる。
「ああ、そのことか。⋯⋯なあに、魔王のプランじゃ色々と不安な点が多かったからな。俺なりに付け足してみただけだ⋯⋯お節介だったか?」
「いや、そんなことはねえ。あいつの笑顔が見れるならそれが最善だろうからな」
なるほど。とことんフローラのために今日という日を用意しようとしたわけか。⋯⋯その割には抜けている点が多々あったが。
「うん、終わりよければすべてよしだもんな。ケーキでも食うか!」
俺、生クリーム苦手だけどね!
「もうびっくりしましたよ。フローラさんがこっちに向かってきてるってわかった時は!」
騒動にも一段落がつき、部屋にいる全員で談笑している。⋯⋯うん、あの時は本当に怖かった。
それまで黙々と料理を食べ続けていたシルフがふと、会話に入ってくる。
「⋯⋯そういえば。フローラ、お前はあの時地鳴りを起こしてたのか?」
あったな、地鳴り。あれは、異世界では体験した事の無い恐怖だったな。
⋯⋯と、そんなことを1人で思いおこしていると、フローラがきょとんとした表情で、返答を寄越してきた。
「え? 私はそんなことしてた覚えはないんだけど?」
⋯⋯え。
魔王夫妻を除いた4名が同時に顔を見合わせる。
「どういうこと⋯⋯⋯⋯だ!?」
「ええぇ!?」
突然、地響きが俺達を襲った。今度は立って居られなくなる程の、大きなものだ。
「げっ⋯⋯もう来たのか」
「来たって!? 何が!?」
この非常事態に余裕の面持ちで突っ立っている魔王に焦燥混じりの質問をぶつける。
魔王はさらりと、さも当然のように答えた。
「―――暴走した海龍だよ」
「⋯⋯こんな最高な日に、ふざけないでよー!!!!」
城内に、フローラの絶叫が響く。⋯⋯この人も大変だなあ。
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安定の真夜中……次回はちゃんと太陽が出ている間に投稿したいですね!




