6 ほんとに出来るのやら……
いよいよ、明日は式典が行われる。ちなみに、地球での明日の曜日は、バリバリの平日だ。しかし、俺達は平然と朝イチから参加できる。
「だってもう夏休みだから! ⋯⋯ってもう夏休みじゃねえか!!」
俺の高校一年生での、貴重な夏休みが⋯⋯。まあ家にいても特にやることないからいいけどね!
それで、店を開くことについて、俺は1つ疑念を持っている。疑念というより、不安か。
そもそも魔王軍というのは、100年前に起きた大戦の主犯とされている、魔王とその魔王が生み出した不死身の悪魔達のことだ。100年前についてしまった悪印象はなかなか拭えず、しかも大戦の影響で魔王軍は散り散りとなり、現在確認出来ているのはとても少数だということだ。
まあ余談はここまでにして⋯⋯ようするに、そんな今でも恐れられている人物が店を開いても大丈夫なのかということだ。人が来ないだけならまだいいが、石とかゴミとか投げつけられた場合はさすがの俺もちょっと考えるよ?
『⋯⋯うむ! 味、食感、火加減ともに問題無し、合格です、翔太さん!』
「ああ、疲れた」
などと考えているうちに、カラスさん率いる影神の眷属の皆さんからの最終審査の結果が終わったらしい。良かった⋯⋯これで安心して商品は提供できるな。
「いやー、初めはどうなることかと思ったけど⋯⋯無事に終わって良かったよ」
「ああ、数をこなしていくうちにどんどん手際も良くなったしな」
結局、前日までかかってしまったのはなんだか残念だが、目標だった鉄板料理は全て作るれるようになった。
『それでは皆さん、今日は解散です。安全にお帰りください』
カラスさんが他の眷属のひと達に呼びかけている。
(俺達も帰って寝るか。明日のためにも)
(そうだな⋯⋯私も流石に疲れた)
「ふわぁ」と隣でシルフが欠伸をしている。⋯⋯にしても、こんなに協力的なシルフは初めてかもしれない。
「今日はありがとな、シルフ。カラスさん達も、ありがとうございました」
「ん⋯⋯」
『いえいえ、私達も楽しめましたよ。あれだけの数で真剣に悩んだのは久しぶりでなんだか懐かしかったですし』
「へえ、なんかちょっと意外です。⋯⋯っておい、シルフ寝るなよな」
ことん、と俺の身体にもたれかけてきたシルフを、俺は難なく抱き上げる。⋯⋯他意はない。
『ああそうだ翔太さん、1つだけ訊きたかったのですが⋯⋯』
「はい? なんでしょう?」
『あなたは何故、そこまで頑張れるのですか?』
「えぇ、何故って言われても⋯⋯」
『聞けば、あなたはこちらの世界に来てから誰かの頼み事を聞いてばかりの生活だとか。全く自分の希望を通さないから申し訳ない、と魔王軍の皆さんは言っておりましたよ』
ああ、そんなことか。
「⋯⋯別に、いいんすよ、俺は。正直言って、異世界でやりたいことなんてないし。普通の人間だった俺をわざわざ呼んでくれたんだし、その期待に応えるためにも、これからもじゃんじゃん頼ってもらいたいですね」
まああんまりにも辛いのは勘弁なんだが。
『ほうほう、そうでしたか。⋯⋯ではこちらを渡しておきますね』
そう言って、どこから取り出したのか、カラスさんは自分の足元の椅子に黒色の時計を置いた。
『いざと言う時にはこちらを壊していただきたい。うちの主が翔太さんの元へと飛んで行きますので』
「え、ええっと⋯⋯⋯⋯ありがとうございます」
少し迷ったが、受け取らないのもなんなので、一応貰っておくことにした。
『それでは私もこれで』
「あ、はい。お気をつけて」
俺がそう言い終わるか終わらないかのうちに、カラスさんは影となって消えていった。かっこいい退場の仕方だなあ。
さて、シルフを風呂に入れて寝るとするか。⋯⋯頼むから起きてくれよ? いくらなんでも体は洗えないからね!?
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