幕間 魔王城編
ろくなことがない魔王回です
今は魔王城の時計で44時半⋯⋯向こうで言うところの22時30分だ。
「ほれ翔太、野菜をちゃんと食べないと大きくなれないぞ」
「俺はもう家で夕飯食べたっつーの⋯⋯無理矢理食べさせられる前に食っとけ」
「うぅ⋯⋯人参嫌いなのに⋯⋯」
「それには全面的に同意するな! あの中途半端に甘い感じが嫌で嫌で仕方がない」
「うんうん、わかればいいんだわかれば⋯⋯うぇ」
「⋯⋯嫌いなのはわかるから、吐きそうな顔して食うなよ⋯⋯」
テーブルを挟んで向かい側、翔太とシルフが楽しそうなやりとりが見える。
夕方に魔王城に戻ってきて、翔太が酷く落ち込み、フローラとギムギスはなんかうるさいし⋯⋯こうして落ち着くまでに随分と時間がかかった。
「翔太、風呂!」
「おう、なんか男らしいな、シルフ」
シルフが夕食を食べ終えて、翔太と共に部屋を出る。
⋯⋯⋯⋯。
「よし、今日こそは2人の馴れ初めの記録に行くわよ!」
「あいにもかわらず張り切ってますね⋯⋯」
「ギムギス、こうなったらこっちも乗った方がむしろ楽なんだぜ?」
フローラは何故かわからないが、よく翔太とシルフを観察している。ギムギス曰く、「あの人間嫌いなシルフが翔太と上手くいっているのか気になるのでは?」との事だ。
まあそこら辺は置いといて、俺はテーブル下から、道具を次々と取り出す。
「とりあえず、今日はカメラを用意したぞ!」
「おお⋯⋯」
「あれ? 前回も用意してませんでした?」
ギクッ。
「⋯⋯確かに、前回も用意したが⋯⋯曇って意味がありませんでした! そこで、今回はレンズの表面に曇止めを塗っといたぞ!」
「それ、単に曇止めの魔法でもやっとけばよかったのでは?」
「⋯⋯あ」
「やっぱり忘れてたのね」
しまった⋯⋯。魔王なのにこんなことすら忘れていたとは⋯⋯「困ったらまず魔法!」がモットーな俺らしくないミスだ。
「やだこの人、なにも考えてないわ。こんな人と結婚してよかったのかしら」
「そこ! 冗談だってわかってるけど辛いからやめて!」
俺に聞こえる声でフローラがギムギスに耳打ちしていて、俺がそれに全力で突っ込んだ。
とりあえず、俺達はカメラを持って風呂場へと向かった。
「よし、ステルス魔法は完璧だな」
「し! なにか聞こえるわ」
突入しようとした俺達を、フローラが手で制した。
「うーん⋯⋯? どれどれ」
俺達3人は壁に耳を立てて中の様子を探る。
『うええん! しょうた〜』
『泣くなシルフ、大丈夫だって!』
『だって! だって⋯⋯白くて苦いの飲んじゃったよぉ〜』
『「ボディーソープ」な! 頼むから紛らわしいこと言わないでくれ!!』
⋯⋯⋯⋯相変わらず楽しそうだな。
「よし! 録音完了っと」
「フローラ様?」
「ああ、今日はこれでおしまい⋯⋯というか、当分の間、なしでいいわ」
そう言って、フローラはスキップを踏みながら上機嫌に去っていった。俺達は彼女を見ながら話し合う。
「なんだったんだ? 結局」
「さあ⋯⋯? まあ、考えられることはありますが、まだ魔王様には言わないほうがよろしいかと」
「え、なんだよそれ⋯⋯怖いな」
俺達はそのまま、バレないように風呂場をあとにした。
ただ、俺には1つだけ心残りがあった。
このビデオカメラ⋯⋯わざわざ買ったのに、まだ全然使ってない。
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