0 酷使
「⋯⋯ふぅ」
汗を拭う動作をして、1つ息をつく。⋯⋯別段汗をかいているわけではないし、そこまで疲れたわけでもないが。まあ、なんというか、それだけの仕事はしたということを示したかったんだ。
「おーいレン、これで全部か?」
部屋を出て、階下にいる夏蓮に確認をとる。
「うん、全部だよ。お茶を入れたから、少し休憩しようか」
「おう」
海龍を倒し、魔王とフローラの仲が元に戻ってから、1週間くらい経った。
俺は今、これから一人暮らしを始める夏蓮の手伝いに来ているわけだ。
「それにしても⋯⋯広いな。もちろん、1人で住む分にはだけど」
お世辞ではなく、本当にそう思う。
「1人で住む分には」などと強がりを言ってはみたが、ここはざっと10人くらいは住めそうな広さと、そこらの人が一瞬たじろぐほど高級そうな装いをした一軒家だった。
隣で翠髪の幼女がうんうんと頷きながら、紅茶の匂いを嗅いでいる。
「翔太もガンガン使わせてもらうんだぞ」
「いや、いいよ⋯⋯迷惑だろうし」
シルフの助言は一言二言で採用するわけにはいかない内容だ。⋯⋯自由に使えると、色々と便利だろうなあとは考えてしまうが。
「ふふっ。別にいいよ、2人も自由に使って」
「おお⋯⋯助かる」
「基本は、2階の好きな部屋を使ってね。それ以外ももちろんある程度は好きに使ってくれていいけど⋯⋯あ! でも、ボクに連絡を入れるのは絶対だからね?」
「ああ、もちろんわかってるよ」
家に友人を招いている時とか、心理的に1人になりたい時とかがあるだろうしな。
「これで寝坊しても少し安心だよな!」
「おい、使い方が酷いぞ」
確かに学校には自宅より近いんだけどな。
「そういえば、もうすぐ翔太は旅行に行くんだっけ?」
「旅行というか⋯⋯まあ、そうだな」
エリシャに誘われた混霊島(もう名前から嫌な響きしかしない)に行く日が数日後に迫っていた。
「家族には友達の家に1泊⋯⋯って言ってどうにかするか⋯⋯」
「コレットの家族に失礼のないようにね」
「任せろレン。私が着いているからな」
「⋯⋯うん、なら安心だね!」
シルフが得意げな顔をしている。⋯⋯どっちかと言うと俺が保護者役では?
「向こうで困ったら誰かに相談するんだよ? 翔太は1人じゃないんだから」
「わかってるって」
「1人じゃない」のは常にだけどな。
「あと、あんまり浮かれて変なことはしないように」
「わ、わかってるよ!」
これには、「お前は俺の母ちゃんか!」と突っ込まざるを得なかった。
外からは、今日も蝉時雨がよく聞こえてきていた。
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ということで、バカンス編スタートです! ……ああ、青春してえなぁー。




