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50話

「さあ、ぬいで下さい!」


 屋敷に戻ると、問答無用にヴィクトルは言い放った。


「はあ!? 女性にむかって、なにいってるの!」


 私はあきれはてて、彼を睨みつけた。


「ま、間違えました。……ドレスをお脱ぎください。ミア様」


「ちがう! そこじゃないでしょ!? 丁寧口調でいわれると、よけいに恥ずかしいわ!」


 私は頭が痛くなった。

狼の背中からおりると、近くのソファーにドスンと座る。

 

 ズキンッ!


「っ……!!」


 さっきまでは、なんとも感じていなかった足の甲が、動かしたために痛みが走る。ドレスの裾を少しだけ上げると、右足をみてみる。

なんと、赤く腫れ上がっていた。


「うわ~、こうなっちゃったか~」


 少し熱い紅茶がかかったくらいだったが、ミアの肌はそれほど丈夫に出来てはいないみたいだ。

これは、困ったな。


「火傷をあまくみるなといったはずです。後で水ぶくれができたら、針をさして膿を出すことになるんですよ」


 ヴィクトルは怖いことをいってくる。

針で膿を出すところを想像して、こわくなる。本当にそうなったら嫌だ。


「足をだして」


 ふいに、ヴィクトルがいった。


「なに? どうするつもり??」


「いいから、早く!」


「も~う、怒ることないじゃない。なんなのよ~」


 私は急かされるまま足をだした。

すると、ヴィクトルはあろうことか、私の右足を長い狼の舌でペロリとなめた。


「ひえぇっっ!」


 温かくざらっとした質感が肌につたわってきて、私はゾクリとする。


「突然、なにするのよ!!」


 すぐさま私は足を引っ込めようとしたけど、それをヴィクトルは強い力でゆるさなかった。


「じっとして。こうすれば、早く治る」


 続けざまに、火傷の部分をなめられる。その度に私はゾクゾクして落ち着かない。


「も、もう、いいから! 誰かが見たら変に思われちゃうから!!」


「そんなことは、今はどうでもいいでしょう?」


 いつもは冷ややかで、人に対して壁をつくってるくせに、なんでこういう時は頑固なんだろう。


――ギイィィ。


突然、部屋の扉が開くと同時に、ある人物がひょっこりと顔をだした。


「おや、悲鳴が聞こえたと思ったら……これはこれは、お邪魔しちゃったかな?」


「!?」


 それは、今一番会いたくない人物だった。


 扉から顔をのぞかせた人物は、レオン・クロフォードだった。


「いや~、ミア嬢が心配できてみれば、なんとヴィクトルくんと一緒とは」


 鼻歌でも唄いそうな調子で、レオンは私とヴィクトルの姿をまじまじと見つめる。

 私はハッとしてヴィクトルに舐められていた右足を、サッと引っ込めた。

 よりにもよって、なんでこの男がここにいるのだろう?


「前々から気になっていたんだけど、君たちって、どういう関係なの?」


 私がいるソファーの反対側にレオンは座ると、スラリと伸びた長い足を組んで、唐突に聞いてきた。


 レオンは、ヴィクトルとは全然タイプは違うけど、やはり美男子で、黒豹を思わせる雰囲気と、人をいぬきそうな鋭い目に正面からみつめられると、頭が真っ白になる。


「どういう関係もなにも……、私は主人で、ヴィクトルは私の召使いよ」


 ようやく口にできた言葉は、誰がきいても弱々しく、頼りないものだった。


「召使いねぇ……。ミア、君は本当にそう思ってるの?」


 ねっとりした口調が私の機嫌を逆なでした。


「いったい、何が言いたいの?」


 キレ気味に私はたずねた。

 なんてたってこの男には、最低一度は殺されている。いや、証拠はないがもしかしたら二度かも。少しでも隙をみせたら、つけこまれるに違いない。


「そんなに気にさわることかい? たかが、下僕の存在なのに。君は、口で言ってる以上に、ヴィクトルくんのことを気にかけている。違うかい?」


「だから何? それが、悪いことなの? 只でさえヴィクトルは、妹みたいに思っていたアーミラを亡くしたばかりよ。今は気にかける人がいるべきでしょ?」


「プッ、ククク……。むきになると、鼻の穴が広がるのは、君の悪いクセだな」


「!!?」


 私はとっさに自分の鼻を手で隠した。


「アハハハッ! 図星みたいだね。思っていた以上にミア嬢は面白い」


 くっ! この男、私で遊んでるの!?


 そう思うと、顔がカァっと熱くなる。

 すると、私の前に誰かが立ちふさがった。


「それで、ミア様に何のご用でしょうか?」


 見上げると、ヴィクトルが狼からいつもの姿に戻っていた。


 いつの間に変身したのかしら?

私は、場違いにもそんなことを思ってしまった。


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