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没落令嬢vs金策  作者: yononaka


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没落令嬢vsリザルト

 ボスを倒すと奥側の壁が崩れ、現れた扉を開きますわ。


 その先には階段。

 記憶にあるとおりであればここが脱出口。階段を上がっていくと頭上に扉。落とし戸って奴ですわね。


〝ぎ、ぎぎ、ぎい〟


 中々の重さ……。こりゃすこし何とかしないと状況によっては出れなくなりかねませんわね。


 で、ここは──井戸の横に出ましたわ。


 ……井戸の横に?


 思わず紋を見ますわよね。

 これですの。これがやったんですの?


 とりあえずロビーに戻り、例のアーチには湖面のようなもの──ポータル(入口)であろうものが未だ残っていますわね。

 ……どう考えても願ったから出てきたもの。

 いえ、領地が栄えるものであれば叶えてくれる……?


「つまりッ!!」


 思わず声が出てしまいましたわ。ホホホ。

 ですが止まりませんわよ!


「金塊出ろ出ろ……」


 ……。


「金塊、金、銭出ろ出ろ……」


 ……。


 手を前に念じてみますけれど、特にな~~~んにも出てきませんわね。


 願いを叶えてくれるってんでしたら、そりゃハイエンド陛下もそうやって使いますわよね。

 魔軍と人族が今も争っている以上、単純に願いを叶えるものではないのは確定ですわ。

 できるんなら手を取り合って、愛に全てをって感じの世界ができあがっていますもの。


 となると、領地を栄えさせる。ううん。

 あ、そうか!


 わたくしは外に飛び出て開けた場所で手を向ける。


「金山銀山金鉱脈銀鉱脈出ろ出ろ……」


 出ない。


「良い具合の薬草出ろ出ろ……アニナグリ草(高級薬草)出ろ出ろ……」


 出ない。


「じゃ、ジャガイモ出ろ出ろ……」


 次の瞬間、紋が淡く光り、走り、地面の一部に絡みつき、

 そして光が消えるとジャガイモ畑が出現していますわね。


「出やがりましたわ」


 といっても、領民たちが作る畑よりも結構お粗末な感じ。

 ここから推察できることは、


 ●わたくしの知っているものしか出せない。

 ●この土地で存在しそうなものしか出せない。


 くらいのもの。


 それと、魔物を倒したら赤黒い光が吸われてもいましたわね。

 で、ジャガイモを願ったら光が出た。端的に考えればあの光が原材料なんでしょう。


 何も考えずにバカスカ打ったら空っぽ(カラッケツ)になってしまいますわね。


 ダンジョン行きのアーチ……あのポータルはいつまであるのかしら。

 消える前にもう一週くらいしておくべきですわね。

 そう。消えたら勿体ない。今がチャンス。小銭チャンスですわよ。



 ✘✘✘



 あれから結局数周してしまいましたわ。うまいうまいうますぎる。金銭効率がマッハですわよ。


 何周してもポータルも消えないですわね。単純なチェックってだけなら必死に周回する必要はあったかはわかりませんが、これもまた最低限の検証ということで。


 魔石も、魔物の遺品(ドロップ)も、そもそも魔物やボスも入れば自動的に補充されていましたわ。

 一階層しかないダンジョンでボスを倒せば成長(変化)が起きる。

 しかし、わたくしが出したあのダンジョンの形は変化していない。その点だけ知識と違いますわね。


 これは『わたくしが知っているものしか出せない』って仮説の証明になるかもしれませんわ。


 わたくしはダンジョンが変化するということは聞いたことがあれど、

 変化したことをこの身で、目で耳で知っているわけではありませんもの。


 でも今はそれよりも、拾ってきたものやらなにやらを換金して当座の食料だとか燃料だとかを仕入れないといけませんわよね。

 隣町まではそう距離はありませんし、全力で走れば行って戻っても夕暮れまでには戻れるはずですわ。

 拾ったドロップ品を鎧が収められていた袋にいれて、いざ出発ですわーッ!!


 ……いや、待てよ。

 出発。って、アーチにあるポータルはどうするんですの?

 いない間に魔物が溢れてきたらヤバくね、ですの。


「と、閉じろ閉じろ……」


 手をアーチに向けて念じると、光が手の甲に戻っていく。


「おお」


 思わず感嘆。

 一応出口の落とし戸を見に行く。落とし戸はなくなってる。一揃いってことのようですわね。


 ここまでわかれば十分。安全も確保。

 今度こそ、いざ出発ですわーッ!!



 ✘✘✘



 目指すは愛する我が領地オルドホルムから南西にある街、アドルイン。


 冒険者ギルドやら何やらが一通り揃っている、自称都市ってところですわね。

 冒険者をして色々と巡ったあとだと『うーん。都市……。都市かなあ……?』と思ってしまう程度の大きさですわ。


 目指して、進んで、

 ──というわけで、街ですわ。


 特に道中なにもございませんわ。賊に襲われるとかもありませんのよ。


 なんでって、あんなド辺境に賊なんて出るわけありませんわ。

 彼らにとっての獲物もいないですし、なんだったら魔物ではない普通の害獣が闊歩してるから安全ですらありませんわ。


 そこらの賊vsそこらのイノシシでしたらイノシシのほうが強いんですのよ。田舎の常識ですわよ。


 この辺りだと唯一『大きい街』と呼べるくらいの場所で、ここが他国との交易の始点だったりもするんですの。


 といっても、まあ、栄えている交易路の中核であれば本当の意味で『都市』を名乗れるのでしょうけれど、そうではないということはつまり交易路の価値としても……。

 大きな声じゃ言えませんけれど、超帝国と他の国家との関係性を否応なしに伝えてきますわよねえ。


 目指すは冒険者ギルド。

 ここのギルドには買い取りセンターも併設されていますのでそこで買い取っていただくことに。


「おじゃましますわよおーッ!!」


 ばーんと開け放つ。

 そしてホーッホッホと高笑い。


 冒険者たちはそこそこいますわね。

 半分弱が「なんだこいつ」って目で、もう半分弱が「うわ」という目で見てきやがりますわ。

 残りの少しはわたくしを許容してくださっているような視線。


 この辺りでは

『冒険者をやるしかなくなった没落した貴族令嬢』

『腕力で何でも解決するヤバい女』

 というレッテルが貼られていますわよ。


 そもそもわたくしに与えられている通り名の片方が『没落令嬢』ですもの。

 尊敬を集めているとは言い難いですわよねえ。


「げ、雑思考のライヒライヒ・ザ・ノーシンク!!」


 そして早速、残りの片方の通り名。


「げ、とはご挨拶ですわね」

「……いらっしゃいませえ」


 受付嬢とは古なじみ。彼女が新入りの頃にわたくしもここで冒険者登録しましたのよ。


「冒険者をご趣味にしてらっしゃるお貴族様がどうしたのかなあ。

 この街を出て随分色んなところで名声を得ていたと聞いているけど」

「ホホホ、今はただの貴族ではなく荘園主ですわ」

「え、家に何かあったの?」


 先ほどまでの憎まれ口と態度は即改められる。ああ。家族が何かに襲われたとか思ったのでしょうね。

 この子はこういうところで優しくなっちゃうところは変わってませんのね。ホホホ。


「普通に夜逃げされて、強制的に後を継がされただけですわよ」

「……それは、ご愁傷様です。……で、ご用件は?」

「買い取りお願いしたいんですの」

「それじゃここでやっちゃうね」

「あら、鑑定できますの?」

「君がいない間に資格取ったんだよ。ふふ、給料が上がるっていうからさ」


 真面目ですわねえ。


 取り出したのは装飾付きの武器類が幾つか、初心者向けには高品質な防具が少し、年代物のワイン数本、だいぶ古い古銭がそこそこ。あとはあんまり価値のなさそうな装飾品もちょっと。


 結局もったいない精神で初心者向けダンジョンを周回してしまったので量はそこそこ集まりましたのよ。

 タオルだとか日用品はそのままわたくしの懐行きですわ。


「すごい数」

「帰郷までの道のりでダンジョンを幾つか巡って来ることができていましたの」


 よもや自宅に自分のためのダンジョンがあるんですわよなんてことは言えない。


 鑑定のあいだ。

 依頼が張り出されている掲示板(クエストボード)を見る。

 やっぱそこそこに依頼はありますわね。

 けど……。


「どうする?」

「でも、俺たちには危なすぎないか……?」

「やるしかないよ」

「宿代もなあ……」


 近くで話している四人組の一党。

 見るからに初心者(ノービス)ちゃんたちですわね。


 ううん。確かに初心者向けの依頼が恐ろしいくらい少ないですわね。


「これにする?」

「ゴブリンの巣、かあ。一応初心者向けだけど……」

「でも初心者だけだとすごい危険だって」


 相談は続いておりますわね。

 仕方ありませんわね、ここは先輩風をびゅんびゅか吹かせて差し上げましょう。


「あなたたち。これになさい」


 取ったのは宅配の仕事。

 辺境では宅配に冒険者を使うこともある。

 危険な野生生物が道中で確認されたりすると、一般人では危険だと判断されて依頼に回されたりしていますわ。


 イノシシは危険ですけれど、見たところ戦士、斥候、魔術士、治癒士のバランスのいい一党ですし、イノシシに遅れはとらないはずですから。


「これって」

「つまんない依頼に見えるかもしれないけれど、まずは小銭稼ぎからになさいな。

 お金を少しずつ稼いで、装備を整えて……。そうして一歩一歩前進なさい」


 冒険者は首に『どんだけの位階にある冒険者か』を示す認識票(タグ)()げている。見えるように、ですわ。

 これは『厳格に定められたルールではないが、ギルド内では立場を示すために見せるようにしてほしい』というギルドからのお願いがあるからでしてよ。


 ですので、わたくしもそれに従っておりますわ。

 中の上くらいの実力と経験がそこにあるのに気が付いた彼らは素直に、


「ありがとうございます、先輩」

「これにします」

「ちょっと安心したかも」

「頑張ろう!」


 と。素直ですわねえ。

 うんうん。末永く冒険者をやってほしいもんですわね。


「あ、お待ちなさい」

「はい?」

「これ、持っておいきなさい」


 わたくしがダンジョンで拾った治癒と解毒に効果のある水薬を渡す。


 買えば高いものだが、売ると安く買いたたかれる厄介なドロップ品。

 買うのが高いのは誰が作ったかの証明があるのと薬学関係のギルドがちゃんと関わっているから。安く買いたたかれるのは出所がわからなくて怪しいから。まあ、そりゃそうですわよね。


 軍人や冒険者が使うこうした薬は一つの巨大な経済の流れがありますもの。

 ただ、ここにいい感じに食い込めたりできたら無茶苦茶稼げそうですわよね。

 ……ま、今は考えても仕方のないことですわね。


 けど、これに関してはちゃんと漢気(おとこぎ)鑑定……つまりは自分の体で軽く試していますから安全性だけはバッチリですわ。


「え、でもこれ」

「いいんですわよ。わたくしも駆け出しの頃に先輩たちに世話を焼いてもらっていましたから」

「……ありがとうございます!」


 といったところで鑑定が終わったことが知らされてわたくしはそちらに、後輩ちゃんたちは別の受付で依頼を受領して出発していった。


「随分、なんというか」

「ホホホ、立派な冒険者ぶりでしょう?」

「まあ、その……ありがとう。ああいうサポートは私たちじゃできないから」

「あらあら、もっと憎まれ口めいたことで返すかと思いましたのに」

「お互い大人になったってこと」

「老け込むにはまだまだ早いと思いますわよ」


 鑑定結果と買い取り金額(鑑定費用を差し引いたもの)が提示される。


「手元に残すものは」

「どれも買い取ってくださいまし。懐がやべえですのよ。マジで」

「貴族って大変なのね、ホントに」

「趣味でやってると思えばなんとか我慢もできますわよ」


 金額は一人で稼ぐにしては結構なもの。

 やっぱ初心者向けダンジョンが一番稼げるんじゃねえんですの?

 とはいえ、それでも税金支払うには全然足りないのも事実ですけれど。


「それじゃ、また稼いだらお邪魔することにしますわね」

「頑張ってね、冒険者さん」


 その言葉は嫌味とかそういうものではなく、あなたは貴族ではなく冒険者なのだ。

 いざとなれば貴族を辞める自由と選択肢もあるはずだと言外に置いていることが、たとえノーシンクと言われるわたくしでもわかりますわ。


 義理と人情をしかと感じながら、自宅用に必要なものを買いそろえてからの帰路に付くことにしますのよ。

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