没落令嬢vs滞納された税金
ホーッホッホ!!
……高笑いをしてみるけれど返すものはいませんわ。
まあ、屋敷には誰もいませんもの。当然ですわ。むしろ反応があったらコワイ。
ちなみにこの高笑いは先代領主、つまり父からのバカバカしいレベルの引き継ぎを終えたということへの区切りの高笑い。
笑うしかないってこういうことをいうのね。
わたくしは現在、名ばかり執務室にて書類を漁っていますわ。
普通、引き継ぎさせるならもっとあれこれものを残すでしょうに。
冒険者ギルドで仕事をしていた頃は良かったですわ……引き継ぎはちゃんと紙面と口頭の両方でされるし、怪我とかの保証も一応あったし……。
まあ、ギルドはギルドで問題もありましたけど、さておき。
いやいや、過去よりも現在ですわ。
貴族として最低限の責務は果たさねばなりませんわ。
ここいら一帯を支配している列強、ヴァルカイン超帝国の臣民として、領主として。
領地に関する書類はこれと、これと、これかしら。
どれどれ、支出と収入は……っと。
んんん?
わたくしの目がガラス玉でもない限りどう考えても支出が収入を上回ってるように見えますわよ、これ。
国から借り入れまでしているようにも見えますし、大した税を求められなくてもあんまりよくない状況なのでは……? むしろかなり悪い状況なのでは……?
書類の改ざんなんかはしていないようですし、それだけは救いですけれど。
「グレイトキャピタル卿! 返答せよーッ!!」
外から声。
通すことに慣れている人間のもの。つまり、領民ではないってことですわね。
急ぎそちらへ。
「ご無礼を。少々奥で作業をしていたもので。
わたくしはこの荘園の主、ライヒ・グレイトキャピタルですわ。
あなた様は?」
外へと出て迂遠な言い訳をこめた貴族式の謝罪(毎回思いますけど、これってほとんど謝罪になってませんわよね。ルールだというから仕方ないですけれど)。
「私はヴァルカイン超帝国に仕える徴税騎士のマルセルと申す」
彼は一代貴族として与えられる紋章、超帝国の騎士としての証である剣、それから徴税騎士としての別の手形もしっかりと見せてくれましたわ。
そして、周囲には彼の部下らしい騎士が数名。
「卿は過去三年に渡り、税の支払いを止めている。
手続きをし三年より前の納税に関しては延滞を許可されているが、期限から現在まで一切の連絡がない。
詳細を伺いに来た」
先ほどの救いに関しては取り消しますわ。許すまじバカ先代。
「……ええと、その、真実ですの?」
「残念ながら真実だ、グレイトキャピタル卿」
✘✘✘
マルセル殿の話を纏めると、
●約七年前から不作を理由に税に遅れが出ると連絡。
●約六年前からは娘の支援を理由に再び遅れの連絡。
●役五年前に荘園の発展のために国庫から資金の借り入れ。
●約四年前から娘の怪我と治療費を理由に税の支払いを止める嘆願。
●約三年前に現状と理由を説明し、納税の遅れを求め、超帝国は了承。
●約二年前、最初の支払い期限になるが延滞を求める手紙、期限を一年伸ばす。
●約一年前から現在まで一切連絡がなくなる。
●現在、徴税騎士が登場。
こうなりますわね。
ちなみに徴税騎士というのは税の取り立てのためであれば相当の強権を振るうことが許されている立場であり、わたくしの首を刎ねることすら許されているレベルで執行が許されてますの。
でもそれよりも、
「は、はあ!?
六年前から支援を理由に!?
その頃のわたくし、ジャガイモの一つすら受け取ってませんわよお!?」
それと四年前に怪我なんて負ってませんわ。それから後には確かにえらい目にあって死にかけたことはありますけれど、冒険者として生きている以上そんなことはよくあること。
そんな日常のことをいちいち実家には報告なんていれませんわよ。
悲痛な叫びもあってか、マルセル殿も話を聞いてくれた。
夜逃げされたということを素直に話しましたわよ。もうこの状況で言い訳だとか、名誉だとかそんなものありゃしませんもの。
マルセル殿の部下の皆さんも憐れんでいるような表情を浮かべていた。
もしかしたら夜逃げのことは知っていたのかも知れませんわね。
「も、申し訳ないが、ここで卿にして差し上げられることは何もない。
私も一介の騎士でしかない。
ただ、一応は嘆願を聞いたことは報告するが……」
「ええ、わかっておりますわ。今更それをお上様が信じるとも思えませんもの……」
「可能な範囲で延滞できるかやってみるゆえ、どうか若い身空で苦い選択だけは取らぬように」
言葉しか送れないことを申し訳なさそうに思っている騎士様。
他のご一同も、
「あの若さで敗戦処理か……」「支援の枠組みについての手引を纏めよう……」
「辺境の状況を公爵殿は知っていて税収を……」「年上として我らが何か……」
とこちらに聞こえないように相談をしてくださっていますわ。
わたくしは斥候の経験から地獄耳なので聞こえておりますけど。
いやー、ホント、マジで申し訳ありませんのよ。ただ、その慈悲には縋るしかありません。
マルセル殿が渡してくれた支払いに関するアレコレを見たけれど、正直、十年分の豊作が一度で全て来たところで回収できない費用ですわね。
マルセル殿たちをお見送りしてから、とりあえずおらが畑の様子を確認するためにも農地に赴くことにしましょうか。
✘✘✘
作業の一休み中といった感じの領民に声を掛けることに。お休みのところ申し訳ないですけれど、こっちも首が繋がるかどうかですからお許しいただきたいところ。
「具合はどうですの」
「はえ、お嬢様? おひさしぶりですだ。おかえりになったんで?」
「残念ながら、今日からわたくしが領主になりましたわ」
指輪を見せると領民はへへえと頭を下げる。
「今年の実りはどうなりそう?」
「へえ、……例年よりも下回りそうです。
税としていつも納めております分を入れてしまうと」
「種芋まで持っていかれることになる、とか?」
「ええ、そのとおりで」
「……わかりましたわ。
でも、安心してちょうだい。わたくしはそんな無体申しませんから」
「へ、へへえーッ!」
十年分の豊作ではなく数十年分の豊作が来て一発逆転! 納税完遂!! のコースはありませんわね。
ああ、種芋まで奪うみたいな無理な徴税をするだとかそういうことをする気は本当にありませんわ。
冒険者をやっていてその手のことから悪徳貴族の始末を頼まれるなんてこと、少なくありませんでしたもの。
貴族相手に切った張ったをすることを望む冒険者は多くありませんでしたけど、それでも依頼という形である以上は、いつ手配書に自分が載るかもわかりませんし。
領民には優しく。自分の命のために。
けれど、その前に徴税騎士のいずれかに首を飛ばされそうですからなんとかしないと。
何かしら家財はないか、売れるものはないか、うんうんと悩みつつ屋敷へと戻ろうとしたとき、
「お、お嬢様あ〜〜〜〜」
後ろから先程の領民の声。
「魔物ですだああ〜〜〜〜」
収入もなければ、運勢もありませんわ。
ホーッホッホ。笑って誤魔化したいところですけれど笑ってもどうにかなる状況でもありませんわ。
やべーですわ。マジで。
✘✘✘
領民が焦って魔物の到来を知らせてくれたわけですけども、
そもそも魔物というのは魔王が作り出したという怪物……と言われていますのよ。
そこらの野生動物と同じように繁殖し、人間の文化圏を削り取る凶暴な怪物ども。
犬やら猫やら鳥だのに似たものから、人間の真似事のようにして作られた人型のものもいる。
いずれもがただの領民、つまりは一般人には荷が重い相手。
冒険者としての仕事の大半はこうした魔物退治に終始する。
魔王を倒さぬ限り消えないと言われる魔物たち。
今も魔王を倒す勇者は現れていない。
……とまあ、ギルドの教習的にはこういう感じの話を聞かされますわね。
わたくしも勇者を目指していたものの、それでも魔王の直下部隊を名乗る連中との戦いで大怪我を負って、その道の険しさを我が身を以て知っていますわ。
今回攻めてきているのがヘッポコな魔物であればいいんですけれど。
……いいえ。
仮に直下部隊だとして、逃げるわけにはいきません。
わたくしはもうこの土地の領主になってしまった。
命を賭けることになろうとも、彼らを守る義務がわたくしにはありますから。
「どこに出ましたの」
ですから、わたくしは、恐怖を押し殺して領民に問いますわ。
それが領主たるものが果たすべき責任ですもの。
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ヴァルカイン超帝国
一帯を支配する巨大帝国。列強。
元々はヴァルカイン帝国だったが、現在の皇帝になったときに、
「そこらの帝国ではない。超。俺の国はマジで帝国を超えてっから。だから超帝国」
と言って改められた。
現在は政治的な問題が色々噴出しており以前ほど攻めの姿勢を持っていない。




