最終話
あれから二年が経った。
結局、ボドロフの背後にいたと思われる帝国は何の動きも見せず、王国には平和な時間が流れていた。
アルはファルマス家の家督を継ぎ、学園生活との二足の草鞋で忙しい日々を送っている。
だが、以前のような平民と貴族の隔たりを嫌い、生徒会長として様々な改革を進めた。
その代表が、食堂に存在していた貴族席の撤廃だ。
当然反発もあった。
だがアルは押し切った。
今では貴族も平民も同じ席で飯を食う。
少なくともフローレンス学園においては、それが当たり前になっていた。
そして、その改革に最後まで反対していた男がいる。
「だから嫌なんだよ。
お前が生徒会長になると」
「何か問題でもあるか?」
「俺の昼飯が落ち着かねぇ」
向かいに座るタルクに、
アルは呆れたようにため息を吐いた。
「……私は私で、君のように振る舞っただけだよ。私の立場で、ね」
アルは肩を竦める。
「それに君も、子爵位をもらったじゃないか」
「もらったんじゃねぇ。
押し付けられたんだ」
「同じことだ」
「大体俺は、叙勲とか爵位とか、食いもんだと思ってたんだからな」
「子爵が何を言っているんだ」
俺は、フン、と鼻を鳴らす。
「……はいはい。
二人とも喧嘩しない」
そう言いながら、
トレイを持って現れたミーナがタルクの隣に腰掛ける。
昔なら考えられない光景だ。
平民の少女と伯爵。
そして戦争孤児。
三人で同じ机を囲んで昼食を取っている。
ミーナは二人を見比べて、
小さく笑う。
二年前なら、
こんな光景は想像もできなかった。
アルベルト君は貴族で。
タルクは戦場帰りの問題児で。
私は、ただ見ているだけだった。
「あっ……もう。
また、口の周りにソースつけてる」
言うが早いかミーナがハンカチで俺の口を拭く。
「おいおい、結婚秒読みのお二人さん、真昼間っからお熱いねえ。」
軽薄そうに笑いながらテーブルにトレーを置くマルコス。
「まあな」
「ふふ」
ミーナの指に指輪が光る。
「否定しねえよ、コイツら……」
マルコスはいつものこと、という感じで椅子を引き、「よっ、アル」と言いながらアルベルトの肩を軽く叩く。
「ああ、マルコス」
「そういえばよ、アイリーン先生が怒ってたぜ。
お前ら二人、婚約してからというもの、いちゃつきすぎなんだよ。
行き遅れ女子の気持ちも考えてやれって」
「マルコスっ!」
食堂の入り口でアイリーン先生が顔を真っ赤にして怒鳴る。相変わらずの地獄耳だ。
窓の外では、
後輩たちが笑いながら走り回っている。
貴族も平民も関係なく。
ただの学園生として。
そんな光景を眺めながら、
俺は思う。
戦争は終わった。
ボドロフもいない。
帝国も静かだ。
だからきっと。
これが平和ってやつなんだろう。
「タルク、聞いているのか?」
「ん?」
「聞いていないな」
「聞いてねえな」
ミーナが呆れたように笑う。
マルコスが吹き出す。
アルがため息を吐く。
――まあ、それでいい。
戦場帰りの俺と、あいつの弟
完
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