↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

第5章 エヴィヘットの魔法【3】

「では、お次は私がお相手いたします」

 ケルレウスが前に進み出る。いよいよ実戦に入るのだと、エヴィヘットは無意識に緊張していた。

 訓練場の中心でケルレウスと向かい合う。エヴィヘットはイズルとアースから教わったことを思い返しながら、深呼吸を繰り返した。剣では亡霊王の魂が体を勝手に動かしたが、それは騎士の王であるがゆえ。魔力回路の開放は上手くいったが、実戦において充分に発揮できるかどうかは、ケルレウスと戦わなければわからないのだ。

 す、と息を吸い込むと同時に体が勝手に動き始めた。ケルレウスに向けて火球を放つ。ケルレウスが軽く跳躍してそれを躱すと、照準をケルレウスから外して手を振り下ろした。ケルレウスが着地する地点を予測して雷槍を落としたのだ。ケルレウスはそれも飄々と避ける。エヴィヘットの頭の中では、勝手にケルレウスの反撃に対する処置が思い浮かんだ。ケルレウスには反撃の余地がある。それでもケルレウスが防戦に徹しているのは、エヴィヘットの魔法を充分に引き出すためだ。



   *  *  *



「……なあ。あれが本当に、あいつなのか?」

 タカオが震える掠れ声で言う。亡霊王と称される、元同級生。自分たちより弱い立場であったはずの人間が、竜族の王を翻弄している。身分の高い者たちに囲まれている。王として敬愛されている。そんなことはあり得ない。あり得ないはずだった。

「……あたし……どこで間違えたんだろ」

 ミカコが生気のない目で呟いた。人目を避けるように、城の廊下の隅で外を眺めている。この城にいる者は、すべてが自分たちの敵で、そうしたのは自分たちの行いのせいだ。

「……俺は……俺は、間違えてなんかいない」

 それは虚しい言葉だった。人間からも見捨てられ、亡霊王の支配下に置かれ、こうして人目に付かない場所に潜んでいるしかない。それを認めざるを得ないのに、いまだ胸の奥には燻るものがある。

「諦めなさいよ、タクヤ。あんた、あれを見てもまだそんなこと言えるの」

 ミカコが呆れたように言う。廊下の窓から見える魔法使いの訓練場。亡霊王の称号を手に入れた元同級生が、竜族の王と同格として模擬試合をしている。

「あたしは、例え呪いがかけられたままだったとしても、竜王の腹の中で溶かされるなんて御免だわ。あいつに逆らいさえしなければ、生きていられるんだから」

「……お前は、それでいいのかよ」

「いいも何も、そうするしかないの。あたしたちみんな、あいつに一撃でやられたのよ」

 あの首無しの騎士が魔族の中でも上位の存在である“亡霊王”であると知らずに挑んだ戦い。自分たちが魔王を凌駕する勇者であると疑わず、人間の王の言葉に乗せられて魔王城に攻め込んだ。あの人間の王が勇者の末路を知れば、どんな行動を取るかわかったものではない。

「……なんで……なんでこんなことになったんだ……」

 何を、どこで間違えたのか。異世界転移のチート能力は確かなものだった。いくつもの騎士の命を奪った。それも全員、すでに生き返っている。それも、魔王の首を取ればすべてが上手くいくはずだった。

「変な気は起こさないでちょうだいね。勇者パーティは行方不明、もしくは敗戦。そうしておくしか、あたしたちに生きる道はないの」

「……そんなこと、言われなくたってわかってるさ」

 確かな敗北。プライドなどすでに意味を為さない。認めざるを得ない。だからこそ、この命はここに残っているのだ。



   *  *  *



「そこまで」

 低く響いた声に手を止める。いつからそこにいたのか、フォンガーレ王がエヴィヘットとケルレウスの模擬試合を終了させた。戦いに集中していたエヴィヘットは、呆然とフォンガーレを見上げた。

「魔法は相手が倒れるまで決着がつかん分、止め時がわからなくなるものだ」

 不敵に微笑むフォンガーレに、あっ、とエヴィヘット声を上げた。

「ごめん、ケルレウス……! 大丈夫?」

「ええ。この通り、ぴんぴんしております」

 ケルレウスは爽やかに微笑む。エヴィヘットは遠慮なく魔法を放っていたが、どれも上手く躱していたらしい。傷付けることがなかったようで、エヴィヘットは安堵していた。

「剣も魔法も、感覚を取り戻したようだな」フォンガーレが笑う。「これなら披露会も問題なさそうだ」

「披露会?」

「新たな亡霊王が誕生なされたことを民に公表するのです」

 首を傾げるエヴィヘットに、ヴォラトゥスが穏やかに答えた。つまり、エヴィヘットが魔王国の民たちの前に亡霊王として立たされるのだ。それは王の称号を得た者にとって当然のことだが、エヴィヘットにはまだ自信がなかった。

「僕が亡霊王だって、民のみんなはわかるかな……」

「何を言う」フォンガーレが朗らかに言う。「宮廷騎士団も魔法隊も、お前が亡霊王だと認めたではないか」

「それはそうですが……」

「それは民とて同じこと。我ら魔族は魔力で個体を認識するのだ」

 確かに、とエヴィヘットは考える。自ら名乗らずとも、ヴォラトゥスもステュルカも、王宮に属するすべての者がエヴィヘットを亡霊王と呼んだ。百年前の亡霊王とはまったく異なる姿だったとしても、同じ系譜に連なる魔力がエヴィヘットを亡霊王であると認めさせたのだ。

「民は僕を受け入れてくれるかな……」

「もちろん」と、グラディウス。「亡霊王殿下は民からの支持も厚くていらっしゃいます。それだけに、亡霊王殿下の魂の消失は魔王国にとって大きな損失でした。その亡霊王殿下がお目覚めになられたのですから、民もきっと喜びますよ」

「式典には竜族も参列します」ケルレウスが微笑む。「竜族もきっと、エヴィヘット殿下を歓迎するでしょう」

「うう……それはそれでプレッシャーを感じる……。僕は亡霊王に相応しいかな……」

「剣術も魔法も申し分ありません」と、ヴォラトゥス。「きっと民の信仰を集めるでしょう」

「案ずることはない」と、フォンガーレ。「お前は私の寵児なのだからな」

 それがプレッシャーなのだが、とエヴィヘットは心の中で呟く。ここにいる者の中に、エヴィヘットが亡霊王に相応しくないと思う者はいない。民も同じように思ってくれるだろうか。エヴィヘットが自信を持つには、まだしばらく時間がかかるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。