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第5章 エヴィヘットの魔法【2】

 宮廷魔法使いの訓練場は、騎士たちの訓練場と違い、どこか静けさのようなものがあった。あちらこちらで魔法を発動する音がするが、騎士の訓練場ほどの喧騒はなかった。

 エヴィヘットが三人の侍従を従えて訓練場に入ると、魔法使いたちの空気が変わった。どこか緊張しているような、はたまた歓迎しているような。どちらにせよ、エヴィヘットに畏怖の念を懐く者が多いのだろう。

「亡霊王殿下」

 輪の中からふたりの魔法使いが駆け寄って来た。黒髪の魔法使いと金髪の魔法使いがエヴィヘットの前に跪くと、他の魔法使いたちも同様に地に膝をついた。

「お目通り叶い光栄です」黒髪の魔法使いが言う。「私は団長のイズルと申します」

「亡霊王殿下にご挨拶申し上げます」と、金髪の魔法使い。「副団長のアースです」

「騒がせてしまってごめんね。どうぞ楽にして」

 エヴィヘットの気遣いに、イズルとアースは頭を上げる。それに倣い、他の魔法使いたちも姿勢を正した。

「騒がせただなんてとんでもございません。みな、亡霊王殿下にお目通り叶い、至極の光栄でございますよ」

 イズルは爽やかに微笑む。どうやら歓迎されているようで、エヴィヘットは安堵に胸を撫で下ろす。騎士たちは配下として亡霊王に仕えていたが、宮廷魔法使いたちは騎士である亡霊王の配下ではない。それでも、魔法使いたちも亡霊王を慕っていたのだろう。

「魔法の練習をさせてもらいたいんだ」

「そういうことでしたら、私とアースが承ります」

「いきなり団長と副団長の相手をするの?」

 少し怯むエヴィヘットに、アースが朗らかな笑みを浮かべる。

「私たちでも受け止めきれるかどうかわかりませんよ。亡霊王殿下はそれだけの魔法をお持ちですから」

「でも、僕は騎士だよ?」

「それでも、宮廷魔法使いの魔力値をはるかに上回っております」イズルも微笑む。「殿下はお目覚めになられたばかり。一介の宮廷魔法使いでは、きっと死者も出るでしょう」

 物騒な話でも笑っていられるのは、この世界に死んだ者を蘇生する魔法が存在しているためだ。あの勇者パーティの三人も、その魔法の恩恵で生き返ったのだ。とは言え、死はあまりに苦痛だ。それを回避するには、受け止めることのできる者がエヴィヘットの相手をするのが相応だろう。

「以前の亡霊王殿下も魔法に長けたお方でしたが」アースが言う。「あのお方と同じだけの魔力をお持ちでしたら、まず制御する方法をご教授させていただきます」

「魔力の制御を覚えておかないと、死者が出るでしょう」

 ケルレウスが爽やかな笑みで言うと、イズルとアースは揃って頷いた。ふたりの表情は神妙だ。ケルレウスの言葉がただのおべっかではないという証明のようだった。

「実戦は私がお相手いたします」

「魔法に必要な魔力放出さえ掴めれば」グラディウスが言う。「魔法を使うのは簡単なことですよ」

「まずはイズルとアースに教わるとよいでしょう」

 穏やかな微笑みを浮かべるヴォラトゥスの言葉に、当然、と言うようにイズルとアースは頷く。報せ鳥が届いたときからそう決めていたのだろう。

 まずは基本中の基本から始まる。イズルとアースの説明を受け、体内に巡る魔力を自身で感じ取る訓練をする。亡霊王の魂のおかげか、エヴィヘットがそれを掴むまでそう時間はかからなかった。そうしているうちに、自分の中で何かが開放されていくのを感じた。そう話すと、イズルは満足そうに頷いた。

「魔力回路の開放は充分のようですね。では、さっそく実践してみましょう。あの的に向けて火球を打ってみてください」

 火球、とエヴィヘットは頭に思い浮かべる。その魔法名から発想されるのは、火の玉が空中から降りかかるイメージ。エヴィヘットはその感覚を掴んだまま、的に向けて手を振り下ろす。それと同時に空から降り注いだ火の玉が、轟音を上げ的もろとも地面を削った。エヴィヘットが想定していた以上の爆発に、魔法使いたちのあいだにざわめきが広がった。

「凄まじい威力です」ケルレウスが恍惚と呟く。「実に素晴らしい……惚れ惚れしてしまいます」

 イズルとアースが平然としているところを見ると、エヴィヘットの魔法が爆発的であることを想定していたのかもしれない。

「これは使いこなせるまで時間がかかりそうだね……」

 自分の手のひらを見つめながら言うエヴィヘットに、グラディウスが首を振った。

「そんなことはありません。亡霊王殿下は魔法もお手の物でした。きっと、すぐその感覚を取り戻されますよ」

「うーん……」

 エヴィヘットは魔法の存在しない世界から来た。魔法というものがどんなものであるかいまだイメージは固まっておらず、この溢れ出る魔力を制御できるか、いまはまだわからなかった。




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