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気弱な私をAIシンクロアが最強に変えるけど使いこなせない件  作者: 杉乃 葵
第一章 SYNC ERROR

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EP-024 SYNC ERROR: 喪失からの帰還

 真堂さんは、シンクロアがどんな形状のものなのか知らない。いま手元にシンクロアがないのは幸いだった。でもそれじゃ、シンクロアはどこに? もしかして、イジェクトと闘った時に、外れて落としたとか?!


「真堂さん、わたし、家に帰りたい」

 急いで家に帰って、シンクロアを探さないといけない。


「まだ、君を帰すわけにはいかない。君が本当のことを話してくれるまでね」


 予想通りの答えが返ってきた。

 いま、わたしがやるべきことは、真堂さんを誤魔化して家に帰り、シンクロアを探すことだ。ぐずぐずしていると、D-5に先に見つけられてしまう。そうなったら、彼らにシンクロアが持っていかれちゃう。


「あ、あのう……、お母さんはどこですか?」


 そういえば、お母さんはどこに行ったんだろう。わたしが動けないなら、お母さんに探してもらえればと思ったけど、連絡の取りようがない。


「君のお母さんのことは、我々も探している。まあ、すぐ見つかるさ。安心して」

 お母さんは、いったい何をしてるんだろう――お母さんの行動は不審すぎる。結局、詳しい話は未だに聞けていない。ただ、お母さんは危険を察していち早く姿を消した。だから、きっと無事なんだろうとは思うけど。


 真堂さんに、このまま本当のことを話せば、シンクロアは捜索されて、発見されればD-5に奪われるんだろう。


「あの……デバイスをお渡しした後、わたしはどうなるんですか?」

「心配いらない。教団の狙いはデバイスだ。それを我々が確保したなら、愛衣ちゃんが狙われることはない。まあでも、念のため警護は付けるから安心して」


 シンクロアを渡せば、わたしは日常生活に戻れる?

 教団から襲われることもなく、いつもの生活に?

 だったら、その方がいいんじゃないの?

 でもそれは、いままでどおりの日常だ。それはわたしが望んでいた日常だっただろうか?

 それはたぶんちがう――


「わかりました。お渡しします。でも、それは今すぐ、家に帰ることが条件です」

「ん? それはどうしてだい?」


 真堂さんは、あからさまに訝しげな顔になった。


「どうしてもです。だめなら何も話しませんし、デバイスもお渡ししません」


 ぷいっと、そっぽを向いて、布団をかぶって真堂さんから隠れた。


「わかった、わかった。そうだな。病院から出る許可は……俺がなんとかしてやるよ」

「あ、ありがとうございます」 

「じゃあ、準備するよ。イジェクトはいなくなったが、まだ教団のやつらがうろついているかもしれないから、護衛の準備も必要なんだ。それまで待ってくれ」


 そう言って、真堂さんは病室から出ていった。


 ひとまずは、上手くいったっぽいけど、家に帰ったらすぐにシンクロアを見つけないといけない。幸いに、シンクロアの見た目は、ただのイヤホンだし、すぐに気づかれないよね? たぶん。


 シンクロアが家にあるとしたら、イジェクトと闘った廊下しかない。病院へわたしが搬送されている時に落としたなら、どうにもならないけど。


 しばらくすると、真堂さんが戻ってきた。準備ができたので、いつでも出れるとのこと。


「すぐに出るかい?」

「あ、はい」

「では行こう」

「あ、あの……」


 真堂さんが、わたしの当惑に不審な顔を見せる。

 まったくこの人は、人のこと見えてないんだから……。


「わたし――着替えるので、部屋、出ていってください」


 真堂さんは、「ああ」とやっとわかった様子で、病室を出ていった。


 しっかりドアが閉まるのを確認して、ベッドから出る。

 目覚めてから時間が経ったので、身体の痛みは多少ましになったけれど、まだまだ痛かった。

 なので、服を着るのも一苦労した。

 いつもの数倍時間を掛けて、やっと着替えることができた。 


 わたしが着替えている間、真堂さんがドアを開けて入って来ないかヒヤヒヤしていたけど、彼は入ってくることはなかった。

 長い時間、待たせてしまったので、彼が怒っていないか気になった。

 病室の扉を開けると、少し離れた廊下に真堂さんが壁にもたれて待っていた。


「お待たせしました。服着るのに時間が掛かってしまって」


 申し訳なさを全面に出して言う。


「ああ」


 真堂さんは、短く反応した。

 彼は特には、待たされて怒っている様子はなかったので、少しほっとした。


 病院の前に、D-5の黒い車が止められていた。

 運転手はすでに中で待機しており、わたしと真堂さんは、後部座席に並んで乗り込んだ。

 車はすぐに、静かに発車した。


 家に着くまでの間、わたしは沈黙を続けていた。下手に話したら、迂闊に本当のことをボロっと言っちゃいそうだったから。それだけは避けなければ……


 いまは、真堂さんに気取られてはいけない。

 真堂さんの方から、わたしに語りかけて来ることがなくて助かった。


 車は、家の前に着いた。

 車を降り、逸る気持ちをぐっと抑えて、平静を装って玄関の扉を開ける。


 目の前に、イジェクトとの壮絶な戦いの惨状がそのままで広がっていた。

 廊下の壁には、鋭く切り裂かれた跡が何本も走っていた。

 奥の扉は折れ曲がり、半分ほど失われている。

 イジェクトを叩きつけた壁も、大きく凹んだままだ。


 イジェクト……。嫌な奴だったし、怖かった。そして彼は真堂さんに撃ち殺された。

 ぎゅっと胸が苦しくなる。

 だけどいまは、そんな感傷にふけっている暇はない。頭を振って、雑念を消す。

 そして、急いで廊下を隈なく見る。

 しかし、イヤホンはどこにも見当たらない。


 真堂さんが一緒でなかったら、這いつくばって隅々まで探すけど、さすがにいまはできない。そんなことをしたら不審がられる。


「そのままになってるんですね」

「ああ、D-5も人手が不足していてね。表立って見えないところは後回しになっているんだ。本来は何事もなかったように処置するんだけどね」


 運が良かった。D-5に家を処置されていたなら、アウトだったに違いない。

 とはいえ、このまま廊下にいるわけにはいかないから、ひとまず真堂さんを客間に連れて行くことにする。


「愛衣ちゃん、待って!」


 客間に入る前に、真堂さんに呼び止められる。


「まだ、罠が残ってるんだよね。ちゃちゃっと解除するから、待ってて。まだ入っちゃだめだよ。首が飛んじゃうからね」


 冗談めかして、恐ろしいことを言う。

 イジェクトと真堂さんが戦っていたときの、あのピアノ線が張り巡らされるやつのことだ。あんなのに絡まれたら、身体がバラバラになる。

 

 真堂さんが解除するために、先に客間に入った。


 チャンス到来だ!


 いまのうちに、廊下を振り返って、シンクロアを探す。

 屈んで、廊下の上を隈なく見る。早く、いまのうちに見つけないと! 気持ちばかりが焦る。


 イジェクトとの戦いで落としたなら、それは最後にイジェクトにふっ飛ばされたときに違いない。

 壁に追い詰めた後、反撃されて――


 イジェクトを押し込んだ壁、いまも凹んだままになっている壁に向かい合う。

 この壁から反対側にわたしは飛ばされた。

 それはつまり、玄関の方向だ。

 あのときを再現して、玄関の方へ飛んでみる。


 ドタ


 痛い。


 そうだった。わたし全身打撲で身体中が痛いんだった。すっかり忘れていた。

 だけど、いまはそれどころじゃない。

 声を上げそうに痛かったけど、必死の思いで耐えた。

 こんなところで声を上げたら、真堂さんに気づかれちゃうからね。


 イジェクトの蹴りの威力は、もっと強かった。だから、わたしももっと飛ばされていたはずだ。

 もっと、玄関の方へ飛んだはず。


 立ち上がるのも忘れて、そのまま這って玄関の方へ身体を滑らせる。


 そして、わたしの耳から外れたシンクロアは、さらにここから転がって――


 廊下から玄関へと落ちた?


 玄関を見渡すけど、やっぱり何もない。

 

 玄関には、さっき入って来たわたしと真堂さんの靴しかない。

 

 ん? まさか?


 よく見ると、玄関には三足の靴があった。

 真堂さんの革靴。わたしが病院で借りた靴。

 そしてもう一つは――あの日から置かれたままの、わたしの靴だ。


 そう思って、置いたままになっていたわたしの靴に手を突っ込む。


 指先に、硬質な物体が触れる。

 靴の中に何かが入っている?!


 確信とともに、それを掴んで引っ張り出した。

 それはイヤホンだった。


「シンクロア?!」


 それは紛うことなきシンクロアだった。


 よかった! シンクロア。いてくれたんだね。


 シンクロアを掴んだまま、涙が込み上げてくる。

 すぐにシンクロアの声を聞きたかった。いろいろ相談したいことがあったし、いろいろ聞いて欲しいことがある。だけど、いまはダメだ。真堂さんにバレたら困る。


 シンクロアを失った不安が一気に解消された。

 これで、なんとかなる。

 そう思った瞬間、背中に影が落ちた。


「愛衣ちゃん……そこでなにをしているのかな?」


 まったく気配を感じさせずに、真堂さんがすぐ後ろに立っていた。

 

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