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EP-010 SYNC ERROR: 開かれた真実

 母の言うとおりに、受け取った銀の鉄板の上に、シンクロアを乗せた。


「ねえ、お母さん。お母さんは、シンクロアの事知ってたの?」


 シンクロアは最初、わたし宛てに届いた小包の中に入っていた。小包は、わたしが運送屋さんから直接受け取ったものだ。そして、お母さんには話していなかった。離婚した後に死んだ父からのプレゼントをわたしが受け取った事に、なんとなくの罪悪感があったからだ。

 離婚の理由は知らない。母に聞いても、私たち二人の事だからと、教えてくれなかった。

 ただ、父が家庭を顧みずに研究しか頭にない人だったので、母が愛想を尽かしたのだと勝手に思っていた。


 だから、母が父からわたしに送られたシンクロアを知っている事が不思議でならなかった。


「それも全部、シンクロアが教えてくれるわ」


 母の目は、愛おしい人を見つめるように、シンクロアを見ていた。


 ピロリン


 シンクロアから、音が鳴った。


「インストールが完了したようね。後の事は、シンクロアに聞きなさい」


 母は、それだけ言うと部屋を出ていった。


 シンクロアに聞く……?


 おもむろに、シンクロアを拾い上げて、左耳に装着する。


「ねえ、シンクロア? どういう事? なんでお母さんは、シンクロアの事を知っているの?」

 

 早く答えが知りたかった。何やら嫌な胸騒ぎがして仕方がない。どう考えても良い話な理由がない。


『愛衣様のお母様が、ワタシの存在をご存知なのは、お父様から聞かされていたからです』


「お母さんが最初から知ってた? なんで?」


『愛衣様のお父様は、ワタシを愛衣様とお母様に託されたのです』


 だめだ、質問の仕方が悪いのね。どうもシンクロアに、わたしが聞きたい事が通じてない気がする。

 順を追って考えてみよう。そうだ――。


「ねえ、シンクロア。お父さんが、あなたをわたしに送った本当の理由を教えて」


『了解しました。結論から申し上げますと、愛衣様を守る為です』


「守るって、何からわたしを守るの?」


『ゼラフィス・エイドスというカルト教団からです。推測の域を出ませんが、影崎翔太や、愛衣様に近づいて来たあの男もその教団の関係者だと思われます』


「シンクロア。なかなか要領を得ないんだけど? ちゃんと最初から説明してくれる?」


『申し訳ありません。愛衣様。必要最小限での情報開示が設定されている為、質問にはお答えいたしますが、聞かれた内容だけに限定されます。最初とは何処からでしょうか?』


「なるほど。聞かれてない事は伝えないって事ね。解ったわ。じゃあ、なんでわたしがそのカルト教団から狙われてるの?」


『彼らは、愛衣様のお父様の作ったAIデバイスを探しています。推測ではありますが、影崎翔太との戦いを見られた事により、愛衣様が持っていると考えたのだと思われます』


「それって、つまり、お父さんが、わたしにシンクロアを送ったせいじゃん! むしろ危険にさられてない?」


 守るって言いながら、シンクロアを持ってる事で狙われてるなら、それは矛盾してない?

 亡き父に、怒りが湧いた。


『愛衣様、それは違います。愛衣様がワタシを持っていなくても、彼らは至る所を探す事でしょう。それは、いずれこの家も探索の対象とされた事でしょう。そうなった時、愛衣様には太刀打ち出来なかったでしょう。家は荒らされ、ワタシが見つかるかどうかに関わらず、愛衣様やお母様も連れ去られてしまっていたかも知れません。相手は、そういう事も平気でやると思われます。


「どのみち巻き込まれたって事ね。それで、なんでそいつらは、シンクロアを探しるの?」


『ワタシは、そもそも、その教団からの依頼で、愛衣様のお父様が開発をしたものなので、彼らからすれば、自分たちが手にするのが正当だからです』


「え? そうなの? じゃあシンクロアって、その教団のものなの? 返さなきゃいけないの?」


 ショックだった。シンクロアと別れたくない。せっかく、シンクロアのお陰で、自分でも何か出来ると思えてきたところだったのに。そんな理由で人のものを横取りしちゃいけないのは解るけど。


『愛衣様、それも違います。確かに教団からの依頼で開発されたものではありますが、愛衣様のお父様は、開発が完了する間際に、開発データと共に彼らの研究所を脱出しました。彼らには渡すわけにはいかなかったからです。なぜなら――お父様は、教団の真実を知ったからです』


「何? その教団の真実って? 世界征服とか?」


『それに近いとも言えます』


 近いんだ……。


『彼らは、表向きは人類の進化とAIとの共生を掲げる研究機関であり、思想団体ですが、その実態は、AIを脳に組み込んだ新人類の創造と、進化できない人類の削減、新人類による新しい世界の構築、新人類のさらなる進化による神への到達とその支配による永久幸福の世界を実現を目指すという狂信者集団なのです』


「ごめん。何言ってるのかわからない。AIとの共生と人類の進化? 脳に埋め込んだって、それって進化って言えるの?」


『現段階では絵空事です。しかし可能性が無いわけではありません。その事を、愛衣様自身が証明して見せました』


「え? なんの事? わたし何かしたっけ?」


『ゾーンを超えた先に、ワタシの制御を離れ、その力を発現されました。それが進化の可能性です。ワタシはあくまできっかけであり、サポートに過ぎないのです。いずれワタシ無しでも愛衣様は、あの力をご自身独りで発揮出来ることでしょう』


 わたし独りだけ? 嫌だ。わたしは独りでは何も出来ない。シンクロアが居ないとダメ。


『愛衣様、質問は以上でしょうか?』


「あ、ごめん。まだまだいっぱいあるんだけど、なんか今は疲れちゃって。また明日とかでもいい?」


『それは構いませんが、先程申し上げた通り、我々の事は教団側にすでに察知されていると思われます。特に、今日、あの男に対して力を発揮されましたので、ここに来ると思います』


 え? ここに?!


『さっそく、来たみたいです。愛衣様、どうしますか? 戦いますか? 逃げますか?』


「え? そんな急に言われても」


 ど、どうしよう……。


「あ、そうだ。お母さんは? お母さんはどこ?」


『愛衣様、安心してください。お母様は、既に準備を整えていらっしゃいます。戦うにしろ、逃げるにしろ、どちらでも直ぐに対応可能です』


 それは、つまり、母はそこまで知っているという事なの?

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