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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第6章 遺跡
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第98話 追跡者達

 マルケス伯爵の私兵団の元に予知魔法使いのレベッカと旧工房主のブルーノ・コッポラが到着したのは、5月15日のことであった。私兵団がアルティフェクスに着いて捜索を始めて7日目のことであった。

 彼らは聖都ではなくマルケス伯爵の別荘地に居たため、比較的早く着いたのである。

 

「さて、早速だが工房に行ってもらおうか」


 私兵団のリベリオ団長は、年老いた予知魔法使いを休ませる暇も与えずにパレルモ工房に連れていく。

 

「わ、儂も行くぞ!」


 勢い込むブルーノ・コッポラ。


 パレルモ工房は、元はこのブルーノ・コッポラが親方を務めるコッポラ工房であった。画期的なゴーレム製造、そしてゴーレム工房としては珍しくポーション、それも超高性能ポーションを量産し注目を集めたのだが、それらがいきなり途絶してしまい、あてが外れた軍や、儲け話をしくじったマルケス伯爵の怒りを買って、工房をドン・パレルモに乗っ取られ、さらにそのまま20数年もの間、逼塞させられていたのだ。


 今回、その画期的なゴーレムに関わりがあるかもしれない少女が出現したということで、コッポラ元親方はすでに70近い老齢でありながら、失地回復のチャンスに燃えていた。


 工房では、ドン・パレルモはゴーレム暴走事故で帝国の大貴族(教会幹部でもある)の子女が命には別状がないものの、かなりの大怪我をしてしまったことから、対応で走り回らなければならなかった。

 大きな出費を余儀なくされたが、なんとかゴーレム使い達の技量が劣っていたことを原因にできそうで、そちらの方はホッとしていたのだが、そのために工房を留守にしている間に跡取り息子の筈であったロドリゴはあろうことか、工房の中でエンセオジェンを盛られて、今現在も恍惚としている体たらくだ。


 しかも、金主のマルケス伯爵に派遣されてきた私兵団は、工房内を我が物顔で嗅ぎ回っている。

 鬱陶しいことおびただしいが、やむを得ない。伯爵のご機嫌を損ねたら、首をすげ替えられる可能性があるのだ。20数年前のように。

 しかし、エンセオジェンの後遺症が残るロドリゴに厳しい尋問を加えるのはやめて貰いたい。本当に息子が廃人になってしまう。


 そして、ドン・パレルモにとってさらに面倒な事であるが、私兵団の奴らはブルーノ・コッポラを呼び寄せたのだ。この工房の元の持ち主。20数年前に不始末をしたブルーノから工房を騙し盗るようにして、ドン・パレルモが新しい工房主になったのだ。

 ブルーノはズケズケと工房の隅々まで見て回り、今ではほとんどの職人が入れ替わっていて面識も無いのに、その職人の仕事に口出しし、あまつさえ指導しようとする。


「今では、この工房はあんたのものじゃないんだ。口出しするな。帰れ!!」


「なにを!! 小僧が一人前の口を叩くな。こんな無様な仕上がりのゴーレムしか作れぬ癖に。儂の工房を使いながら!!」


 工房の作業場で怒鳴り合いを繰り返すはめになる。


 こうしてドンがコッポラにかかりきりの間に、レベッカはその息子のロドリゴと面談していた。レベッカは闇属性魔法によって、ロドリゴの記憶を深いところまで覗き、そこに刻まれているフロリアの姿を見出し、時間魔法系統の幻視によって、フロリアの姿を求めた。 唯でさえエンセオジェンで弱った精神をレベッカはお構いなしに切り裂き、えぐり出し、程なく目当てのものを見つけ出した。


 幻視には過去視と未来視があり、この時にはフロリアの姿を軸に過去視が発動し、少女が夜間に岩山を登っていく光景が見えた。少し離れたところに黒くて不定形な影のようなものが見える。その正体はわからなかったが、かなり大きく強い力を感じさせた。


 この闇属性魔法と幻視のちからによって、レベッカは若い頃に神隷として教会に拘束され、今ではマルケス伯爵の手駒のように使われている。教会に入った神隷は強硬皇帝のために働く、それがこの神聖帝国と名乗る国の国法であったが、有力貴族が無断で私物化している。この国の腐敗ぶりを思わせる一例であった。


 それにしてもレベッカの能力はかなり特殊で、他の国でもこんな形で能力の合せ技を使う魔法使いの話など聞いたこともない。他の国に生まれて冒険者ギルドにでも入れたら、きっとずいぶん違った人生であったであろう。若い頃にはずいぶんそう思ったものだが、この年令になると諦観が勝ってくるのであった。


「団長。わかりました。この町の近くに大きな岩山はありませんか。麓に小さな村があり、山の中腹が開けた空き地になっていて、その端に洞窟が空いている山です」


 リベリオ団長は早速、町に詳しい代官所に部下をやって尋ねさせるのであった。

 

 ようやく、コッポラも含めた私兵団が引き上げていったあと、ドンはふと思いついて、ロドリゴの姿を見に行き、息子の精神が完全に破壊されていることに気が付き、悲鳴を上げるのであった。


***


「まったく、久しぶりにふるさとに帰ったってえのに、ひどい目にあったぜ」


 鉱山都市アルジェントビルの安酒場で、鉱夫のボブは仲間に嘆いていた。

 何でも親族の結婚式があるということで、3日間の休みを貰って、ふるさとのモリア村まで帰ってきたのだが、村で母親や親戚のおばさんたちに身に覚えの無いことで責められたというのである。


 何でも、数日前にまだ未成年だけど、珍しい銀色の髪をしたとてもかわいい女の子とちょっと気味が悪い男の父娘連れが村にやってきたのだという。

 その娘の言うには、村の向こうの岩山の古い遺跡がポーションに関係あるとか無いとか、鉱山町で聞かされたのだそうだ。


 そんな変な話がある訳もないのでさっさと追い払ったのだが、遺跡の場所をしつこく知りたがっていたのだという。


「どうせ、あんた達のうちの誰かがデタラメを吹き込んだんでしょうが、と散々責められたぜ。まだ子どもだって言うのに、えらくキレイな娘だったらしくて、町からあまり人の居ない村におびき寄せようとしたんだろうって勘ぐられてな。

 特に前後して村に帰った俺が怪しい、ホントは村の近くの人気の無いところで待ち合わせて、色々と良からぬことを企んで居たんだろう、ってな」


 ボブによると、モリア村ではずっと以前にもやはり驚くほどの美人がたびたび村を訪ねてきていた時があるのだという。

 その美人は、岩山にしか生えない特殊な薬草を求めてきたのだが、彼女が来る度に村の男たちが色めきだって、幾つもの喧嘩も起きて、村の雰囲気がとても悪くなったのだという。

 

「その美人にとっちゃ知ったことじゃない話だったろうけろ、酷い迷惑だったもんだよ。どうせお偉い工房に働いている神隷だったから、迂闊に手出しなんかしたら、お貴族様に処分されちまうっていうのに、バカ男たちはのぼせあがっちまって……。

 ボブ。あんたが碌でもないこと企んで、その挙げ句にその娘が村で暮らすようなことになったら、またおかしなことになるところだったよ」


 ボブはそう母親から懇々と言い聞かせられたそうだ。


「面白そうな話じゃねえか。もう少し詳しく聞かせれくれよ」


 仲間とバカ話で盛り上がっていたボブだが、その肩を叩く者が居て、振り返ったボブに町の地廻りのチンピラが声を掛けた。


「銀色の髪の娘が居たんだって?」


***


 町中の聞き込みの成果が見込めないばかりか、アルティフェクスでもアルジェントビルでも、他勢力がフロリアらしき少女を求めて聞き込みをしているという状況が判明するに連れて、聞き込み自体が危険だという判断に至ったのだった。


「だけど、どうするのさ? せめて聞き込み位できなきゃ、フロリアの行方なんか判るわけ無いじゃない」


とデリダは、聞き込みをやめると判断したジャンに呆れた表情になる。


 前回の滞在では任務を達成出来なかった。今度こそ巻き返しを図りたいのに……。


「明日は、アルジェントビルの方で、多分地廻り達が立ち寄らないような、皿とか雑貨とか売っている露天商の区域を回ろうと思っていたのに」


「フロリアは巡礼者やってるんだぜ。そんなもの買う訳ないだろう。無駄だ」


 ムッとしたデリダは「じゃあどうするつもりなのさ」と詰問口調になる。


「良いことを考えたのさ。アルティフェクスでフロリアを追っているのは、マルケス伯爵の私兵団だ。傭兵だけど、一応は兵士だからあまり近づけないが、アルジェントビルの方はオラツィオとかいう町で娼館やら経営している奴の手下の地廻りだって話だ。

 そんな連中なら脇も甘いだろう。アイツラの行動を監視していて、なにか手がかりを掴んで動き出したら、跡を追うんだよ」


「呆れた。あんた、娼館に流連けたいだけなんじゃないの?」


「な、何言ってるんだ? これでもキチンと考えた挙げ句の作戦で……」


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