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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第4章 スタンピードとその波紋
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第60話 反撃準備

 フロリアがさっさと町から逃亡した後に、「渡り鳥亭」にはエドヴァルドの手下の指揮下に入る形になったコーエン達がフロリアの捕縛のために到着した。

「渡り鳥亭」では娘のリタは隠れて、大将のマクシムが応対する。

 コーエンはエドヴァルドの手下を意識して、マクシムに対して居丈高に「お前らの宿に魔法使いの娘が投宿しているのは調べ済みである。その娘には疑義があるという代官様のご命令である。我らが捕縛するので、大人しく差し出せ!」と怒鳴る。

 マクシムは大真面目な顔で「確かにあっしらの宿にその娘は泊まっておりましたが、今朝方には消えちまったんでさあ」と答える。


「どこへ行ったのだ? 素直に話さないとためにならぬぞ!」


「宿代は前金で貰ってますので、いちいちどこに行くのか詮索しておりません。何と言っても冒険者ですから、自由に町を出入りして、薬草を集めておったみたいです」


「ふん。それでは、娘が泊まっていた部屋を改めさせて貰うぞ」


「こちらでございます」


 チンピラも同行して、フロリアの泊まっていた個室を見るが、何の痕跡もない。単なる空室に過ぎない。

 

「長く泊まっていた割りにゃあ、人が住んでいたような形跡が無いじゃねえか」


「あの娘はすごく几帳面で毎朝、いちいちベッドを整えて、シーツなんかもちょっと汚れるとすぐ取り替えていたんでさあ」


 結局、何の収穫もなく、冒険者ギルドへ。

 やっぱりソフィーと同じような会話を繰り返して、さらに居残っていた未成年の冒険者にフロリアのことを鹿爪らしい態度で聞くが、収穫なし。


 たまたま居合わせた孤児院グループのリーダーのシリルは、「さあ、あの娘なら森の中に居るのかも。どうしても捕まえたければ、衛士隊は森に行けないんだから、代官様の部下が見に行ったらどうですか? オーガが怖くなきゃだけど」などと答える。

 チンピラの顔色がサッと変わったが、ギルドの建物を覗き込んでいる市民達や、同行している衛士達の雰囲気で、ここでトラブルを起こすとちょっとまずいと判断したようで、この生意気な子どもに何も言わずに見逃したのだった。

 しかし、顔は覚えた、いずれ礼儀を教えてやる、とエドヴァルドの配下は考えていた。


 こうして、手ぶらで代官所に戻った手下は、エドヴァルドから盛大に罵られて、殴られることになるのであった。


 エドヴァルドは代官が管理する町の財産を把握するのに忙しかったが、もう1つ忘れずにやらなくてはならないことがあった。


 フロリア達が分岐の町の帰りに捕まえた盗賊たちの処分である。

 もともとエドヴァルドが手配して、町の交易を破壊する役目を帯びていたのが、最初のヤマでいきなりフロリア達に出くわして逆に捕縛されたのだった。

 彼らの口を塞いでおかなくては、安心して夜も寝られない。

 そこで、「この町の拘置所は狭いので、領都に送る」という名目で、エドヴァルドの腹心だけで衛士の護衛を付けずに領都に出すように命じた。

 

 代官に就任した翌日のことで、如何にも性急なのだが、途中で魔物に襲われたという口実で永遠に口を塞ぐことにしたのであった。


 この時、表向きはエドヴァルドの命令に従っていた、衛士隊長に次ぐ年嵩の衛士が「一番事情を知っている親玉だけは匿っておけ。場所はイザベルに頼めば良い。なに、病気で死んだと言っておけば分かりゃあしない」と気の利いた部下に密かに命じていた。

 その衛士はアロイス隊長から永年の信頼を得ていたベテランで、元々この盗賊共の不自然な行動に疑念を抱いていたので、エドヴァルドの命令を聞いて、答え合わせができた気分であったのだ。

 近い将来、エドヴァルドの策謀を暴いて、隊長とファルケを助け出すためにも、盗賊の証言は必要になると判断したのだった。


 エドヴァルドは、イライラし始めていた。

 副官を始めとする文官達も、表面上は恭しく命令を聞くのだが、全然働かない。衛士達もとても動きが悪い。町の連中も彼らを警戒している。

 商業ギルドの窓口で、帳簿を出せ、税金をごまかしてないか調べる、と怒鳴っても、腹に一物持っていそうな婆さんが言を左右にして中々出してこない。

 冒険者ギルドはそもそもギルドマスターが居なくて、窓口係に怒鳴ってもらちがあかない、という状況が続いていたからである。

 自分が代官として乗り込めば、後はすべてが順調に行くはずであったのに。


 癇癪を起こしたエドヴァルドは、フロリアに現代の日本でいうところの指名手配をかけた。

 罪状もはっきりしないのに指名手配など掛けられないのはこの世界でも当然の法理であったが、王国の中の半ば独立国とも言える領地貴族の領地では、領主の言葉が法、という側面もある。

 この場合は領主ではなくエドヴァルドは代官であったのだが、領主の権限を代行して、フロリアがスタンピードを誘発させた疑いがある、しかも代官の事情聴取から逃亡した、として犯罪者認定をしてしまったのだった。

 

 領地貴族の領主(または代官)が冒険者を犯罪者として指名手配した場合は、その冒険者の口座は即時凍結されるというルールがある。

 冒険者ギルドとヴァルターランド王国(及び、王国の領地貴族)とは互いに独立した組織なのだが、対立関係にある訳ではない。

 冒険者ギルドは王国内で自由な活動をする代わり、王国の国家運営に協力するという関係性が確立している。

 両者の協定の中には、冒険者が犯罪をおかした場合は逃亡を阻止するため、その口座を凍結して金銭の出し入れをできなくするという一文があったのだ。


 エドヴァルドは領都での無頼の生活をしている間に、冒険者崩れの連中とも付き合いがあって、彼らと呑んだ時に、悪事がバレた際に「せっかく貯めていた金が引き出せなくなって困った」という愚痴を聞いたことがあって、そこからこの手段を思いついたのだ。

 これでフロリアは金に困って、どこかでしっぽを出すことになるだろう。そうしたら、すぐに捕まえられる、そう考えたのだった。

 罪名にスタンピードの誘発などとつけてしまったのは如何にも考え足らずなのだが、そのことをエドヴァルドが気付くのは後になってからであった。


 ギルドの窓口係のソフィーをはじめとする町の人々から見れば、言いがかりも甚だしい罪状であるが、正式な代官職であるエドヴァルドの命令とあれば、反抗する手段はなかった。見習い冒険者としては、というよりもこの町の冒険者としては、すでにとんでもない金額が入っているフロリアの口座はそのまま凍結されてしまった。

 ただし、代官側の「幾ら口座に入っているのか報告せよ。その金は代官が差し押さえる」という命令については、ソフィーは「報告義務は無いし、ギルド支部で行うのは凍結のみである。資産の差し押さえは王都のギルド支部と、王国政府が折衝して決定する規則になっている」と突っぱねたのだった(その時には、エドヴァルドの配下が、数時間に渡り、ギルドの窓口で威嚇していたのだが、普段からあらっぽい冒険者を相手にしているソフィー達は特に動じることもなかったのだった)。


 そして、7月28日。

 エドヴァルドが代官に就任(そう言えば正式な就任式もやっていない)して3日目に、ガリオンが帰還した。

 あらかじめソフィーが適当な冒険者に因果を含めて、ガリオンの元に走らせていたので、すでに事情は分かっていた。

 まずは盟友のファルケを早急に救い出さなくてはならない。


 町の大門を入ると、ガリオンはただちにギルドにおもむき、イザベルにも顔を出して欲しいと使いを走らせていた。

 ガリオンがギルドの建物に入って数分後にはイザベルも着いて、すぐに2階のギルマスの執務室で協議に入る。

 エドヴァルドは帰還次第、ただちに代官所に出頭せよ、という命令を出していたが、もちろん無視している(そもそも、国の組織ではないギルド支部のギルドマスターに対して、代官は直接の命令権は無い)。


 ガリオンは、前伯爵の長男がキチンと跡を継いでくれれば、問題は解決する筈だが、どうも領都の方でもかなりの混乱をしていて、アテにならない、そもそも長男が健在かどうかも情報が錯綜している、というイザベルのルートで調べた情報を聞いて、領都に頼ることはできないと判断した。


「だけど、それじゃあ何を頼るんだい。相手が代官じゃ、時間が掛かるよ」


「ファルケが鉄格子の中だからな。時間は掛けられない。王様に手紙を書くつもりだ」


「王様? あんた、おかしくなったのかい? 王様へ手紙なんか書いたって、届くのかい? あたしはこの近くの王国の直轄市のギルド支部に事情説明の手紙を書いて、王都の支部に届けてくれ、とは頼んだけど、せいぜい王都の支部から王国の政府に報告して貰うのが精一杯だよ」


「フロリアの実力ってのは、もう軍隊並だったろ。その報告が上がれば、捨ててはおけないさ。ましてや昔なじみの仲間の弟子だと言われれば、尚更だ」


 そして、ガリオンは20数年前に一時期この町に滞在した冒険者パーティ「大森林の勇者」のリーダー、アドが現国王アダルヘルムなのだと明かした。


「アドさんは、困ったことがあったらいつでも良いから相談しろって言ってくれたからな。まあ20数年も前の約束だが、守ってもらうさ」


「そう言えば、そんなパーティも居たような気もするけど、よく覚えてないねえ。あんたもとんでもないことを黙ってる男だよ」


「とにかくすぐに取り掛かる」

いつも読んでくださってありがとうございます。

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