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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第4章 スタンピードとその波紋
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第58話 新代官

 25日の昼過ぎにはフロリアは、亜空間に戻って寝始めたのだが、目覚めたのが翌26日の朝早くであった。

 17時間以上、寝た計算になる。途中で一度、トイレに起きたような気もするが、ぼんやりしていてよく覚えていない。

 これだけぐっすり寝た効果があって、頭の芯がスッキリとしている。昨日は久々に魔力を限界近くまで使ったためなのか、魔力総量が上がった気がする。

 

「よう寝てたな」


 トパーズにからかわれながら朝食を平らげると、ゆっくりと身支度を整えて、亜空間を出る。


 部屋を出て階下に降りると、またいろいろな人が絡んでくるのかな、と思っていたら、リタがサッと階段を上がってきた。


「良かった!! フロリアちゃんと連絡がとれないから、どうしようと思ってた! フロリアちゃん、すぐに逃げなきゃ!! 衛士が捕まえに来るんだよ! もう逃げ道は用意したから、早く早く!!」


「衛士?」


「そう、事情は後で説明するから早く!」


***


 領都の御前から野営していたエドヴァルドに緊急連絡が入ってきた。

 まだ当分は保つと思われた前伯爵が急死したのだそうだ。

 御前はまだぬくもりが残っている前伯爵の遺体の傍らに立って、「たった今、前伯爵の最期の言葉により自分が爵位を継ぐことが決定した。異を唱える不届き者は成敗する」と宣言し、ただちに市内各所を配下の者に襲わせ、特に前日も摂政として遅くまで働いていた、前伯爵の長男はあっけなく掴まってしまった。

 御前は「殺せ」と命じていたが、その命を受けた者はクーデターに成り行きで参加させられてしまった下級の家臣で、「まだ次の領主が決まった訳ではない」と本来の跡継ぎと両天秤にかけることにした。

 跡継ぎには如何にも忠臣のふりをして、今はその生命を惜しんでお隠れ下さい、とばかりに匿ったのだった。

 それを知らぬ御前は政権掌握に成功したと判断、作戦通りに伯爵に就任したと内外に宣言したのだった。

 エドヴァルドにも、クーデター成功、ビルネンベルクを掌握せよ、との急報が御前配下の従魔使いの操る鳩によってもたらされたのだった。


「くそったれ、その肝心のビルネンベルクは今頃、ちょうど廃墟になってやがる!!」


 魔物を呼び寄せる魔法のフルートを吹いた魔力持ちの配下を処分しようと思ったが、すでに危険を察したらしく、どこかに逃げてしまっていた。

 そこで、とりあえずは偵察に出た部下を痛めつけていたところ、「おーい、やっと見つけたぞ。オーガの餌になったかと思ったぞ」と言いながら近づいてくる人影。交易隊の馬車に同乗していた奴だ。

 

「誰かと思ったら、お前か。つなぎ役だって聞いてたが、ビルネンベルクに行ったんじゃなかったのか。どうやって生きてるんだ?」


「おお、もう駄目かと思ったが、ビルネンベルクは無事だぞ! 凄え腕前の魔法使いの女の子がオーガも何もかも蹴散らしたんだそうだ!」


「何だと!! そいつはありがてえ」


 エドヴァルドは飛び上がって喜んだ。

 さっきはそのつなぎ役を見捨てたのをすっかり忘れて、詳しい話を聞きたがる。

 1頭でも大きな被害を生み出しかねないオーガがレギオン(軍団)になって襲撃してきたというのに、それを正面から撃破した魔法使い!

 しかも、その魔法使いはまだ未成年の女の子で、彼女を近くで見た市民に寄ると「ちょいと年の割りにはあどけない雰囲気だが、目鼻立ちは凄く可愛い。あと数年も経てば、びっくりするぐらいの美人になりそうだ」ということだ。


「なんてついてるんだ、俺は!!」


 すでに夕方近いので、すぐにビルネンベルクに入城は出来ない。だが、翌朝一番には、用意した伯爵家の重臣らしい服に着替えて、部下たちもそれっぽい感じにでっち上げて、堂々と入城し、新伯爵の書付を根拠に町を掌握するのだ!!


「これでハイネ家は復活だ。俺はハイネ一族の長だ!! 準貴族様だ!」


 その夜、エドヴァルドは金のなる木の魔法使いの美少女を侍らせて、町を支配する我が身の姿を夢見ていた。


***


 リタに連れられて、宿の裏口から抜け出したフロリアはすぐ近くの商業ギルドの裏口からギルドの建物の中に入る。


「いったい、どうしたの、リタ?」


「フロリアちゃんの行動に疑義があるから、捕縛して尋問するって、新しい代官様が言っているらしいの」


「新しい代官様? ファルケ様じゃなくて?」


「そうよ。今朝一番に、領都から派遣されてきたっていう新代官がやってきたの。昨日の夜遅くに御領主様が急死して、これまでの御領主さまの甥が遺言で跡を継いだって知らせがきたの。

 その新しい御領主さまが新しい代官を専任したんだそうよ」


「まったく、胡散臭い話さね」


 商業ギルドの建物内に入るや、待ち受けていたイザベルが口を挟む。


「そもそも、これまでの領主の倅がけっこうな出来物で、しっかり跡継ぎとして頑張ってやっていたのさ。それが何でも、反逆を企てた可能性があるとかで捕縛に向かった連中に抵抗して最後には自殺したなんて言い草を信じられるかね。

 しかも、その新しい領主は、前の前の領主の息子だけど不始末をしでかして廃嫡されたような男だよ。

 まともじゃない匂いがプンプンするねえ。しかも、昨日の今日で新代官がやってくるなんて、如何にもな話さね。どうやら、これまでの領主の急死ってのも怪しいねえ」


 そんな怪しげな新領主の派遣した新代官というのが、また以前にこのビルネンベルクの代官であったハイネ家の係累に繋がる者だという。汚職をした挙げ句に、町の生命線であるハオマ草を誤って全滅させたような男に繋がっていて、しかも新代官自身も自分は自分で別口の汚職をしていて、それが一族の当主の汚職の余波で調べ直されてバレて失職したような男なのだ。


「そんなのに捕まったら、お前さんは碌な目に合わないよ。どうせ、金になりそうな魔法使いだから、取り込んでこき使おうってんだろ。

 疑義だって、いちゃもんに決まってるさ。

 代官のファルケは逃げるわけにはいかないから大人しく捕まっちまったが、お前さんはそんなもんに付き合う義理はないよ。町の外に逃げる道を作ったから、お逃げよ。

 どうせ、何日かでエドヴァルドとか言う小僧はとっ捕まって、全部元に戻るからさ、それまで隠れておいで。

 今は町の外はオーガやらがウロウロしていて危ないけど、お前さんなら大丈夫だろう。

 いいかい、間違えても、捕まえに来た衛士とかをやっちまったら駄目だよ。その時点で別な罪に問われるからね。

 それに、コーエンって覚えているだろう。お前さんが命を助けた衛士さ。あの坊やが、お前さんの捕縛を命じられて、出動の準備に無駄に時間を掛けている間に「渡り鳥亭」の親父に急を知らせてくれたのさ。そうした連中をやっつけちまったらさすがに可哀想だしね。

 とりあえずは、正式な書付を持った代官の命令だから従ってるけど、本気でお前さんをお縄にしようというつもりは無いのさ。だから、逃げるだけにしておくれよ」


 イザベルの手配した逃走路とは、商業ギルドの荷馬車で、村人がこの町に逃げ込んできた村はともかく、他にも小さな集落が近隣にあるので、そうした集落へ救援物資を積んで行く荷馬車というのを仕立てて、その物資の合間に隠れて、町を脱出するというものであった。

 その荷馬車を操るのはクリフ爺さん。

 ちょっと本気で調べたら簡単にバレそうであったが、門番も新代官の命令には納得して居なかったので、あっさりと通過できた。


 顔見知りのデレクとフランツが門番を務めていたが、荷馬車の中を覗き込んで、フロリアと目が合うと、ニヤリと笑ってから、大きな声で「良し、問題なし、行っていいぞ」と荷馬車を通したのだった。


 クリフ爺さんは、「ほんとは町の英雄をこんな形で外に出すなんて恥ずかしい限りじゃが、ほんの少しの辛抱じゃよ。町から見えなくなったら、馬車から離れても大丈夫じゃ」と後ろのフロリアに声を掛ける。


「お爺さんこそ、護衛なしで町の外にいたら危ないんじゃないですか?」


「なあに、この辺には魔物の掃討に出ておる冒険者パーティが幾つもある筈じゃ。そのウチの1つに会えば、訳を話して護衛してもらうさ。それで数時間経ったらすぐに戻るから大丈夫じゃ。

 さ、そろそろ良いぞ。行きなされ」


「ありがとう、お爺さん」


「お嬢ちゃんなら大丈夫だと思うが気をつけてな」


 フロリアは荷馬車から離れて、少しのあいだ探知魔法で追っていたが、どこかのパーティと合流したのを確認して、自身の逃走に移ったのだった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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