表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第3章 ビルネンベルクへ
35/477

第35話 戦闘

 5分ほど、森の奥に進むと周りの冒険者も魔物も居なくなってきた。

 木々が途切れて、小さな広場になっている。

 フロリアはその広場の中央で立ち止まって振り向く。


「フロリア。危なくなる迄、お前が1人でやってみろ。魔物を倒す時のつもりでやれば良い」


「うん。あ、でもニャン丸は使いたいかな」


「あれはもうお前の従魔だ。好きにしろ」


 フロリアは、ニャン丸を呼び出すと影に潜ませる。


「いきにゃり影のにゃかは寂しいにゃ」


「すぐに出番が来るから我慢して。上に鳥が舞っているの分かる? 多分、あれがカイの従魔だから、襲ってきたら返り討ちにして」


 広まっている場所を選んだのは、森を荒らさないためもあるが、カイに徹底して力の差を見せつけるために、わざわざ空から攻撃できる場所を選んだのだ。


 すでに歩きながら、自分の体を盾にして、カイから見えない位置取りでドライアドとノームは呼び出して、この広場に潜ませている。

 カイも召喚スキル持ちだというので、精霊が見えるかも知れない。それを警戒して、木陰や土の中に隠れさせている。


 じっとカイの来る方向を見ていると、カイの方はフロリアの意図を測りかねたのか、少し躊躇していたが、それも数瞬。すぐに広場に入ってきた。

 すでに十分に殺気に近いものを漂わせている。


「何の用事ですか?」


「ふん。わかっているだろう。まあ、逃げずにいることだけは褒めてやる」


「ギルドマスターから警告が行ったと思いますが」


「けっ!! お前もつまらんことをする。魔法使い同士は、どちらが強いかで何もかも決まるんだ。まあ、だがお前みたいな小娘を怪我させるのも可哀想だ。大人しく俺の言う事を聞いて、俺の従者になればかわいがってやるよ」


 フロリアは本気でちょっと驚く。そんなことを目論んでいたのか。

 カイの方は初めて、ある程度、近い距離からフロリアをじっくりと見て、"こりゃあ、こき使うだけじゃなくて、あと2,3年すりゃあ可愛がる方でも美味しそうじゃねえか"などと考えている。


「ふうん。てっきり、力比べがしたいのかと思ってました。まあ、どちらにしてもあなたの力じゃあ、私の足元にも及ばないと思いますよ、ええと、カイ……下位ランクさんでしたっけ?

 攻撃魔法使いの冒険者って、Bランクが平均だって聞きましたけど、平均以下の力しかないのに、人を思い通りに出来るなんて思わない方がよいですよ」


 カイの顔がみるみる紅潮する。

 フロリアはこんなふうに他人を煽るのは初めてに近いのだが、どうやら思ったよりもうまく行ったらしい。

 カイが怒りを表すに反比例して、フロリアの方は緊張がほどけていく。

 アオモリの奥で魔物を相手にしていた時の心持ちが蘇ってきた。


「少し痛い目に合わせてやる」


 カイはフロリアに向けて手を開いて突き出すと、その掌の前に小さな火球が生まれ、フロリアに向かって飛ぶ。

 ファイヤーボールか。

 それにしては速度が遅いなあ、と思いながらフロリアは微動だにせず、体の前面に防御魔法を展開して、ファイヤーボールを弾く。どうやら、彼の技術では手を離れた火球はもうコントロールできないらしく、弾かれた火球は地面に転がる。

 周りの草を燃やし始める前にフロリアは上から水魔法で水をかけて消火する。


「危ないですよ。森が火事になったらどうするんですか!?」


 カイは、まずは脅かすつもりで若干、的から外して弱めのファイヤーボールを撃ったのだが、それをあっさり処理されて、ますます頭に血が上ってきた。


「どうやら本気を出させたいらしいな! 後悔するなよ、小娘!!」


 カイは数発のファイヤーボール、ウォーターカッターを乱れ撃ちする。

 万が一、フロリアを殺すか、再起不能にしてしまうと、もう自分の従者としてこき使うことができなくなるので、まだ若干の手加減はしていたが、相当に本気度は上がっている。


 しかし、その攻撃魔法もフロリアを微動だにさせることはできなかった。


「もしかして、この程度の魔法で、魔法使いだって偉そうにしてたんですか?」


 首をかしげる動作は可愛いが、それが逆に忌々しい。

 カイの魔力容量では、これだけの攻撃でもう底を尽きかけている。こうなれば全力で行く。


 カイの魔力が手の前でみるみる膨れ上がっていく。


 またファイヤーボールか。芸のない。――いや、同時に上空の鳥が急降下してくる。魔法攻撃がずれたら、従魔の鳥に誤射しかねないのに、よくそんなことを命じるとフロリアはちょっと呆れる。


「ニャン丸。出番よ」


 フロリアは今度は2発の全力ファイヤーボールをウォーターウォールを変形させたキャッチャーミットのようなクッションで受け止める。魔力の差でファイヤーボールはジュッという音を立てて、蒸発する。

 同時にニャン丸はフロリアの頭上にジャンプして、降下してくる鳶に似た魔物の爪をかいくぐり、「にゃん!」と叫びながら、猫パンチを入れる。

 鳥はバランスを崩して、地面に落ち、その上に空中回転したニャン丸が着地して、羽根を押さえつけて、飛べなくする。


「ご苦労さま、ニャン丸。そのまま抑えといてね」


「にゃああ」

 

 全力の攻撃をあっさりといなされたカイは、信じられないという顔をしたが、もう魔力はいくらも残っていない。

 従魔を捨てて、踵を返して逃げようとした瞬間、カイの足元の地面が消えた。

 まるで落とし穴がいきなり生まれたみたいなもので、カイは腰ぐらいまで下半身が地面にすっぽりと嵌ってしまった。

 出ようとして、両手を地面についた途端。蔓草が一瞬の早業でカイの両手に絡みついて、手を動かせなくなる。


「畜生! 何をしやがった!!」


 フロリアはそれに返答せずにスタスタとカイの近くまで歩いてくると、「勝負ありですね。悪いけど、ちょっと痛い目にあってもらいますね」という。

 地面は下から盛り上がってきて、カイの下半身を地上に押し出すが、カイが立ち上がる前に、他の蔓草が両足に絡みつき、カイを拘束する。


 地面に転がるカイは、近づいてくるフロリアを見上げ、「畜生、離しやがれ。こんなことをしてただで済むと思うなよ!!」と叫ぶ。


 フロリアは、「当分、そこで反省していて下さいね」とつぶやき、つま先でカイに触れる。

 その瞬間、カイの全身を電撃が走り抜ける。雷属性の魔法の応用である。


「ぎゃあああああ!!」


 カイが叫ぶ。

 股間がみるみる黒く濡れてくる。


 うわ、すごく臭う――フロリアは露骨に嫌な顔をして、二、三歩、後ずさる。

 

 この魔法はこれからあんまり使わない方が良さそう。

 

「これで、分かりました? 今回はある程度は手加減しましたけど、次があるとは思わないで下さいね。私は別にあなたのお仕事を取ろうとは思ってないんですよ。お互いにちょっかいを出さなければ、平和で過ごせるんだって考えて下さいね」


 多分、大人の男性だと思うが……あ、「剣のきらめき」のジャックさん、それにギルマスも居る。その他、数名の気配が急速に近づいてくる。


"あ、そうか。私とこの人が続けて門をでたから、様子を見に来たんだ"


 やっと気がついたフロリアは、カイを捨てて、この場を立ち去ることにした。男性達が近づいてきたら、蔓草は自動解除させてあげる。失禁したのを隠して立ち去るかどうかはカイ次第である。

 フロリアは、ニャン丸から鳥を自由にさせると、ニャン丸を送還して、足早に立ち去っていった。ドライアドとノームはフロリアから少し遅れて、この広場を去っていった。


いつも読んでくださってありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ