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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第3章 ビルネンベルクへ
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第26話 子どもたち

 それからの日々は、森に薬草採取に出ても、お散歩に出ているようなもので、新鮮な空気を吸ってノンビリとその辺を歩いたり、ひと目が無いと、亜空間に入って中で煮炊きをした(研究の結果、匂いや煙を吸い取って収納袋にしまう換気扇の魔道具を強力化することで、あまりに強烈な匂いを出さないものなら大丈夫になってきた)。

 それで、夜はその煮炊きした食事を自室でとるもので、あまり宿の食堂で食べなくなって、リタに残念がられたり、「お金が厳しくなってきたのなら、もうここで一緒に働こうよ」と誘われたり……。

 

 トパーズも慣れてきて、フロリアが森の浅いところでウロウロしている限りは、ケットシーを呼び出して、見張り番をさせると、自分は風のように森の奥深くまで走っていって、狩猟本能を満たすようになっていた。

「剣のきらめき」はたまに冒険者ギルドで出会うたびに皆、気軽に声を掛けてくれるようになっていった。一番無口なパウルも、フロリアを見ると笑みを浮かべて会釈ぐらいは返してくれる。

 一方、「野獣の牙」は同じ宿に投宿しているだけにもっと出会う機会は多いのだが、3人ともフロリアのことを意識しているのは相変わらずで、どこか素っ気ない。それをリタは「私の方が年上なのにフロリアばっかりモテる」と悔しがる。「まあ、あの人達にモテてもあまり嬉しくないけどね」


 そんなこんなで、人の多い町中で暮らすにしては比較的平和な時期が続く。季節も冬が終わり、春が来て、そろそろ初夏になろうか、という頃。

 フロリアは、これまでよりもチカモリの奥まで採取に出ることにした。

 初級ポーションを作るための素材が足りなくなってきたので、探すためである。それほど珍しい薬草ではないし、チカモリに自生していることもわかっているのだが、森の浅いところ(経験の薄い見習い冒険者でも簡単に行けるところ)では探し出すのが難しくなってきているのだ。

 もっと希少な薬草は収納スキルの中に大量にストックがあるのだが、それを使って初級に効能を抑えるのは逆に難しいし、もったいない。

 ハンスさんに言えば、他の冒険者が採取してギルドに買い取らせた薬草を回してくれるのは分かっていたが、儲けが減るし、そもそも保存が良くないものが多いので気に入らなかったのだ。


 というわけで、トパーズも今日はフロリアの影に入っている。森の深いところとは言え、日帰りで行ける程度なので周りにひと目があるかも知れないのだ。

 それでも、探知魔法をフル稼働して、同時に久々のドライアドの助けも借りて、採取を続ける。

 ちょっと本気を出せばこんなものさ、とフロリアは歌いだしたくなるぐらいには、本日は好調であった。必要な薬草はすべての種類が十分な量を採取できた。

 そればかりか、料理に使うハーブに、春に美味しくなる山菜やキノコも採れた。


 午後のまだ早い時間ではあったが、もう切り上げて帰ることにした。

 森の奥まで行った分、帰りに掛かる時間も増えるし、多少は窓口で売る分もあるので、他の見習い冒険者達の帰還と時間帯が被ると買い取り窓口が混む。

 そう考え、踵を返して町の方へ歩きだして数分、右手奥の方で人の気配を探知した。別に人の気配自体は不思議なことはないのだが、1人だけというのが気になる。フロリアだって(トパーズを計算に入れなければ)1人で採取をしているのだけど、他にそんな冒険者は居ない。見習いを抜けて成人している冒険者であっても、このあたりまで潜るのなら、複数が基本である。

 それにどうやら動いていない。採取しているから動かないのなら良いが、動けないのかも知れない、という気がする。


 フロリアの探知魔法は薬草や魔物の気配の探知は得意だが、人の気配の察知はあまり得意ではないし、ましてやその人の感情まで察知できたアシュレイにはまだまだ遠く及ばない。

 それでも、このビルネンベルクでの生活でかなり人の感情(恐怖や焦り、敵視、注目など……)はけっく判るようになっていた。

 今、右手の方から感じる感情は恐怖と混乱であった。


「ちょっと行ってみるよ。何事も無ければスルーすれば良いのだし」


とトパーズに言うと、「まあ、他に魔物の気配も無いしな。別に構わんだろう」とのこと。


 それで5分ぐらい歩いて、小さな泣き声が聞こえてきたので「そこに誰か居るの?」と声を掛けると、今度は大きな声で「わー!!」と泣き始めた。

 子供の声だ。

 近寄ってみると、5~6歳ぐらいの女の子だった。なんとなく顔を覚えている。確か、孤児院グループとフロリアが名付けた集団で見かけた気がする。


「1人でどうしたの? いつもお仲間と一緒でしょ?」


 その子は鼻声で聞き取りにくいながら、どうやら「居なくなっちゃった」と答えたらしい。

 名前を聞くと、ミナというらしい。

 いつものように孤児院の仲間とお姉ちゃんのリコと一緒に森に採取に出たのだけど、薬草を探して下を向いて一生懸命になっているうちに、はぐれてしまったのだという。


「私はフロリアっていうの。ちょうど町に帰るところだったから、私と一緒に町に帰りましょう。私の顔を覚えているでしょ」


 少女はコクンとうなずいた。


「きっと途中でお姉ちゃん達とも行き会うから大丈夫だよ」


 フロリアはそう言って、少女に立つように促す。

 少女の話を聞いた時点で、探知魔法の範囲を広げて、すでに6人の集団が1キロほど先に居るのを見つけている。かなりの焦燥の気配が感じられるので、この子を探しているのであろう。


 フロリアは、ミナの手を引きながら、その気配の方を目指す。

 

「こっちで町に帰れるの?」


「うん。町に戻るにはちょっと遠回りだけど、お姉ちゃん達はこっちに居るから先に合流しましょう。ミナを探していて、なかなか戻らないとそれはそれで困るから」


「なんで、こっちに居るって判るの?」


「あ……、うーん、私の特技かな。皆に言っちゃダメだよ」


 トパーズが影で呆れているのが感じられる。いや、小さな子だから大丈夫だよ。うん、きっと。


 10分ほどで、「ミナー! ミナー!」という大声が聞こえてくる。

 

「ほら、お姉ちゃんたちだ」


 ミナは「おねえちゃーーん」と叫ぶ。


 走り出そうとするが、フロリアは手を離さない。


「森の中は危ないから、歩いていけばいいのよ」


 もどかしそうにするミナだが、無事に数分後には再会出来る。

 ミナに似た髪の色をした少女(フロリアと同じぐらいか1つ年下くらい)がミナを抱きしめて大泣きする。この少女がお姉ちゃんなのだろう。


 一緒に居た、他の子どもたちがフロリアを囲むようにする。


「助けてくれたみたいだな。ありがとう。俺たちは町の孤児院のグループで、俺はシリルっていうんだ」

 

 一番年嵩の男の子が代表して挨拶する。


「たまたま、見つけただけだから気にしないで」


「いや。こんなところではぐれたら、下手すりゃそれっきりだ。本当に助かったよ」


 子どもたちはそれぞれに名乗る。ミナとミナのリコ、メリッサ、ナタリア、エド、ドナ。それにリーダー格のシリルで7名で活動しているのだという(どう考えても、翌日まで覚えてられないだろう、とフロリアは思った)。

 今日は、割りと大きめの薬草の群生地を見つけて、皆でそれに集中している間に一番小さなミナが居なくなってしまったのだという。


 リコもようやく落ち着くと、フロリアにしっかりと礼を言う。

 そして、聞かれもしていないのに、本当はミナのような小さな子は連れてきちゃいけないのはわかっているけど、私の姿が見えないと不安定になるし、かと言って、ミナを連れたまま町中の雑用はできないし、薬草採取しかないのだ、とちょっと言い訳じみたことを言う。


 フロリアとしては無事に再会出来たのなら、別の関係の無い話である。

 それで、もう町に帰るというフロリアと一緒に孤児院グループも帰ることになった。普段はもう少し頑張るのだが、どうやらミナを無事に探し出したことで急に疲れを覚えたらしい。


 帰る途中で少し話をしたのだが、普段は孤児院で飼っている犬を魔物よけに連れてくるのだそうだが、先日その犬が死んでしまい、孤児たちだけで採取に来たらこの始末だそうだ。


 やっぱり、新しい犬を飼わないと駄目だな、コーエンさんかアロイス隊長に頼もうか、などと相談が始まる。

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