第100話 追跡者達の接近
モリア村にオラツィオの手下共が到着した。
女衒のマルコが率いる20名程度のチンピラ。普段は娼館で下働きをしたり、町で肩で風を切って歩いていたりするので、こうした旅には慣れておらず、一日の行程だがけっこう消耗している。。
閉鎖的で静かな村に、こうした鉱山町のチンピラが大挙して押し寄せてくるのはこれまでに無かったことで、村人達が困惑していると、マルコは慌てて出てきた村長の老人に
「あー、別に村を荒らそうっていうつもりはねえんだよ。ただ、ちょいと聞きてえことがあってな。
あ、それで何日か泊めさせて貰うから、そのつもりで。いや何、大したもてなしなんざいらねえよ。雨風をしのげる場所に、飯が出てくりゃ、それで十分だ。こんな村じゃあ、用意できる女もまともに居ねえだろうからな。特に俺たちを満足させられる女となるとな」
そう言って下品に笑う。
村長は、険しい表情で彼らを睨みつけて居る。
「そんな怖い顔しなさんなよ。何日か前にこの村に銀色の髪をした女の子が来たな。その娘はどこに行ったんだ?」
村長の周りの村人たちは顔を見合わせる。
「隠したってわかっているんだ。この村のボブって奴から聞きつけてな。だが、細けえことが判らねえ。実際に娘に会ったモンは話を聞かせてくれよ」
これで、ボブがまた里帰りした時にはさんざん責められるのが確定した。
「なあに、ただでとは言ってねえ。役に立つ情報を教えてくれりゃあ、それなりの対価は払おうってんだ」
おかみさんの1人が答える。
「確かに銀色の髪の娘なら5~6日前に来たよ。詳しいこと話したら幾ら呉れるんだい」
「やっと話が通るようになってきたな」
マルコはニヤリと笑う。
***
詳しい事情を聞き出したマルコは「岩山に遺跡ねえ」と村の向こうにそびえる岩山を見上げる。
けっこうキツそうな山だが、他に証拠はない。
部下の内、数名を選抜すると、マルコは岩山に登るように命じた。
「マルコの旦那。娘は父親と引き返したってことじゃねえですか。今頃はアルジェントビルに戻っているんじゃねえですかね。こっちもすぐに戻ったほうが。
いや、山に登るのが嫌で言ってる訳じゃねえんですが、そもそも親子連れだったって、ホントにその娘が探してる娘なのかも……」
「俺は登れって言ったんだ。グズグズ囀る暇があったらとっとと登れ」
マルコは普段は襟の大きな胸元の開いたシャツを着て、ひょろっと痩せた軟派な半端者にしか見えない。だが一旦切れると、オラツィオ配下では一番容赦が無いと言われている。他の手下に対しても、女に対しても、そして客に対しても。
さすがにマルコの不機嫌そうなオーラを感じた手下は、慌てて「す、すぐに登ります。別に嫌ってわけじゃねえんです」と叫んで走っていく。
「それじゃあ、俺たちは一休みさせて貰うぞ。その一番でかい家でいいか」
若い男がほとんど鉱山に働きに出ていて、村に居るのは女性と子どもと老人ばかり。数名減ったとは言え、武器も持っているし、村長には彼らを断ることなど出来なかった。
***
マルケス私兵団は50名ほどと、私兵団としてはかなりの大部隊でモリア村にやってきた。
その中にはブルーノ・コッポラも予知魔法使いのレベッカも居る。
50名のうち20名は重武装をしている。少女1人を捕獲するのにとんでもなく大げさと思われるかもしれないが、リベリオ団長はこうした仕事をしていて傍若無人な割りには、反面非常に慎重な性格でもあった。あるいは慎重だからこそ、長年、傭兵団の頭領で貴族の雇われ、という難しい仕事を大過なく務められているのかも知れない。
フロリアが持っている、パレルモ工房のゴーレムの性能をはるかに超えるゴーレムと言うのを警戒していたのだ。
私兵団の先触れがモリア村に先着したところ、すでに鉱山町の方のチンピラの集団が居るのを発見。ただちに後続のリベリオ団長に伝令を出し、さらにチンピラ達の親玉の女衒のマルコを呼び出し、尋問をする。
傭兵とは言え、騎馬で重武装した兵士と、町のチンピラとでは勝負にならない。
しかし、マルコも心得たもので、当初は兵士たちの尋問をのらりくらりと躱していた。
別にモリア村に滞在していても、国法を犯している訳ではないし、この騎士たちには正確にはマルコ達を尋問する権限は無いのだった。
マルコはそれを遠回しに、騎士に言う。
マルコも内心は冷や汗をかいている。騎士たちが面倒だと判断したら、仲間もろとも皆殺しにして、死体はその辺に埋めて、村人に口封じをすれば、それで誤魔化されてしまう公算は多いにある。
しかし、ここで簡単に引いたら、デブのオラツィオの処罰はシャレにならないものだろうし、手下たちに示しがつかない。
そのマルコの態度に業を煮やした騎士は、遠巻きにしている村人達に、「おい、コイツラが何を目的にここに居るのか、申告しろ。それともお前たちもこのチンピラの仲間と判断しても良いのか?」
村人たちは村長を見る。村長は、一歩前にでて、「騎士様方に申し上げます。このお人達は、この村に銀髪の娘が訪ねてきたかを調べるために来たのでございます」と答える。
「ほう。それは良いことを聞かせてくれた。それで、コイツラはこれで全員なのか?」
騎士はそう答えながら、同行してきた他の騎士に合図を出し、他の騎士たちはマルコ達を包囲するように広がる。
「1人も逃がすなよ」「少しでも逆らったら構わぬから斬れ」と確認しあいながら。
そして、村長に経緯を聞いている間に、リベリオ団長達も到着する。
村長を尋問していた騎士は、すぐにリベリオ団長の元に駆け寄ると、ここまで聞いたことを報告する。
リベリオ団長は頷くと、騎馬のまま私兵団から前に出て、マルコの前に立つと、「お前達がフロリアのことを探しているというチンピラだな。岩山に登ったという奴ら以外は、これで全員揃っているな」と確認する。
「はい。揃っています」
村長が答えると、「よしわかった。この首領格の奴だけ残して、セルジオの隊は残りの連中を村の外に連れていって、いつものようにしろ」と後ろを振り返りもせずに、部下たちに命じる。
マルケス私兵団のいつものやり方で、まずは処分すると決めた者にスコップを渡して穴を掘らせると、殺してその穴に入れて埋め戻す、というものである。
「その辺に放置したら、流行り病の元になるかも知れねえし、アンデッドになるかも知れねえ。俺たちは、これでも時には伯爵家の紋章を背負っていくさ働きをすることだってあるんだ。周りの連中に余計な迷惑を掛けねえように、キチンとしてなきゃならねえんだ」
というのが、リベリオ団長の口癖なのであった。
蒼い顔をしたチンピラ達が、騎士たちの槍に突かれるように村の外に連れて行かれると、その手下たちに負けないぐらい青ざめたマルコにリベリオ団長は「さて、こんな広場じゃ落ち着かねえな。どこかでゆっくりと話をしようじゃねえか」と声を掛ける。
村長宅は、村で一番広くて、時に町のお役人を迎えることもあるのだが、今はチンピラたちが根城にしたので、かなり荒れていた。
「申し訳ありませんが、すぐに片付けさせますんで、お待ちくださりませんでしょうか?」
村長の言葉を、「ふん、仕方ねえか」とリベリオ団長は承諾すると、重武装した騎士にマルコを縛り上げて、村の中を念のために調べておけ、そして、ステファン小隊長率いるもう一つの小隊に岩山を登ってフロリアの痕跡を調査し、チンピラの残りを始末せよ、と命じる。
ようやく100話です。書き溜め分はまだあるので、もうしばらく毎日更新できそうです。
自由気ままに書いているので、後で読み返してみて我ながら判りにくかったり、回りくどかったり……。
気になるところは随時修正していますが、今度は修正作業が終わらなくなっています。
読んでくれる方には感謝しかありません。




