「ツインテールと酒」
ご無沙汰の更新です
32話「ツインテールと酒」
「えっ?それって、ソフィーを見つけたってこと?」
「ちょっと待って、アイシャ、まだ確定情報じゃないわ。」
レイモンドの持ってきたソフィーと思われるエルフの目撃情報に、アイシャとアリアも動揺を隠せなかった。
「とりあえず状況を整理しよう。5人の男たちは、東部の集落で強姦未遂で捕まったわけなんだが、現在犯罪者にもソフィーの目撃情報を調査していた所、1個前に居たクトル村で、2人の子どもを攫おうとした所、右眼を隠したエルフの女に返り討ちにあったらしい。エルフは中々見かけない種族だが、辺境では居ても不思議じゃないが…」
「…右眼か…」
「そこが気になるな。それに、1人は氷の棘で肩を負傷したと言っていた。ただ、エルフを見かけただけなら、まだ分からないが」
「他の情報がソフィーに繋がるわね…氷魔法が使える所も、右眼を隠している所も。」
アイシャと違って、アリアは冷静に考えている様子だった。
「あぁ、だが…」
「だが?なに?はっきり言いなさいよ。まったく。」
「自分で行きたいんだが…帝国の動向が気になってそっちの調査に向かわしたから、人員が割けないんだ。」
「じゃあ、私が行く!」
調査に人員が足らないと言ったレイモンドの言葉に対し、即座にアイシャが自分が行くと言い出した。
「いや、だが…そんなちょっとお出かけで行くような距離じゃないんだぞ。」
実際、王都からクトル村まで馬車を用いても1週間近くかかる。女性だけで安易に行ける場所とは言えなかった。
「でも、兵士連れてくのと、私が行くのだったら、どっちがソフィーと話せる可能性が思う?」
「確かに…」
ソフィーの信用を得られる可能性が高いのがどちらなのかはレイモンドにも明らかだった。
「大丈夫レイモンド。私とアイシャで行ってくるから。研究の素材集めに行くって口実を作れば問題無いでしょ。」
アリアも同行すると言い出した。
「あぁ…分かった。こっちでも上手いこと誤魔化すよ。」
「よろしくねぇ〜」
「あぁ…」
そう言って、レイモンドは重そうな体を椅子から持ち上げて、部屋を出ていった。
「じゃあ、アイシャ出発の準備をしましょ。」
「はい!」
(待っててねソフィー)
アイシャも自室に戻るために部屋を出ていき、1人残されたアリアも、持ち物をまとめ始めた。
そして、その研究室の窓辺にとまっていた金色の羽毛の小鳥が3人の話を聞き終えて、空に飛び立って行った。
その小鳥は、王宮の方に向かった。
その屋根には金髪の男が座っており、小鳥は男の傍に行くと、突然小鳥が金色の羽になり、そして、髪の毛に変身し、他の跳ねた金色の髪の毛と同様に男の頭に植えられた。
(ダンタリオン、餌にかかったよ。準備が出来次第行くと思う。)
(了解した。素直に一緒に戻るとは思わんが、半魔の存在を確認するまでは泳がせておけ。素直に奴らと一緒に来なければキマリスと部隊を行かせる。フェネクス、お前は1本追跡に使ってくれ。)
(追跡の事は元からするつもりだったが、半魔ってなんだ?)
(対象の片目がアガレスの目だからだ。半分だから半魔だそうだ。多分雰囲気でバエル様がそう言ったのだろう。)
(まぁ、良いよ。俺は俺でやる事やるし。じゃあね。)
「行け。」
その言葉と同時に、今度は先程とは逆の順序で髪の毛が羽に変身し、そして、小鳥に姿を変え、再び軍務局の方へ向かって行った。
魔王ギルガゼイヤの配下の37柱目の、諜報に長けた悪魔。それがフェネクスだ。昔から魔王の元でその髪の毛を変身させた自身と、資格を共有出来る小鳥で、世界中の情報を手に入れることが彼の使命だった。そして、数百年前から、彼はバエルの配下として、同じく、諜報任務に当たっているが…
(面白いな…俺には防音結界なんて意味無いのにさ……バエル様は対象の殺害を望んでるけど、俺は少し気になるな…本人に認められたかどうかは関係無く、兄上の膨大な魔力操作の力を制御しているエルフの少女の存在…。)
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(アイシャとアリアが王都を出発してから1週間後)
「ちょっと!!何よこれ!!!!」
元アガレスの住処の空間にソフィーの声が鳴り響いた。
「レイ!どこ!」
「ど、どうしたんですか?お、お嬢様…?ぷっ」
平常心を装うとしているのは誰が見ても分かったが、隠しきれずに笑ってしまっていた。
「で、何よこれ。言わなくても何かは分かるでしょ?」
ソフィーは腰に手を当ててレイを睨んだ。
「それは…」
それとは、ソフィーの髪型の事だった。
普段ソフィーは肩に当たるほどの長さの髪を結んだり、留めたりすること無く自然に下ろしていた。
レイはそれを常日頃から勿体ないと思っていた。だが、無論、ソフィーが素直にヘアスタイルを弄る事を許すはずがない。
そこで、レイは寝ている最中に髪を結んでしまおうと画策したのだ。
たまたま椅子に座って机に突っ伏して授業中の居眠りと同じポーズで寝てしまった時に、勝手に髪の毛を赤いリボンの付いたヘアゴムでツインテールで結んだのだ。
今のソフィーの頭部は、普段自由に散っていた絹のような白い髪の毛が、2つに分けて結ばれていた。
(違和感がすっごい。前世でもこんなのした事ないよ…)
前世では、医者という仕事の都合上、長いのは邪魔に感じてしまい、常にショートにし、衛生面も考慮して、カラー等もしてこなかった。
「お嬢様は元の素材が良いんですから、もっとオシャレに気を遣うべきですよ!そのリボンだって、お嬢様の瞳と同じで似合うと思って買ったんですから。それに、起こさない様にして結ぶの大変だったんですよ!!」
そう言ってレイは、拗ねたのか、ほんの少し頬っぺを膨らました。
「そうだな。我も今の方が良いと思うぞ。」
トレイスもレイに便乗した。
「はぁ…2人とも…」
不本意ながら、ソフィー自身も壁にかけてあった鏡を見て、可愛いなと思ってしまった。
そもそも転生した当初から、このソフィーの顔は気に入っていた。前世は社畜?に近く、決して健康的な な顔とは言えなかった。
レイ曰く、眼を継承した後直ぐの顔も、これまで見た事もないくらい不健康だったらしいが。
“我もその、ついんてーる?の主の方が好きだな。”
遂にはアガレスもレイ側に行ってしまった。
(ちょっ!)
“だが、実際主も不機嫌そうな言動をしながらも、気に入っているように我には見えるが?”
(くっ…)
「レイ。」
「はい?」
「毎日はやだ。私は着せ替え人形じゃないしね。でも…」
「ん…?」
「こ、これは…可愛かった…」
鏡は見ていなかったが、ソフィーには、俯いている自身の顔が赤くなって温度が上がっていくのが分かった。
「まぁ!じゃあまたしますね!他にも色々考えてるので、楽しみにしててください!」
先程まで頬を膨らましていたレイの顔が、ソフィーが少し嬉しそうだったのを見て、パァっと輝くように明るくなった。
「ほ、程々にしてよね!じゃあ、村に行くから。」
そう言って、ソフィーは逃げるように外に出た。
「ソフィー様、我も行きます。」
「はいはい、どうぞ。」
一緒に暮らし始めて以来、外出しようとすると、必ずアズラエルか、トレイスが着いてくるようになってしまった。本人達曰く、アガレスに対しても同じようにしてたそうだ。
ソフィーも、最初は抵抗があったが、結局最後は折れた。
「感謝する。」
そう言ってトレイスは、初めて会った時と同じ黒いオオカミの姿から、赤い鷹に姿を変え、ソフィーの左肩に止まった。
「はい、じゃあ行くよ〜」
そう言ってソフィーはいつも通りの手順でクトル村に転移を行った。住処には、レイとアズラエルの2人が残された。
「私はこのまま外で見張ってますので、レイ殿はいつも通りお過ごしください。」
「すみません…本当に自由なんです…」
申し訳なさそうにソフィーの自由奔放ぶりを謝罪した。
「かまいません。むしろ、アガレス様の眼の重圧に耐えながらあそこまで楽しげに過ごせているなら、私は好きにして欲しいです。」
「楽しげに見えますか…?」
「違うのですか?」
「いえ、まったくそう見えないわけじゃないですし、王都での生活を見てなかったので、分かりませんが、明らかに笑顔が減ったように私には見えます…」
「そう…ですか…笑える日が来ると良いですな。」
「えぇ、そうですね。」
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ソフィーとトレイスは、いつも通りの村の道から外れた森の茂みの中に転移した。
葉っぱを揺らしながら、その中を抜け出す。
「村の人には、ソフィリアって呼ばれてるの頼むから忘れないでね?」
「勿論です。」
会話をしながら村の入口に近づくと見覚えのある背の低い2つのシルエットが見えてきた。
「ソフィリアお姉ちゃーん!!」
2人は手を振ってソフィーの事を呼んだ。
「好かれているんですね。」
「なんかね、気づいたらこうなってたんだ。」
ソフィーの心の中には2人を自身に課せられた呪いに近いものに巻き込まないか危惧する気持ちが存在していたが、それを誤魔化すかのように押し殺して、2人の方に手を振りながら村に向かって足を進めた。
「やっほ、マナ、ルナ、元気?」
そう言って2人の頭を優しく撫でた。
「うん!元気!」
「姉さんは時々元気過ぎる。パパとママを困らしてる。」
「ちょっとルナ!そんな事無いって!」
「子どもはそのくらいが、ちょうど良いよ、大人になってからじゃ中々はしゃげないからさ。」
「え?お姉さんだって子どもじゃないの?」
「え?私は3…じゃなくて…」
危うく前世の年齢を言いかけてしまった。
誤魔化すかのように咳払いをして会話を続ける。
「エルフって寿命が長いから、見た目通りの年齢じゃないのよ。見た目は子どもだったとしても、お酒だっt…」
(ん?お酒…?お酒?お酒!?お酒!!!!)
「よしっ、これから酒場に行きましょ!」
隠されていない方の左眼を今にもラメが飛び散りそうな程キラキラ輝かせながら、提案した。
「え?良いの?大人からってママが言ってたよ?」
マナが若干心配した様子で聞いてくる。
「さっき言ったじゃない。エルフの年齢は見た目で判断出来ないのよ。だから大丈夫!」
「わ、分かった。じゃあ行こう…」
今日することも決まり、村の中に向かって、並んで歩き出した。
“主よ、本当に飲んで良いのか?”
(えっ、ダメなの?)
“いや、ダメなことは無いが…まぁ、良い、好きにしてくれ。”
(うん、そうさせてもらうね。)
クトル村の酒場は食堂と2つの役割を兼ねた場所で、夜は男たちの憩いの場所になっていた。
木の扉を開けて中に入ると、数人が語らいながらくつろいでいた。
「いらっしゃーい、好きな所に座って。」
中に入ると、太めのシルエットの3、40代くらいの女性が出迎えてくれた。
「はーい。」
4人は窓際の席を選び、ルナとマナと、ソフィーとトレイスが向かい合う形で席に付いた。トレイスは店内で他の魔物に変身出来ないので、鷹のままで椅子の背もたれを掴んでいることにした。
「2人とも、何か甘いもの頼んでいいよ、私のわがままでもあるし、お姉さんの奢りよ!」
「「やった!!」」
彼女の言葉を聞いて、マナとルナは、椅子からはみ出た2本のしっぽが感情を表すかのようにパタパタと振った。
「じゃあ…私はフルーツパフェ」「あっ、私も!」
「おっけ…すみませーん!」
ソフィーは、元気よく店員を呼んだ。
「はいよ、注文決まったかい?」
「えっと…フルーツパフェ2つと、肉串2本と、エールを1つください。」
「えっと…エールかい?だけど…」
店員の女性はソフィーの容姿を見て、まだ子どもだと判断した様だ。
「うっふん…」
ソフィーは咳払いをして自身に視線を向けた。
そして、尖った左耳をつまんで店員に見せびらかした。
「あっ、なるほどね分かったよ。待ってな。用意するよ。」
つまんだエルフの耳で、子どもじゃないという意味を察して、店員は去っていった…
その後は、3人でたわいもない会話を繰り広げた。
マナが両親を困らせた話や、ルナはいつも本を読んでばかりで遊んでくれない話だった。
「そういえば、ソフィリアお姉さんのパパとママは?会ったことないけど…」
先程まで、明るい顔だったソフィーの顔が一瞬で硬直した。
“主!”
トレイスの赤い羽と黄色い嘴の生えた顔も、ソフィーの方に向いていた。
(大丈夫よ。面食らっただけ。)
「えっとね…私のとーさまとかーさまはね…」
その後を言おうとしたが、言葉が出てこなかった。
「ん?」
2人は不思議そうな顔で彼女を見つめる。
この時、ソフィーの脳内では、多くの言葉が飛び交っていた。どう説明するのが正解なのか、脳内会議がされていた。
故郷で暮らしている、家出したor追い出された…または、素直にもうこの世に居ないと言ってしまうか…
(いや、今のこの空気を凍りつかせたくない…だけど、この子達に嘘をつくのも違う気がする。なら…)
「私の両親はね、ずーーーっと遠くにいるんだ。うーーんと遠くにね。」
「会えないの…寂しい…?」
マナが少し悲しげに尋ねてきた。
「ちょっ、姉さん!」
隣にいたルナがマナの事をたしなめた。
後から思ったが、もしかしたら、この時、賢いルナは何となく察していたのかもしれない。
「ルナ、ありがとう。大丈夫よ。うーん…寂しくないって言ったら嘘になっちゃうかなぁ…」
「そっか…」
「でもね、すぐに会えないんだったら、寂しい寂しい言ってたってどうしようもない気がするんだ。だから、くよくよはしないよ?」
「そっか…お姉さん…強いね。私は多分泣いちゃうな…パパとママと離れ離れになっちゃったら…」
「そっか…そう思うなら、パパとママの事大事にしなよ?」
「「うん!」」
2人は声を合わせて、元気よく返事をした。
「本当に、良い子だね…」
そう言って、2人の事を撫でた。
(それに比べて私は…)
彼女の脳内には、これまでの後悔や失敗がフラッシュバックしていた。
ジークに正直に言えなかった事、それが原因で両親を死なせた事、多くの人を殺した事。
(強くないよ…私なんか…)
“……”
見た目は、全く普段と変わっていなかったが、ソフィーは心の中で大粒の涙を流していた。
「はいよ、フルーツパフェ2つだよ!エールと肉串も今来るよ。」
注文の品が来た声で内側に向いていたソフィーの意識が引き戻された。
「あっ、はい、どうも…」
若干慌てて対応し、2人の目の前には、スポンジとクリームの上に様々な色の果物が盛り付けられたパフェが置かれた。
そして…
「ほらよ、エールと肉串だよ。」
ソフィーの目の前には、木の樽に似たジョッキと、細長い陶器の皿に載った2本の肉串が置かれた。
前世以来の酒だ。
仕事付き合い、辛い時のやけ酒。自身の体の事を考えると飲みすぎるのは大丈夫とは言えなかったが、ジョッキやグラスを手放すことは出来なかった。
酒が一時でも悲しみを忘れさせてくれたからだった。
エールを目の前にしてゴクリと唾を飲み込む。
(来た!酒!酒!)
アガレスも驚くほどの感情の昂りだった。
すぐさま、ジョッキの金属の持ち手を掴んでそれを唇に当てて、そのまま首を上に上げて、口の中に流し込む。
前世のキンキンに冷えたビールに似た、冷えたエールの味が広がる。
(うわぁーこの感じよ!酒!懐かしい!美味しい!最高!)
前世の懐かしい味を想起させるものだった。
そして、短時間でアルコールが回ってどんどん理性が崩れて行った。
本人は、後で知ることになるのだが、エルフという種族は、仮に年齢を重ねていたとしても、体の構造はあまり変わらないため、決してアルコールに耐えられる体とは言えないのだ。要するに酒に弱い種族なのだ。
数千年生き、エルフの魔王に仕えていたアガレスは知っていたのかもしれないが…
【数分後】
「あぁ〜うゅんめぇ〜〜」
「えっ、お姉さん大丈夫?」
一瞬で口調が変わったことでマナは引き気味だった。
「え〜だぁいじょうぶよぉ〜」
“はぁ…”
アガレスの溜息をガン無視して、その後もエールを口に運び、時々交代して肉串を頬張る。
清涼感のあるエールとは対照的に、口の中に肉の旨みと油と、甘辛のタレが口いっぱいに広がった。
「んぁぁあ〜うんみゃ〜い」
「ルナ…これ大丈夫なの?」
賢い妹に判断を仰ぐ。
「そんなわけないでしょ。でもどうしようっていうのよ…」
「そうよね…とりあえずパフェ食べちゃおっと。」
2人はソフィーの事は早めに諦めて、自分達の目の前のパフェの対処に専念することにした。
「あぁ…もぉ〜きょんな布じゃあみゃあ〜」
そう言って、ソフィーは酔っ払って右眼の眼帯を外そうとしてしまった。
“おい、主!”
その瞬間、トレイスが機転?を利かせ、片方の翼でソフィーの後頭部をその時点で使える魔力をフル動員させて思いっきり引っぱたいた。
ソフィーの頭は、机に激突し、額を打ち付け、エールの入ったジョッキは倒れて、中身はソフィーの頭にかかってしまった。
「えっ、お姉さん?!」
「大丈夫?!」
2人は心配して、声をかけたが、既に、ソフィーに意識は無く、その声が届くことも無かった。
「主の世話を頼む。我は連れて帰れる者を呼んでくる。」
トレイスが突然声を上げ、そのまま窓を開けて、住処のある山に向かって飛んでいってしまった。
その様子にマナとルナ、そして、店員の女性は、唖然として空いた窓を見つめていた。
「一体この子は何者なんだい。数ヶ月前にやってきたらしいけど…」
エールまみれのソフィーの顔を濡れたタオルで拭きながらマナとルナに尋ねた。
「優しいお姉さんよ。」
「困ったら助けてくれる。とっても強い。」
「なるほどねぇ…こんな子が…」
そう言って、気持ちよさそうに眠る、まだ幼さの残る、ソフィーの顔を呆れ気味に見つめていた。
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「本当にすみません、ご迷惑をおかけしました。二度目は無いようにしますので…」
迎えに来たレイがペコペコと頭を下げて店員に謝罪をした。
隣には、ソフィーを背負ったアズラエルがいる。
「はーい、お大事に〜」
苦笑いをしている店員に見送られて、レイとアズラエル、そして、双子は店を後にした。
「じゃあ、私達も家に帰ります。」
「お姉さんに、また遊ぼうとお伝えください。」
「ごめんね、こんなに酔いつぶれちゃって…しっかり叱っとくから。伝言は任せて。気をつけて帰ってね。」
「「はーい!!」」
そうして、マナとルナは、手を振りながら、小走りで家に帰って行った。
「すみません、アズラエルさん…」
「このくらい大したことじゃないですよ。アガレス様なんて、以前、この世に存在するのかも分からない魔法研究の素材を私に取りに行かせたので。それに比べたら全く問題ありません。」
「そうなんですね…私には皆さんの感覚が分かりません…きっとお嬢様もそっち側なんだと思いますが…」
そう言って、少し切なそうな顔で、眠っている顔を見つめていると…
「とぉ……」
「え…?お嬢…様?どうしました?」
「かぁ…さま…」
「あっ……」
灯りが付くかのように、レイの心の中で何かがハッとさせられた。
ついつい忘れてしまう。お嬢様の一面を思い出した。
振り返れば、本ばかり読む知的な面を持ち合わせながら、両親が王都に呼ばれて、屋敷で留守番した時は、いつも寂しそうにしていた。
今でも、本や魔物の素材を前に真面目な顔をする反面、寂しげだったり、寝ていてうなされていたりする。
一度、生死を彷徨ったものの、魔王を倒し、誰もが認めざるを得ない功績を残した先に待っていたのは、愛した人に突き放され、突き落とされる運命だった。
魔王を倒し、更に悪魔の強さを上乗せされた今、ソフィーに勝てる人なんて、ひと握りしか居ないだろう。
だからこそ、レイは自分だけでも、自身の仕える存在の、人間らしさ、わがままで、怠惰で、問題を起こす、そんな一面を持ち合わせているという事を覚えておこうと思った。
「もう、これ以上…お嬢様を1人にしたくありません…」
アズラエルと並んで帰る途中にぽつりと心の中の思いを口にしたのだった。
そんな、レイの優しさに気づくことも無く、ソフィーはアズラエルの大きな背中に身を預けて久々のアルコールに酔いしれて、眠っているのだった。
To Be Continued
一度は主人公酔っ払って貰おうと企んでました。




