「違和感」
24話「違和感」
翌日、昼前になってやっとアイシャは目を覚ました。
その日は足元に枕があった。
「うーん…ソフィーちゃんと起こしてよ…」
ボサボサの髪でゆっくりと立ち上がって、2段ベッドの上を覗くが、そこにソフィーの姿は無かった。
「もう、師匠の所行ったのかな…」
自分を置いて先に行ったのだと思い、アイシャは、顔を洗い、悲惨だった髪の毛を整え、茶色いローブに着替えて、師匠から借りていた本を片手に部屋を出た。
階段を降りて、寮の建物を出て、軍務局に入った。
普段なら数人の兵士が入口に立っているだけで、中は非番の兵士が自由に寛いでいるはずだったが…
その日は全く違っていた。
ほとんどの兵士が完全武装をし、上官は部下に指示を飛ばし、地図を広げて話し込んでいる兵士もいた。
アイシャに似た茶色や黒色のローブを着ている魔法使いも何人か兵士たちの中に混じっていた。
その様子は、以前オリアスが急襲し、その後、討伐隊が魔王と会敵した時を想起させるものだった。
「何かあったのかな…魔物とか?」
周りの雰囲気でアイシャの顔も自然と固くなってしまう。
そのせいで、肩に優しく手が置かれた時、普段以上に驚いて声を上げてしまった。
「はぁ、はぁ…ここに居た…」
手を置いたのは師匠のアリアだった。
その顔は他の兵士以上に固く、目にはクマがあった。
その様子から、良くない事が起きたとアイシャも直ぐに理解した。
「何が…」
アイシャはアリアに質問しようとしたが、アリアは人差し指をアイシャの口に当てて、それを止めた。
「続きはレイモンドの部屋で。」
アイシャは無言で頷いた。
2人は1階の廊下の突き当たりにある、第2部隊の隊長室に向かった。
隊長室は、ロビーの空間から、数部屋隣のため、直ぐだった。
アイシャも、何度かアリアの頼まれごとで入ったことのある部屋だ。
部屋の入口には兵士が1人槍を片手に立っていた。
アリアはその兵士に軽く挨拶だけして、扉を開けた。
部屋の中は窓を背に、大きめの机が置かれ、両サイドの壁には本棚が置かれ、様々な分野の本がズラリと並んでいた。
真ん中には低めの机と椅子が、話す時用で向かい合う形で置かれていた。
清潔感においてはアリアの研究室と比べると圧倒的に綺麗だ。
その部屋で、レイモンドは書類と睨めっこしていた。
その眉間にはシワが寄っていた。
アリアと同じで目にはクマがあり、疲れきった顔だ。
「レイモンド、アイシャを連れてきた。もう一度説明してあげて、ソフィーの事に関しても新しい情報があれば教えてちょうだい。」
「えっ…ソフィー?どういう事ですか?何でここにソフィーが居ないんですか?」
その言葉を聞いて、アリアもレイモンドも非常に気まずそうな表情をしてしまった。
「アリア、防音結界を。」
そう言ってレイモンドは立ち上がって、さっきアイシャとアリアが入ってきた扉に向かった。
扉を開けて、外にいる兵士に何か言って閉めた。
「誰も入れないように伝えた。早く結界を…」
「はぁ…指図していいのかしらね。例え地位はあなたの方が上でも、実力は私の方が上なのに…」
口からは愚痴がボロボロと出ながらも。手からは金色の魔法陣を出して、防音結界生成させていた。
結界が出せたのを確認して、アイシャはアリアの隣にレイモンドと向かい合って、皮のソファに似た椅子に座った。
「さてと…どこから話すか……か、簡単に言うと、国家反逆の罪でソフィーが逃亡した。」
「えっ…」
アイシャの顔がどんどん引きつっていく。
(どういうこと…ソフィー)
頭の中では何度も、答えの返ってこない、どこいるのかも分からない妹分へ疑問を投げかけた。
「原因はまだ不明だ。だが、居合わせた王子2人の事を怪我をさせ、更には40人近くの兵士が様々な方法で殺された。」
「な…なんで…ソフィーが?」
(あのソフィーが殺人?負傷兵見るのすら嫌がってた時期があったのに…)
「分からない…アレクサンダー王子と近衛兵は部屋に入ったらソフィーに攻撃されたと言っている。その前から居たジークなら何か知っているかもしれないが、まだ意識が戻っていない。」
「そんな…ソフィーが…ジークの事を?」
「そうなんだ、俺もそこが引っかかっているんだ。色々上に聞いてはいるんだが、隊長の俺ですら教えてもらえない。」
「私たちはソフィーと親しかった。信用に足りていないんでしょ。」
ずっと、レイモンドの話を聞いて考え込んでいたアリアが突然口を開いた。
「それより、逃亡したと言ってたけど、結局逃走方法やどこに逃げたかは不明?」
「あぁ、本当に不明なのか、教えて貰えないのかまで不明だ。俺としては…」
レイモンドは何か言いかけた。
「何よ、はっきりして。」
「ソフィーは無実の可能性は無いか?殺されかけて逃げたとかは…」
「私もそうであって欲しいわ。でも、そうだとしても兵士を大勢殺した事実は覆せないでしょ…」
(ソフィー、なんで人殺しなんかしたの…なんで…)
アイシャの頭の中は、妹分の突然の失踪に対する疑問と、心の中がぽっかり穴が空いたような寂しさで埋められていた。
「とりあえず、俺たちだけで話していてもどうしようも無い、俺の部隊も一部は捜索に出すから何か分かったら2人にも教える。」
「えぇ、お願い。こっちでも何か…」
「レイモンドさん…もしソフィーが見つかったら…もし居る場所が分かったら、私に教えてください。私も連れてってください。」
アイシャはアリアの話を遮り、自身の心にあった思いをそのままレイモンドにぶつけた。
「だが…」
「魔王にも立ち向かって、死ぬ覚悟で…相討ち覚悟で闘ったあの子が、そんな急に私達の敵になるなんておかしいです!例えこの国が嫌になったとしても、私や師匠の事を嫌になる事なんて無いと思うんです!もし今もどこかで辛い思いをしてるなら、私はあの子に寄り添いたい。それが…血は繋がってなくても…姉としての役割じゃないんですか?」
(仮に、拒絶されても…私はソフィーと一緒に居たい。)
「私も同感だわ。何があったのかは分からなくても、ソフィーが急に私やアイシャを殺そうとはしないと思うの。少なくともそこら辺の兵士よりは可能性があるわ。」
「そうだな…分かった…覚えておく…」
「あなたの覚えておくあんまり信用出来ないわね。」
「なっ…この件で忙しいんだから勘弁してくれよ。」
「ふふっ、冗談よ。お仕事頑張りなさーい。それじゃアイシャ行きましょ。」
「はい、師匠。」
(ソフィー、どこにいるのか分からないけど、必ず見つけるから…待ってて。)
2人は椅子から立ち上がり、揃って部屋から出ていった。
レイモンドは机に戻り、再び部下が持って来た書類に目を通し始めた。
だが、直ぐに紙から目を離し、視線を空中に向けてため息を吐いてしまう。
「知ってたって言えるかよ…あんたらの大事な人の眼球が悪魔と思われる死体と一緒にあったなんて…」
困りきった表情で頭を抱えてそう呟いた。
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とある部屋の一室ですらっと背の高い男が金色の装飾の施された高級な椅子に座り、グラスを片手に、目の前の跪いた男の報告を受けていた。
「あ?何?殺し損ねた?どういうことだ?」
「その…ソフィー・ベネットには逃げられました…」
「ちっ…」
男は怒りのあまり、手に持っていた酒の入ったグラスを粉々に握り潰してしまった。
(報告次第ではダンタリオンの奴も何かしら痛めつけないとだな…)
「それと、バエル様…ソフィー・ベネットに関してさらに報告が…」
「何だセーレ」
セーレと言われた青年は恐る恐る話し始める。
「そ、その…幽閉されていたあ、アガレスと接触…片目の無いアガレスが使用していたと思われる死体と、それとは別の人物の眼球が、幽閉されていた部屋にあった事を推測するに…その…」
「魔力眼継承…か。」
「そ、そう考えるのが自然かと…」
(そうなると、場合によってはこちら側に引き入れるのも手か…)
「ダンタリオンには、そのまま潜入を続け、奴の情報も掻き集め、見つけ次第俺に伝えるように言え。彼女には俺様直々に会いに行く。」
「御意。」
そう言ってセーレは部屋から出ていった。
(ギルガゼイヤ様を殺したエルフが悪魔の力を手にしたか…面白くなってきたな。だが、俺の野望においては邪魔でしかないな…次期魔王の座を狙うには…)
To Be Continued
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