表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鵬、天を駈る  作者: 吉野
5章、『○○○○○○○』
91/248

第89話 尾張の、献心




当時の外交常識・概念を徹底的にガン無視され


山科さまもタジタジ。



そしてさらに(たた)み掛けられます。








『……………落とし穴?


どんな問題があるのか?』





――――――ふふふ。



……………いえ、ね。




ただ、







―――――真似をしたよその家が大変嫌われます。



公家たちからは


『何だ、二番煎(にばんせん)じか。つまらん』と。


帝からは


『献金の先に欲が見え透いて()るわ!!』と。



ひどく見くびられ、尚且(なおかつ)怒りを買います。


猿真似をすると逆に評価がガタ落ちとなるのです。




まあ大々的に美談として広めますから、


絶対にどこかが真似をするのですがねぇ。



ふふふふ。


最終的に、一番手の弾正忠家のみが


高く名をあげ独り勝ちとなる仕掛けです。




『………また、えげつない手を。』





―――――……・・一連の策において重要なのは、


こちらの裏を悟られないことです。



どこまでも善意のみを(かか)げ通します。





あとは、――――――そうですね。



……少し山科さまには釘を刺しておきましょうか。


こちらの"忠心"を強調するためにも。









「山科さま。


ひとつだけお願いがございます。」



()()()()()()()()求めるかのように


三郎さまが発言する。



深く、神妙な顔つきで。




「ふむ、何であろうか?


可能な限り叶えて見せよう。」



姿勢をただした山科さまが聞き返される。


()()()()()かのように。



――――――だがもう一度だけ、


あなたの思惑は外させて頂きます。





此度(こたび)の献金は、あくまでどこまでも


帝の御心と政の(うれ)いをお(なぐさ)めするためのものです。



山科さまには起請文(きしょうもん)をひとつ頂きたい。


この献金を横領・着服をするような


不忠で不心得な愚か者が出ないように、


しっかりと監視して(まも)って頂きたいのです。」




今回はあくまで朝廷の安定の為だけに。


銭は出すが、公家にはやらん。



少なくともナアナアではなくその辺りのケジメは


しっかりしてもらおうと思う。




短期間とはいえこれで少しは


朝廷も健在になるはずだ。




基本、この要求は()()()()困らんよな?


その気がないから。





「・・・・・・・・了解した。


他の者たちにもその様な事のないように、


(しっか)りと伝えておくことにしよう。」




献金にこんな条件を付けられるのは初めてだろう。


同僚からずいぶんとビミョーな目で見られるが、


そのあたりは我慢してくれ。




『帝の御為』、とお題目を立てたのはあなただ。


言うのなら、『都の再建』と言うべきだったな。



――――失敗だねえ?





「もし不届き者が現れたらご一報下さい。



"起請文を破った愚か者など地獄に墜ちてしまえ!"


などと悠長(ゆうちょう)なことは言いません。



朝廷の予算に不当に手を付けるなど、


まさに帝の顔に泥を塗る逆臣。


斯様(かよう)な逆臣などわれら弾正忠家の総力を持って、


その者を直接に地獄に蹴り込んでみせましょう!」




最近までヤンキーの大将をしていた分、


この人は普通よりも"ガンを飛ばす"ことには


一日の長がある。



こういった、ふざけているのか本気なのか


分かり(づら)い発言を演じるには丁度(ちょうど)よかったりする。



(かげ)で慣れていない山科さまが、


目を白黒させる。





「……………ああ、それから。



山科さまはあちこちへと訪問されているご様子。



旅をするのも何かと物入(ものい)りかと。


(ふところ)が寂しくならぬように


旅費として、2000貫をお持ちください。」




さらにダメ押し。


一万貫を持ち帰ったにも関わらず、


公家たちには分け前がゼロ。



…………にも関わらず、自分だけ銭を(もら)ってくる。




帰ったら大変だろうね。



ふふ。


あなたの"お役目"だよ、内蔵頭(くらのかみ)は。




まあ、お仕事を………頑張ってくれたまえ。









1550年、織田弾正忠家は朝廷に一万貫という

当時としては破格の高額献金を行っている。


特筆すべきは、この献金を

あくまでも朝廷への尊皇と献身のためとして

見返りを求めなかったことである。



当時の朝廷への献金は、官職や停戦の斡旋など

必ず何らかの見返りを求めてのことだった。


にも関わらず、弾正忠家が求めたのは

帝が写経した"般若心経"の経典を二組のみ。


それすらも護国鎮守(ごこくちんじゅ)のために熱田と津島の社に

奉納するためだと言う。


当代の後奈良天皇はこのことにいたく感激し、

弾正忠家にいくつかの優遇を与えた。




後奈良天皇は、官職をねだる者の献金を

()ね付けたことのある清廉な方である。


織田弾正忠家の二心なき行いは、

都の窮乏(きゅうぼう)に嘆き献金に対して気を(とが)らせていた

後奈良天皇の心をも動かしたのであった。



この一連の行いは、

『尾張の献心』として長く語られることとなる。








最後までトコトン攻められる山科さま。



無事献金は持ち帰れるために試合には勝ったが、


勝負では大敗したかたち。



正直これからも訪れるべき上客なのだが、


なんか行きたくない。



そんな感じで苦手意識がつく。




ついでに安易にこの一手を模倣(もほう)した連中は、


心底に痛い目にあう。




これらこそが『戊の3番』の目指す戦略目的。





なお、都と尾張。


双方が美談として広めた結果、


この話は後世において教科書に()るほどの


有名な逸話となる。





マメ知識




『内蔵頭』




律令制度における内務部門のひとつ。


"内蔵"は朝廷の財務関係の部署であり、


"頭"はそれの長官になる。




租税徴収がほとんど機能していなかった


当時としては、ここに収入を依存するしかない。



山科さまはここの担当。


ひとりバカ真面目に取り組んだとされる。



公家の中では献金のために方々で親好があり、


故にあちこちで結構に人望がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ