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鵬、天を駈る  作者: 吉野
4章、『○○○○○○○』
78/248

第77話 憂いなき伊賀、憂いの甲賀



わざわざ通る必要もない伊賀を通れ、


と言われた鵜飼さん。



その理由を痛感します。








声も出ない。





一面に広がる茶畑。


平地に(ひろ)げられた灌漑(かんがい)の用水路。


()き水も水路が掘られて整えられる。



新しいと思われる井戸もいくつか見える。



山沿いには焼き物の(かま)がいくつか見える。


その内のいくつかは煙をのぼらせている。







大きく拡げられた街道。


街道沿いに商いをする店と彼らを泊まらせる宿。


多く並んだそれらの隙間(すきま)に飯屋が並ぶ。







行き交う商人。


那古野者・近江者・伊勢者に及ばず、


京や堺の商人まで見える。



近年に都に献じられた"復興した伊賀の茶"が


高い評価を受けたために、


その(ウワサ)の品を求め近隣から商人が集まっている。


また現地で焼き物を見て、


物珍しげに目を細め眺めては買ってゆく。



食料と嗜好品(しこうひん)を持ち込み、茶などを買って帰る。


飯屋で腹ごしらえをして旅の疲れを宿で(いや)す。



伊賀は畿内の交易地としての地位を築きつつある。







防衛も万全になりつつある。



要所に築かれた、高く積まれた石積みの壁に


鉄張りの大門を取り付けた関所。


所々(ところどころ)に掘られた空堀と土塁。


各所に高い(やぐら)が立ち、見張りが立つ。


櫓の位置は空堀と連動しており、


非常時には矢が放たれるだろう。



小規模ながらもかの北条の、


うわさにきく小田原の総構えの如し。






人も増えた。


茶畑・飯屋や宿屋は既に伊賀の民だけでは


運用できない規模であり、


そのため外から多くの働き手がやって来ている。


()()()()()小作人・使用人を雇っているのだ。



その内の一部は那古野の兵制を真似た傭兵がおり、


平時は獣の狩りや町の衛兵などをしている。








―――――――最早(もはや)、伊賀は()()



貧困に(あえ)ぎ、非道な傭兵で命を繋いでいた様など


今やどこにもない。


飢えも寒さも、哀しみも全てから解放された。




寒村であった名残など消えて無くなった。






なるほど。


伊賀が戦など望まぬはずだ。




()()()()()()()()()()()()()()()()()()()





甲賀が豊かになった伊賀に、


勝手に(ねた)んで(から)んでいるだけだ。




…………それはずいぶんといい迷惑だろうな。









――――――伊賀を過ぎ、懐かしの甲賀に。



懐かしい、というのは善い事か哀しいことか。



………………何も変わっておらぬ。


なにもだ。





(さび)れた家並み。


うっすらとしか水気のないちっぽけな田畑。


干からびた畦道(あぜみち)




防衛のみを考えた細い道筋。


街道とはいえ細々とした道には()したる物もなし。


行商を行う商人も通りすぎるのみ。




税を取られれば日々も暮らせぬ収穫。


僅かな田畑で雑穀などを育て、


それでも(まかな)えないために傭兵として村を出る。


獣のような人心。飢えた民。




それが甲賀。


今も昔も変わらぬ。





――――――変わらなすぎて、涙が出る。











「―――――――そういうワケだ。


尾張にて、弾正忠家を挟むかたちで


伊賀が和議を申し出ている。」





寺にて皆を集めてこう話すと、


村々の代表や長老格たちが喧喧囂囂(けんけんごうごう)と話始める。




―――予想はしていたが、建設的な意見はない。


聞こえるのは伊賀への(ねた)みや(そね)み、(ひが)み。


そして見苦しい恨みと(つら)み。






合間に話を聞いたところ、


元はと言えば飢えた甲賀の者達が豊かな伊賀を


狙って行動を起こしたのが原因らしい。



いざ向かってみれば伊賀への道はふさがれており、


その手前に食い物が置いてあったそうだ。



困窮(こんきゅう)はわかる。これで冬を越してくれ。』


そんな伝言と共に。



ひとまずそれを持ち帰ったところ、


待っていた長老たちが激怒したらしい。


"我等を(あわ)れむか!面目を潰された!!"と。





……………………何ともバカな話だ。


何で援助を受けて逆恨みをしているんだ。


飢えの不安が無くなった途端に言いがかりか?








これで両者の仲がこじれて今に至るらしい。



…………と言うものの、実際には


甲賀が一方的に吹っ掛けるばかりで


伊賀にはほとんど相手にされていないらしい。




それがさらに長老()()の誇りの火に油を注ぐ。



………熱くなっているのは甲賀ばかり。


伊賀の対応はひどく落ち着いているとか。





………………それはまあ、困るだろうな。


やりたくもないケンカを


望みもしないのに相手が勝手に仕掛けてくる。


相手にしなければ更に怒る。



なんて面倒な隣人だ。





しばらく那古野にいたから、これがどれほど


()()()()()()()()()()()




武家の(なら)いのつもりなのだろうが、


はっきりいって狂気の沙汰(さた)だ。


頭が痛くなる。



――――――――何ともバカな話だ。





さっさと終わらせるか。


床板を(なぐ)り付け、黙らせてから話す。





「向こうからこう話が来たよ。


(みかど)がお褒めになり所望された茶の産地である


伊賀を攻めた甲賀を京の者達は大変お怒りだ。


大変に熱くなられている公家達を、こちらは


必死になって(なだ)めているところだ。』



………………わかっているか?


今や、向こうがこちらを(かば)っているんだ。


庇うのをやめた途端に私達は逆賊だ。



もう、論じている(ひま)なんて無いんだよ。



―――それでも武家の誇りが大事なら吠えてみろ。


逆賊の首魁(しゅかい)として都に付き出してやるから。」





………………はぁ。


思わず溜息(ためいき)が出る。




武家の誇りだ面目だ……などと(わめ)いても


所詮(しょせん)、その程度か。



―――――(わら)わせる。



ただ隣人を(うらや)んでいるだけだ。


命を()けるだけの意地も度胸もない。





―――――その程度で、甲賀を乱すな。







―――――この後、負の意志を抱えて蠢動(しゅんどう)するなら


如何(いか)に長老衆といえどももう庇えない。




これ以上に無駄に甲賀を(あお)るようなら、


もう消えてもらうしかないか。










もう、劇的なまでの


ビフォー(甲賀)⇒アフター(伊賀)。


誰だって唖然とする。


これが両者ほぼ同じ境遇だったとか誰が信じる?




鵜飼 孫六、ヘタに那古野に居たばかりに


『平穏な世界』を知ってしまい


それまでの"武家の倣い"に疑念を抱く。


本人にあまり自覚はないが。



『いや、それタダの妬みからの言いがかりだろ?』


そんな風に考えつつある。





実の所、今の甲賀の状況が


極限まで最悪に近い事を教えられているために


アホな(いさか)いを目の前にして


最後のあたりでは結構キレています。





※武家の倣いとは、極端に言うと


『奪え!喰らえ!殺せ!!』という蛮族の原理。


彼が考えたとおり、"狂気の沙汰"。


"隣の芝生が青いなら(むし)って帰ればよくね?"


という理論になってない暴論。




あと、この話。


いわゆるシリーズNINJA。


"最低でも"あと三話続きます。


(既に二話、書き上げ済み。


もう一話分のシナリオが待っています。)



なぜか書くたびに話が延長を続けています。


今までの中で、一番スムーズに書けている。






『相手にしない伊賀』




いわゆる典型的な"金持ち喧嘩せず"の例。


本格的に商いを始めたため、


戦に"採算"の概念が混じる。



その結果、獲っても意味がない甲賀を


攻める必要性が全くないことに気付く。


攻めても彼らの主家である六角家とこじれるだけ。




伊賀から攻める理由がゼロ。


仕方ないので援助をしたら、逆ギレされた。





『逆賊疑惑』



ほんの少し前に伊賀から茶を献上されている。


"良いものを作った!でかした!!"


と誉めた伊賀を、誉めたそばから攻められたら


いかに衰えた朝廷でも腹が立つ。



状況的に、朝廷の使者を田舎者の甲賀が


無視した可能性がアリ。




そりゃ、怒るよ?


というか、それ以前にかなりヤバイ。





『蠢動』



漢字を見るとわかるかも知れませんが、


意味は"春に虫たちが地面の下で動き出す"となる。



転じて、


"裏の方で何やら悪巧(わるだく)みをする"


ことをさす。





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