第78話 尾伊甲、和平会談
正直なところ、
伊賀と甲賀がゴタゴタしていることは
あんまり意味がない。
しかも理由がしょうもない。
そう言うわけで、さっさと解決します。
「………………………」
まあ、つい最近までゴタゴタとやってきた所だ。
ビミョーな空気にもなるわな。
―――――知ったことではないが。
「さて、では和議の話と参りましょう。
弾正忠家からは若君と林さま。
甲賀からは望月さまと鵜飼さまが、
伊賀よりは藤林さまがお出でになられております。
立会人として中立の、尾張の沢彦和尚。
進行は『数寄者』こと私、
…………村井の小倅が務めさせていただきます。」
甲賀の方でも少々ゴタゴタしていたようだ。
ゴネる年寄衆を無理矢理に押さえ込んだとか。
正直、"朝敵"寸前だったからねえ。
力ずくで引きずってでもこの場に現れないと、
下手を打つと甲賀は"族滅"になりかねなかった。
………間に合って良かったですね。
望月さま、鵜飼さま。
――――今回、そこまで不味かったのですよ?
……………では、改めて和議を進めましょう。
伊賀の方からは事前にお話を聞いております。
『別に何も望まない。』
――――――間違っても熱くならないで下さい。
そのまま引き続きお聞き下され。
これは伊賀が甲賀を
歯牙にもかけていない訳ではありません。
むしろ逆です。
甲賀を叩けば六角が出てくる恐れが出てくる。
…………むしろ、それを口実として
伊賀の富を狙われるのを恐れているのです。
…………………六角の家中にある三雲。
そして幕臣の内にある和田。
彼らが要らぬ欲をかいて、
それぞれの主を動かす可能性が出てきます。
伊賀が動いても、損しかありません。
伊賀には甲賀を攻めることが出来ない、
充分すぎる理由があるのです。
ご理解、いただけたでしょうか。
さて、甲賀につきましては申し訳ありませんが。
……………正直なところ今回の話は
どう見ても、どう飾っても甲賀に非があります。
一方的に戦を仕掛け、
一方的に和議を突っぱね、
一方的に朝廷の取り成しすらも退けた。
…………最早、弁明のしようがありません。
それゆえ参加者一同、
甲賀に要求を許すつもりはございません。
……………悪しからず。
――――――――まあ、言われる通り。
それでは困りましょう。
"道理は向こうにアリ"とはいいますものの、
それでは帰ってから揉めるばかり。
結局は新たな火種を創るだけでしょう。
無駄に血を見るだけです。
ですので弾正忠家のほうから甲賀には
お土産に良い報告を持ち帰っていただきます。
弾正忠家からの提案として………
甲賀へは、領内の大々的な開発を。
要は、伊賀と同じ高みに立ってもらいます。
……………富の格差が争いの種ならば、
その格差をなくせばよろしい。
戦を吹っ掛けるよりも簡単で平穏な理屈です。
………………言いたいことはわかります。
甲賀は明確に六角に属しておりますので、
伊賀のようには簡単にはまいりますまい。
六角属家に対する干渉ととられかねないですから。
ですから、表だってこちらは動きません。
"商人が勝手に始めた"という名目を用います。
ま、最終的には商人からの依頼という形で、
"局"へ話が回ってくるのですがね。
…………こちらとしては
あくまで口入れの依頼を受けただけです。
故に六角へは商人の口で説明させ、
甲賀へはこちらの関係者は向かわせません。
つまり六角の下に居るままに、
尾張商業圏の恩恵を受けていただきます。
その分、開発は緩やかになりますが
開発の間は働き手が滞在して甲賀には
長期間に渡って銭が落ち続けることになります。
伊賀同様に、まずは水の確保から始めますので
そのあたりはご安心を。
むしろ伊賀の経験があるためその辺りは
伊賀の工事よりも早まりますから。
同時にかなりの安値で食糧を送りますゆえに、
自分たちで消費するなり貯えるなり
飯屋を開いて銭を持ってやって来たた働き手から
荒稼ぎするなり
………………その辺りはどうぞご自由に。
少なくともこれより以後、決して困らぬ日々を
お約束して差し上げましょう。
その間に、どうぞ自らの手で末代まで
子々孫々に誇れる甲賀の地を築きなさればよい。
織田弾正忠家を間に挟む和議の締結。
織田と伊賀にとっては最初から予定調和。
これは、甲賀を織田の商業圏に巻き込むための
一手。
尾張↔️伊勢↔️甲賀↔️(伊賀↔️甲賀↔️)近江
という交易ルート、または
尾張↔️伊勢↔️伊賀↔️(甲賀↔️伊賀↔️)大和(奈良)
という交易ルートが完成する。
どちらもが畿内へつながる重要交易ルートであり、
その全ての地で交易品が存在するために
どちらもが計り知れない利益を叩き出す。
マメ知識
『村井の小倅』
5年近く経っているのに、未だにその言い種が
通用している。
どれだけ"脱け殻の計"を多用しているんだか。
そろそろ、
"お前、いい加減にしろよ?"
とかクレームが出そう。
『朝敵で族滅』
ちょっと冗談抜きで最悪の状況。
"族滅"は、一族郎党どころか
血縁のある全ての他の一族も全て対象となるという
あまりに強烈な粛清。
あやうく甲賀が無人の地になるところだった。
本来、朝廷はここまで過激な勅旨を出さない。
今回は、よほどひどくキレているようだ。
…………とはいえ。
まあ、さすがに族滅は話を盛り過ぎ。
おそらくはウソだろうと思われる。
なお、鎌倉時代初期には
この族滅がかなりの頻度で横行している。
ちょっと頭がおかしい。
『三雲と和田』
共に甲賀の出身者。
縁がある故に言いがかりをつける名目がある。




