第71話 村田家、和葉の場合
なろう小説をスマホで書いていると、
フリックのミスで書いていた物が
全て消し飛ぶというバグが発生する。
おそらく『戻る』の誤作動なのだろう。
復帰させるのは不可能。
保存したところからのやり直しとなる。
こまめに保存していないと地獄をみる。
何度めかの地獄が今回も発生。
途中から書き直しとなったために締め切りを
守れませんでした。
申し訳ない。
「ま、そんなワケでお前さんは三号店をクビな。」
スッパリとクビ宣言。
ちょっとコイツはたまに情熱に水を浴びせないと
ホントに変な所へ転がりだす。
「なぜ?!
何故ですか?!!」
何故ってなあ……………
お前が飯屋を増やすというこちらの狙いに
真っ向から逆行するからだよ。
おかげさまでこっちの予定がかなりズレたぞ?
「うぐぐぐぐ。」
お前さんみたいなヤツを扱うのはやり方としては。
ひとつは、徹底的に雁字搦め。
なにもさせないこと。
―――――もうひとつは。
本をひとつ、差し出す。
「………………源氏……物語…………ですか?」
うむ、かの道長公の時代に書かれた
超長編物語だ。
写本で運良く全巻そろえたから、
全部……読みきれ。
「……………全部……ですか?
………………………ええと、
かなりの量なのですが………」
嫌な顔をするな。
それを全部読ませるのが、ひとまずのお前の罰だ。
――――そして次のお前の
仕事へと繋がるものでもある。
お前さんには、この源氏物語で演劇を創れ。
「―――――演劇、ですか?
芝居のようなものです?」
まあ、芝居はあっても演劇は形がないからな。
要は物語の中の情景を舞台でそのまま再現しろ。
そしてこれがお前に任せる理由だ。
これを
若い女の子のみで演じろ。
「――――ええと?
………え?」
ふむ、
まあ前代未聞な話だろうな。
つまり、だ。
源氏物語にはたくさんの人物が登場する。
葵の上、夕顔、若紫に源氏。
これら全てを男女問わずに女の子が演じるのだよ。
「おお………!」
言ってみれば"旧き善き平安絵巻"の再現だ。
作者の直系の子孫に手紙を出しているから
訪ねて来たら
都の雰囲気や宮中、公家の邸宅を
再現するのに頼ることだな。
演じるための台本から演出、
演じ手の選別に衣装の設定。
これら全部を任せる。
まあ、好きに着飾らせるといい。
――――――――お前さんの好きなようにな。
「ええ!はい!
是非とも!!」
後は多くの者に意見を聴いてな、
帝や源氏などの男どもを演じるにあたって
『女の望む理想の男』を創りあげろ。
態度から仕草、細かな言動まで全てを徹底的にな。
――――で、この『理想が全て乗った』男役を
凛々(りり)しく着飾った女の子が演じる。
「おぉおおおを?!」
こいつは完成すれば、
間違いなく世の女衆が食いつく。
ある意味、女衆専門の娯楽だ。
だから多くの意見を取り入れろよ?
ちっぽけな理想で済ませるな。
「ええ!はい!
勿論ですとも!!
世の皆が
唸るようなものを創ってみせましょう!!」
―――――――まあ、結構……というべきか。
予定ではこれを週に一度、
"一刻の4分の1"だけの公演とする。
毎週、少しずつ物語が進むわけだ。
ついでだから近隣で、演劇に使う
小道具や着物の製品版を売る。
更に舞台セットで使われた仕様を真似た
家の簡単な改築も請け負う。
小物や家の装いで、
気軽にお公家さま気分が楽しめるわけだ。
更にその週に演じた分の源氏物語の本文を
書いた小冊子をバラ売りする。
一般の者達には源氏物語を集めるのは不可能だから、
一度…観始めると続きが気になり止められなくなる。
ふ ふ ふ ふ、
沼 に 沈 ん で し ま え 。
――――――ああ、そうそう。
こいつはお幸のところの『歌』と
同じタイミングでかち合わせるから、
―――つまらん物を創ると押し負けるぞ?
「うふふふ……………それはそれは。
――――――――負けられませんねえ。」
向こうも優遇しているからな、
まあ……好きなだけ人員を引っ張れ。
―――あくまで同好の連中だけにしろよ?
趣味の合わない者達
を組み合わせると
悲劇という名の笑い話にしかならないからな。
"舞歌"と同じタイミングで、
那古野にて新しい芝居が発表される。
『姫演劇』と呼ばれたこの芝居は、
男女全てのキャストを若い女性が演じる物であった。
週に一度、30分のみ公演されたこの演劇は
女性に向けられた初めての娯楽であり、
当時那古野に働きに来た女性たちを夢中にさせた。
この長年に渡って演じられた初演『源氏物語』は
時折再公演を交えながら熱狂的な人気を博する。
この『姫演劇』は、
世界最初の女性向け娯楽であるとされている。
短期とはいえ、戦略プランに正面からケンカを売れば
懲罰のひとつもあるというもの。
和葉の場合、どこにいても大なり小なり問題を
やらかすタイプ。
というわけで、隔離して好き勝手させた方が
傑作とか創りかねないわけです。
そういう訳で、アイドルの次は『例の演劇』。
静葉がめっさ暴走します。
話自体はこれで終わりですが。
実はコレ、プロットは結構以前からありました。
……数葉が関わる予定はありませんでしたが。
前回の展開に引きずられました。
マメ知識
『源氏物語』
ご存知、ペンネーム"紫式部"こと藤原薫子さんが
書いた超長すぎる長編小説。
裏ではハーレム物だとか性癖のごった煮だとか、
好き勝手いわれている。
しかし、世界有数の超ロングセラーであることは
間違いない。
全54巻。
一気に読みきれとか、ちょっとした嫌がらせ。
『一刻の4分の1』
一刻が2時間であるため、30分。
アニメ上映時間レベルの上演になる。
週に一度のみ30分の公演。
これを専属チームで超長期に行うわけだ。
予定では昼頃の公演のため、物語のイメージも合わせ
文字通りの『昼ドラ』となる。
一度観始めると、続きが気になり止められなくなる。
止められなくなると
グッズとか原作なども気になり始める。
再公演があると思わず飛び付く。
まさに沼にはまる状態。
『一般の者達には源氏物語を集めるのは不可能』
当時の書籍は、公家が一族で継承している超貴重品。
伝手のない一般人には見ることも出来ない。
しかも写本する許可を取るのに謝礼金もいるから、
なおさら難しい。
なお、昔から
『源氏物語が全巻揃うのは奇跡』とか言われている。




