しかし意外な事は、連続して起こるものなのです。
「夏目様、こちらの方です。」
会場を後にした僕たちは、徒歩で移動していました。
僕は歩きながら、辺りをキョロキョロと見回していました。歩いていて気がついたのですが、この周辺は何やら色々な施設が点在している様なのでした。
「気になられますか?夏目様。」
流石に刻露さんも、僕の気持ちを察した様子なのでした。そこで自分は素直に、コクりと黙って頷くのみなのでした。
「この全米オープンの会場はUSTAビリー・ジーン・キング・ナショナルテニスセンターといいます。」
どうやら刻露さんは僕に対して、何か説明を始めた模様です。話は続きました。
「そしてここはフラッシング・メドウズ・コロナ・パーク内にあります。この公園にはクイーンズ博物館、ニューヨーク科学館などの施設があります。ちなみにこの近くには、大リーグのニューヨークメッツの本拠地球場もあるのです。ここは本当に、賑やかな所ですよね。」
そう言って刻露さんは両腕を大きく広げて、ジェスチャーをするのでした。
なるほど。プロ野球、大リーグのニューヨークメッツなら、名前くらいは知っています。つまり刻露さんの言わんとしていることは、この周辺はニューヨークでも、一大観光スポットである、という事なのでしょう。とにかくいろんな施設が集中しています。
===== 独特の音がする =====
僕たちは7番線、地下鉄に乗っていました。
「あのう。どちらに向かっているのでしょうか。」
慣れない地下鉄に刻露さんと2人で、とても僕は不安なのでした。
でもそんな僕の不安も、刻露さんにとっては関係のない事なのでした。
「今日のご夕食の会場に行くのですよ。お店を貸しきりでた予約しているのです。」
相変わらず彼の表情は爽やかで、それでいてあくまでその本音は隠している様なのでした。
「貸切?」
「そうです。まあちょっとしたパーティーですね。それに夏目様もご招待したいのですよ。」
「ぼくを、・・・招待・・・。」
「そうですよ。ある御方の強いご意向でして。」
やはり刻露さんは、意味深な発言をします。それは間違いなく、この僕が掌で踊らされている事を意味しているのでしょう。でもそれで仕方が無いのです。若く経験にも乏しい自分が、その流れに逆らう力が無いのは明白なのですから・・・・。そのままボクは刻露さんとの地下鉄の会話を、やり過ごしたのでした。
「こちらのお店になります。」
僕たちは派手なネオンが特徴的な店の前に立っていました。しかし意外と庶民的な雰囲気を醸し出しています。
===== ガラガラ =====
刻露さんのドアをスライドさせる音には、全くスムーズさがありません。本当に店の出入り口にも関わらず、とても立て付けは悪そうなのです。
「あ。」
お店の内装は意外と綺麗だったので、ビックリしたのでした。古いなりにも、丁寧な手入れが行き届いている・・・。そんな感じなのです。
「いらっしゃいませ。」
東洋系の女性店員が対応してきました。外見は日本人と変わらないのですが、恐らく日本の人では無いかと思われます・・・。多分・・・。
「こちらでございます。」
僕たちは女性店員に促され、部屋に入りました。
「あっ。」
またしても思わず僕は驚きの声を漏らしました。何故ならそこには大きく立派な視界が広がっていたからなのです。狐につままれるとは、まさにこの事なのではないでしょうか。こんな広々とした豪華な空間が、この建物の中にあること自体、信じがたいと思えるのです。
まさかとは思うのですが、これは狙っての事なのでしょうか。わざとさえない外観にして、中に進むごとに豪華な内装を見せつけていく・・・・。ここはそうゆう趣向の店ではないのでしょうか・・・。まあ勝手な自分の妄想なのですが・・・。その答えを、もうボクは詮索などしない事にしました。その方が夢があると思いませんか・・・。それにその事実を知って、ガッカリする場合の方が多い気がするのですから・・・。
「あっ、来たね。」
「えっ!?」
そこには思いもよらない女性がいました。
まさかこんなところで、彼女と会う事になるとは・・・。しかし意外な事は、連続して起こるものなのです。
===== ガチャ =====
背後の出入り口のドアノブが回りました。
「あっ!」
「よう。お疲れ様。」
お疲れ様は、僕ではなくて彼自身の方でしょう。まさか、まさかなのです。遠目で観ていたこの2人が今、自分の側にいるなどとは、、、。
「2人とも、何で・・・?」
勿論、この僕は動揺を禁じ得ていません。
「何でって、喚ばれたからよ・・・。」
「そうだよ。」
彼らも僕と同様に、上品な服装に身を包んでいました。この事から2人ともここに来るのに、何の心の準備も必要では無かったと伺えます。
それにしても彼も彼女も、とても気持ちの切り替えが早いのです。
その二人は本日、全米オープンテニス・シングルスを戦った選手・・・。
サニー・ファイン、そしてもう一人は冬木雪乃・・・。
戦いを終えた二人の表情は、とても落ち着いていました




