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ちょっと年上の女の子  作者: らすく
第6章 甦る記憶
318/326

「さあ!頑張ろう!!」 

 早朝に僕は新聞を読んでいました。それはスポーツなの欄です。その中でもテニスに関する事です。今は話題沸騰中です。何故なら全米オープンが始まるのですから・・・。

 でも正確に言うと、全米オープンは、もうすでに始まっているのです。

 男女混合ダブルスは修了しています。その他の種目は予選が終わっています。

 つまり男女混合ダブルス以外は、今日から決勝トーナメントが始まる訳なのです。因みに世界ランキングが上位の選手は予選免除です。これをシード選手といいます。しかもシード選手は早い段階で戦わないように、予め作られた各ブロックに振り分けられるのです。その事により優勝候補同士は、早い段階で組み合わされない様に施されているのでした。

 但し実績のある選手でも、怪我などの故障で試合から遠ざかることがあるとします。ランキングは大会の試合結果によりポイントが選手に与えられます。その為に試合にあまり出場しない選手はランキングが下位に甘んじる事となるのです。

 しかしその裏を返せばノーシードからの予選からの出場でも、優勝を狙える実力者が存在する可能性は大いにあります。そして実際に今回はそうなるのでした・・・。

 

 「ん。」

 紙面の隅の方に書かれている記事に目が留まりました。その内容を見て僕は目を疑いました。

 具体的に言うと全米オープン女子シングルスの予選を、1ゲームも落とさずに本戦まで勝ち上がった選手がいるというのです。

 試合は6ゲームで1セット、2セット先取なので全てとるとなると、12ゲーム連続です。それを予選全ての試合で成し遂げたとなると、とても凄いことではないでしょうか。

 仮に実力差があるにしろ、出場している選手は皆プロなのです。これほど圧倒的な強さで勝ち上がるのです。間違いなくシード級の強さであるといえます。話題にならない訳がありません。

 ともかく要チェックなのです。男女の違いはあれ、生で見なければいけないと思うのです。

 ===== トントン =====

 ドアをノックする音がしました。勿論、誰であるのかは自分には分かっています。


 ===== ガチャ =====

 ドアノブを回しました。

 「お早うごさいます。夏目様。」

 刻露清秀さんです。今回の全米オープンの観戦を、彼はエスコートしてくれています。

 「お早うごさいます。刻露さん。」

 当たり障りのない返事をして、僕は心の内を決して相手には見せないのでした。何故なら自分は、この人の事を信用していないからなのです。でも刻露さんの事は頼りにはしています。全く矛盾している様なのですが、これが今の事実なのです。このボクはそれだけ自分では何もできない・・・・、弱い存在なのです・・・。しかし気持ちでは服従するつもりは毛頭ありません。その行動は試合されても、心までは支配されまい・・・・。これが現在の自分の嘘偽らざる心の内なのです。面従腹背めんじゅうふくはいです。面前で従い、腹で背くのです・・・。我ながらズルい男なのです。この夏目巳波という人間は・・・。


 「体調はよろしいですか。夏目様。」

 ハンドルを握りながら刻露さんは、当然に僕の方を向かずに会話を切り出してきました。それはさながらタクシードライバーの様に、事務的なものなのでした。どうやら刻露さんは全てお見通しの様子なのです。それならば自分としても割り切って、大人の付き合いをするしかありません。とういうかその方が、こちらとしてもやりやすいのかも知れません。いらぬ気遣いをするよりは、神経的に楽なのです。ストレスをためない方が良いのです。ストレスは万病の元となりうるのです。自分としてはあくまでこの世の中で、とりあえず生き残るのが大切なのですから。

 「まあまあです。」

 ワザと素っ気ない返事をする僕なのでした。

 「そうですか。それはよかったです。」

 刻露さんの相槌も短いです。それはチットも良かったと思っていないように聞こえます。それはまさに感情のこもっていない会話なのでした。でもそれで良いのです。

 そのドライブの時間はあっという間でした。

 「着きましたよ。夏目様。」

 「お世話になりました。」

 速やかに僕達は車を降り、試合会場に向かったのでした。そして刻露さんは観覧席とは違う場所に、僕を連れて行ったのです。

 ===== ガチャ =====


 「ここは・・・。」

 そこは誰もいない、しかし綺麗に整った部屋なのでした。

 「この部屋は・・・・?」

 率直な疑問を表したのでした。そんな僕に対して、刻露さんはニッコリと優しく微笑んだのでした。そこがまた自分に取って不気味に感じたのは、とても失礼な事だったのでしょうか。いや本当にどうなのでしょうか・・・・。

 「夏目様はこれから連日、全米オープンを観戦されるでしょう。しかし流石にお疲れになることもあられるかと存じます。ですから、このお部屋をご用意させていただきました。お好きな時にお休みになってください。」

 そう言うと刻露さんは、僕に鍵を差し出してきました。

 「これがお部屋の鍵です。」

 「あ、はい。有難うございます。」

 それではこれからは試合終了までご自由に観戦をお楽しみください。勿論、今後の為のお勉強としてよろしくお願いいたします。」

 そう言って刻露さんは、深々とお辞儀をしたのでした。

 「あ、どうも・・・。」

 そんなハッキリした態度を見せられた僕は、シドロモドロなのです。

 「それではごゆっくり。」

 そう言って刻露さんは右手を上げ、立ち去っていったのでした。ポツンと残されたボク・・・。


 「さあ!頑張ろう!!」 

 僕は唯一人部屋の中で、気合を入れなおしたのでした。

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