たとえ目標を実現できないとしても・・・。
「これは・・・。」
僕は刻露さんの顔を見やなかりました。それは封筒であり、中身はそれなりに厚みがあると感じました。勿論な事ですが、それが何であるのかは自分には想像がつきません。これは一体全体・・・・。
「どうぞご確認下さい。夏目様。」
ささっと言わんばかりに、彼は右手を差し出してきたのでした。それならば自分は、素直に封筒を開けるべきなのでしょう。「ペリペリ」という小さな音を出しながら、僕は開封したのでした。そして・・・。
「えっ?」
それは真に思いもよらない、自分に対する贈り物だったのでした。
「本当にこれを僕に・・・。」
僕はそれをしげしげと眺めていました。一体全体何故に・・・。
「お勉強をしてくださいとの事です。夏目様の将来のため、是非その知見を広げていただきたいのとのことです。」
「将来への知見・・・。」
「そうです。これはあの方から、貴方の未来への投資なのです。」
あの方とは誰の事を指しているのかは、まだ自分には分かりません。しかし刻露さんが言うところの僕の将来が、なんであるのかは分かるのです。だから自分としては、その分かるいう直感に近いモノに従うのでした。
「有り難うございます。是非とも勉強させていただきます。」
与えられるものは最大限に活用する。これが自分の生きるべき道だと思います。こうして僕は封筒を素直に受け取ったのでした。
「それだけではありません、夏目様。近辺のホテルもご予約させていただいています。」
「えっ!?」
まさかここまで手厚い待遇を施されるとは思いもよらなかった僕は、思わず驚嘆の声を上げてしまいました。これから自分の運命が動き始める音がキシキシと聴こえてきたのでした。
「勿論、送迎はこの私が致します。宜しいですね。」
いかにも誠実そうな表情で、刻露さんは僕に念を押すように言ってきました。そこがまた更に戸惑いを感じさせられる、と思うのは自分だけでしょうか。
「しかし刻露さん。僕はここでテニスをさせていただいています。だからいきなりここを離れるのは不義理だと思うのです。貴方の元から逃げ出しておいて、こんなことを言うのは矛盾しています。それでも今現在は、この工場跡コートにお世話になっているんです。」
もう僕は遠慮なしに、思いっきり不安を吐露したのでした。そんな自分に対して、刻露さんは黙って見詰めてきたのです。
その視線に耐えるのはとても苦しいです。本当に我ながら身勝手であると思うのでした。
「大丈夫ですよ。」
それはそれは背後から優しい声がしました。
「シオンさん。」
いつからなのか、そこに彼女はいました。しかも刻露清秀さんに対しても、全く動揺している様子はありません。それは何を意味するのでしょうか。やはりシオンさんは刻露さんと、繋がりがあるというのが自然な解釈ではないでしょうか。
「必ず夏目さんの将来に役立つはずです。ここでの練習はお休みして、是非ともお勉強をしに行ってください。」
今日の事を彼女が把握していた事は、最早明白なのでした。どうやらこの僕の運命は、組織的に動かされている様なのです。
だがもう疑心暗鬼になるのは、やめる事にしたのです。だからその大きな河の流れに乗っていくのです。
「有り難うございます。」
恐らく彼らから見たら、僕はペコリとお辞儀をしていた事でしょう。
少なくとも僕は二人に対して感謝の意を示したのです。それがたとえ誰かの掌で踊らされていたとしても・・・・。
「ハッハッ」
テニスコートの周りをランニング中なのです。
刻露清秀さんが帰った後、僕は練習の為にウォーミングアップをしているのでした。練習を休むことになるとはいえ、出来るときに出来ることをやるのです。
その間はアルバイトも休まなければいけないのでした。
「それも大丈夫ですよ」、とシオンさんは言ってくれました。彼女がちゃんと話をつけてくれているのでしょう。
でも今日すべきことは、テニスの練習に打ち込む事・・・・。
そしてもうこの際、行ってしましましょう・・・・。
たとえ目標を実現できないとしても・・・。
「よう。待たせたな。」
サニーが入ってきました。
「え・・・?」
彼の方を見るなり、僕は驚きました。
だがそれはサニーに対してでは無かったのです。
それはサニーの隣にいた人物・・・。
「どうして君が・・・・?」
僕はサニーの隣の彼に問いました。
「オレは今日からここでテニスをすることになったんだ。」
「・・・・・そうなのか・・・。」
まさか彼もここに来ることになるとは・・・・。
「そうゆう訳で今日は三人で練習だ。いいかな?」
そのサニーの問に対してボクは即答しました。
「当たり前じゃないか!」
===== パカーン パカーン =====
その日は僕達三人で思う存分に打ち合いました。
それはテニス技術の向上などかなぐり捨てた、正にテニスの為のテニス・・・・。
「ハアハア・・・!」
三人とも息があがっていました。こんなにテニスで気持ちが良いと思ったのは久しぶりです。
その時、僕は気が付いたのでした。
自分はテニスを楽しむ事を忘れていました。テニスを苦しんでプレイしていたのです。
今日からこの工場のテニスプレーヤーは3人に増えました。
その第三の男の名は、<クライミト チェンジ>・・・。




