紅葉さんの気にしていること
日向さんとのレッスンを終えた僕は、ロビーにいる紅葉さんの元に歩いていきました。
紅葉さんは、両手にレジ袋らしき物をぶら下げて持っていました。
紅葉さんの至近距離まで達した僕は、その袋からの良いにおいに気がつきました。
「紅葉さん・・・・。さっきの人たちは・・・?」
僕は恐る恐る、紅葉さんに気になることを尋ねました。
「ああ・・・。アタシの家族だよ・・・・。」
紅葉さんは、落ち着いた表情で答えてきました。
「もう帰られてのですか??」
「うん、お店の方があるからね!!」
「紅葉さん。」
「ん?」
「紅葉さんは、ご両親にやっぱりよく似てますね・・・・。」
「え?そうかなあー。」
「雰囲気とかは、お母さんにとてもよく似ています。そして、性格と大きなところはお父さんの血を受け継いでいるんじゃないあと思います。」
僕は、思っていることを率直に言いました。でも・・・・。
「んんー・・・・。そうかなあー・・・・。」
紅葉さんは眉をちょっとひそめました。
(あれれ、僕は紅葉さんの機嫌を損ねてしまったのか??)
「アタシ、実は結構気にしてるんだよね・・・・。」
紅葉さんは改まったように、切り出しました。
「アタシは自分の体が大きいのを結構昔から、気にしているの・・・・・。」
紅葉さんは、ため息をつきました。
「ああー。もっと、女の子らしい体格に生まれたかったなあー・・・・。」
紅葉さんは膝を床に付き、人差し指で床をグリグリしだしました。
(も、紅葉さん・・・・。僕は紅葉さんの地雷を踏んでしまったのか・・・・?)
「紅葉さん・・・・。」
僕は紅葉さんの肩に、手を置きました。
「ん?なによ・・・・。」
紅葉さんは、若干涙目で僕を見上げました。
「紅葉さんはとても魅力的ですよ!!」
僕は精一杯に力強い表情を出して、紅葉さんを励まそうと試みることにしました。
「紅葉さんは顔は可愛いし、髪も茶色がかっていてとても艶々しているじゃないですか!!」
そう、紅葉さんの髪は茶色がかっています。染めていなくても、紅葉さんは黒髪ではないのです。
日差しの強いところにいると、紅い髪に見えるほどです。紅葉だけに・・・・・。
「そ、そうかなあ・・・。」
紅葉さんは、元気を取り戻しつつある様子でした。
僕は、ここで勝負に出ました。しかし、それが裏目に出ました・・・・。
「それに・・・・。紅葉さんは、とてもグラマーで素敵ですよ!!胸は大きいし、ヒップも豊かだし、太モモも、ムチムチしているし・・・・。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ふうん・・・・。」
紅葉さんは、スウっと立ち上がりました。
「巳波君は、日頃からアタシをそんなイヤらしい目で見ていたんだね・・・・。」
紅葉さんは、真顔で僕を見つめて言葉を発しました。
こんな冷徹な表情の紅葉さんは初めてです。
(紅葉さん、怖い・・・・・。)
(しまったあ・・・・・・・!!!)
今度は僕が膝をつく番でした。
僕は、膝をつき両手を床についていたのですが・・・・。
「んん??」
僕が右を振り向くと、小学生くらいの女の子が指をくわえて、僕と紅葉さんを見つめていました。
僕は、今置かれている状況に気がつきました。
(しまったあ・・・・・・・!!!)
考えてみたら僕と紅葉さんは、今はロビーの踊り場でいるのです。
先ほどからの、僕と紅葉さんの一連のやり取りはロビーにいる数名の人の前で行われていたのです。
周りに人たちは、冷や汗を掻きながら僕たちを見つめていました。
(うわわ・・・。全部見られていたんだ、全部・・・・。)
僕は、我に返り慌てふためきました。
紅葉さんもハッと周りに気がつき、頬と顎に両手を添えてとても決まりが悪そうでした。
僕と紅葉さんは、足早に控え室に向かいました。




