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ちょっと年上の女の子  作者: らすく
第4章 遠征
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「ちょっと、頂戴。」

 それは余りに日常的に見慣れたものなので、驚きはありませんでした。

 「弊社の新製品ですよ。どうぞお試しください。」

 そう言うや否や刻露さんは、僕に対してそれを差し出してきたのです。僕は素直に、それを受け取ったのでした。

 「は、どうも。」

 「ご試用されたら、またご感想宜しくお願いしますね。」

 そう言い残し、刻露清秀さんは去っていきました。去り際も爽やかなのです。続いて僕もお昼ごはんを食べ終え席を立ちました。


 お昼休みの残り時間、僕はテニスコートの近くのベンチに腰を掛けて過ごしていました。

 「これだけあれば、しばらくは持つなあ。」

 先程に刻露さんから手渡されたそれを、僕は眺めて一人で呟いているのでした。プラスチック状の容器に入ったそれを一つ取り出したのでした。それから早速独り言と共に、僕は使用したのです。グルグルとラケットのグリップ(柄)に馴染ませていくのでした。若干引っ張りながらです。

 「うむ。」

 まあ我ながら上手に出来たのではないでしょうか。自己満足なのです。僕が触ろうとした、その瞬間、彼女は悪魔的なに表れたのです。

 「ふうーん。」

 なんと彼女は、いきなり撫でてきたのです。それはそれは愛でるという表現がピッタリなのではないでしょうか。でも勝手にそんな事をされても困るのです。

 「なっ!」

 不意を食らった僕は、感情がマトモに顔に表れている事でしょう。そして自分からは動かずに、彼女の様子を観察してしまっていたのでした。それは柔らかい手で優しく触れていたのでした。その感触は視覚からでも十分に伝わってきます。そしてその手は軽く伝うように上下させていたのです。まるで自分自身が撫でられている錯覚してしまうのでした。しかしこの状況は長くは続きませんでした。

 ~~~~ シュッシュッ ~~~~

 「なっ!」

 その穏やかさは一転しました。さらに彼女は音が出るほどに、それを擦り出したのでした。

 「くっ。」

 思わず僕は声を漏らします。

 ~~~~ シュッシュッ、シュコッ ~~~~

 「うっ、くくっう・・・。」

 だんだんと僕は、その彼女の所業に耐えられなくなったのでした。

 (だ、ダメだ、もう我慢できない。)

 ボクは精神が崩壊すると本能的に危機察知したのでした。そして・・・・。

 「止めてくれ!」

 ついに僕は大声を出してしまいました。その瞬間に往復運動がピタッと止まったのです。

 「うん?」

 でも当の彼女はすっとぼけています。それ故に僕は腹立たしい気持ちが出てきました。

 「擦ったりしないでよ。」

 「えー?」

 何故か彼女は腑に落ちないようすです。なにも分かっていない様子なのです。

 「だって触り心地いいんだもん。」

 そう言って彼女は舌の先をチョビッとだけ出すのでした。まったく悪びれというモノがないのです。その態度だけみれば、別に悪い気はしないのですが。しかしこれだけはハッキリと言っておかなければいけません。僕は意思を表しました。

 「やめてよ。勝手に僕のラケットのグリップを触るのは。」

 テニス選手にとってラケットは、武士で言うと刀です。それを気安く撫でたり擦られたりするのは、持ち主に取って権利を侵害されるという以外に考えられないのです。しかしさらに・・・・。

 「ちょっと、頂戴。」

 いきなり彼女は僕のグリップテープを一掴み分取ったのでした。彼女の手の大きさからして、5個か6個くらいでした。

 「う。」

 僕はグウの音ならぬ、ウの音を漏らしたのです。まあ刻露さんからは、このグリップテープはたくさんもらっているので良いのですが。

 「ふん、ふーん。」

 トロピは勝手に一人、上機嫌で去って行くのでした。そんな彼女を見て諦めに近い気持ちになるのでした。

 

 お昼からの練習が始まりました。先ほどの事は置いておいて、気を取り直しています。チラリとあたりを見回すと、午前中に続いて殆どのコートが使用されています。でもそんな事気にして集中力を切らしてはいけません。頑張って僕は調子を持続していきました。そして特に問題もなく、本日の練習は終了したのでした。再び僕はホッと一息をついて、ベンチに座ったのです。

 「うん?」

 僕はラケットを見て思い出したのでした。刻露さんから頂いたグリップテープを使用していたという事を。でも練習中には、その事は気になっていませんでした。そしてさらに僕は気づいたのです。

 ==== 気にならないということは、それだけ自分はこのグリップテープに馴染んでいるという事ではないでしょうか。 ====

 まさにこのグリップテープは、黒子の様にプレーヤーを支える存在になり得るのでは、そう自分は考えるのです。哲学的な考察をした僕は、道具をバッグにしまい帰路に着いたのでした。自己満足なのです。

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