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ちょっと年上の女の子  作者: らすく
第4章 遠征
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柔らかすぎず固すぎず。

 次の日も、勿論ボク達は練習なのです。

 しかし今日は、ちょっと雰囲気が違うのでした。

 今までよりも、多くのコートでプレーされているようです。

 いつもはもっと、空いているコートがあるのです。

 だから周りのテニスコートで、プレーしている選手が気になるのでした。

 確かに「隣の芝生は青く見える」、じゃなくて・・・・。

 それでも昨日から続く好調を維持すべく、また自分自身の練習に集中しなおしたのです。

 そもそも調子が良いのだから、それは簡単な事なのでした。

 一旦気持ちを切り替えることに成功すると、本当に流れるような時間なのでした。

 あっという間に午前の練習は終わり、お昼休みになったのでした。

 例によって、僕はアカデミーの食堂に行きました。

 今日はいつもよりも、賑わっている様に思えます。

 そして僕よりも、少し上の年代の人達の姿が多く見受けられます。

 その体型・服装から明らかに彼らもスポーツマン、勿論テニス選手なのでしょう。

 僕はランチを持ち、空いている席に座りました。

 ここの食堂はセルフサービスなのです。

 目の前のランチを食し始めた、その瞬間。

 「いいですか。」

 聞き慣れた声の日本語が、僕に対して発せられたのです。

 不意を突かれた僕は、思わずブッと吹き出しそうになったのでした。

 「おっと、驚かして申し訳ありません。」

 「あっ、はい。」

 その人は、僕に対面で着席してきました。

 「ここは、どうですか。」

 その人は、刻露清秀さんでした。

 彼は相変わらず余裕が溢れている表情をしています。

 「まあ、何とかやっていますよ。」

 僕は無難な相槌を打ちました。

 「そうですか。でも調子は良さそうですね。」

 やはり刻露さんは僕の事は、お見通しなのでしょうか。

 それとも自分の好調さが、自然と顔に表れているのでしょうか。

 「刻露さんは、どうしてここへ。」

 露骨に僕は、会話の間を持たせるための言葉を出しました。

 でもそんな僕に対しても、この人は悪い顔をしません。

 「私は仕事の都合で、こちらに参りました。勿論、夏目さんの事も見に参りましたよ。」

 スッキリとした顔で夏目さんは、僕の顔を見ています。

 高いパフォーマンスでプレーできているのだから、自分の機嫌も悪くありません。

 でもそれでも刻露さんに対しては、何やら引っ掛かるものがあるのです。

 それは何かというと・・・。

 監視されている、という感覚があるのです。

 それに未だに、この刻露清秀という人の事を自分は余りよく知りません。

 それなのに恐らく彼は、僕の事を全て把握している・・・・・・。

 (・・・・!!)

 今更ながら、僕は気が付いたのです。

 自分が刻露さんに対して抱いている引っかかる感情の正体を・・・。

 それは、<警戒心>・・・・。

 いつもは何気ない一人食卓が、緊張の場になったのです。


 「問題ありませんよ。」

 「えっ?」

 やはり刻露さんには、自分の心は完全に見透かされているのでしょうか。

 そう考えると、下手な事を考えられません。

 「今の調子で、夏目さんは大丈夫ですよ。」

 「はあ。」

 少し僕の考えている事とはズレている様子なので、自分としてはとりあえずホッとしたのでした。

 それはそうとして・・・・。

 彼の言葉には、一体なんの根拠があるのでしょうか。

 やはり刻露さんは、僕の日頃の行いを監視しているのでしょうか。

 「それはそうと。気になっておられる様子ですが。」

 そのセリフに、僕はドキッとしたのでした。

 彼は話題を変えました。

 「今度のオーストラリアン・オープンに出場される選手の方々ですよ。彼らは。」

 僕が持っている一つの疑問に、刻露さんは答えてくれたのでした。

 それとも自分への注意をそらすための、会話の提供なのでしょうか。

 「夏目様も練習は大変でしょうが、トッププロの試合もチェックなされても良いとは思います。」

 「はあ、まあ。」

 そう相槌を打ちながらも、僕は辺りを見回したのです。

 その中には自分の予想通り、知った顔が見られたのです。

 「おう。」

 彼の方から声をかけてきました。


 その人の名は、色黒で細身の南米系の男性、オウバー・キャスト。

 「オーストラリアン、オープンに出るんですか?」

 「おう、そうだ。だからここで調整してるんだよ。おう、コクロも一緒だな。」

 オウバーさんは頭をボリボリと掻きながら、刻露さんを見下ろしています。

 その眼から、彼が刻露さんと親しい感じであることが伺えるのでした。

 「どうも、お世話になります。」

 それでも刻露さんの言葉遣いは、丁寧なのです。

 「ま、今回は上位の欠場者もあんまりいねえし、厳しいかな。」

 オウバーさんは頭をカリカリと軽く掻きながら、苦笑いをしているのです。

 それを見て、この人は本当に裏表のなさそうな人なんだな、と僕は思ったのでした。

 「そうなんですね。そういえばグリップの調子はいかがですか?」

 「ああ、いい感じだな。柔らかすぎず固すぎず。」

 「ほう、肌にあっていそうですね。」

 そう言って刻露さんは、微笑を浮かべているのでした。

 たいしてオウバーさんは、白い歯を見せて笑っている様に見えるのです。

 「じゃ、またな。」

 オウバーさんは僕たちに軽く右手をあげて、どこかに行ってしまいました。

 彼を見送るのも束の間・・・・。

 「ふふ、今ので思い出しましたよ。」

 刻露さんは自分の鞄を、何やらゴソゴソとしていました。

 そしてあるものを取り出したのでした。

 (それは。)

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