トロピに対する見方は大きく変わったのでした。
もう一人の女子選手はサイ・九龍です。
そして話を聞くと、サイは今月のオーストラリアンオープンに出場すると言います。
承知の通り、サイは世界でも一線級の女子プロテニス選手なのです。
彼女が四大大会の一つであるオーストラリン・オープンに出場することは、実力的に自然であり既定路線と言えるでしょう。
そんな彼女は、ボクと対等に接してくれています。
うまく言えないのですが、今まで自分はサイに対して余りにも気を遣わな過ぎていたと思うのです。
だからサイは世界のトッププロの選手であり、僕はまだプロですらない事を改めて実感しました。
でも話はそれだけでは終わらなかったのです。
「わたしもね!」
急に言葉を切り出して来たのでした。
その声の主は・・・・。
トロピが、自分自身を指さしています。
「え?」
トロピ・・・、彼女がどうしたのだというのでしょうか。
「だ・か・ら・わたしも!」
「??わたしも??」
トロピの言葉に対して、僕はオウム返しでした。
トロピが何を言わんとしているのか、ボクには今一つよくわからないのです。
そんな僕に対して、明らかに彼女は苛立っている様子なのでした。
「オーストラリアン・オープン!!」
叫ぶような声でトロピは訴えたのでした。
「あっ!ああ!」
そこでやっと僕は納得したのでした。
本当に彼女はテニスが好きなんだ、と自分としては納得たのです。
「ああ、楽しみだね。オーストラリアン・オープン。
だからサイのヒッティングパートナーをしていたんだね。」
そこでなるべく僕はトロピの機嫌を損ねないように、心がけながら彼女に言ったのでした。
ちなみにヒッティングパートナーとは、いわゆる練習相手とほぼ同じ意味の言葉なのです。
そんな僕の気持ちに反して、彼女は顔色をガラッと変わったのです。
しかも反転と言うよりも、むしろエスカレートしたと言える方向にです。
「ちーがーうー!!」
トロピは怒り心頭なのでした。
まさに彼女の脳天から、マグマ状のものが噴出しているのが僕の目には見えるのでした。
「どうして怒っているんだい?」
これは本当に自分の正直な言葉なのでした。
しかしトロピには、そのように取られなかったのでした。
「もーう!!」
トロピは両腕をブンブン振り回して、不機嫌を表現しています。
そして・・・。
「わたしもオーストラリアン・オープンに出るんだよー!」
「えっ!?」
恐らくその時の僕の表情はトロピにとって、いかにも意外そうな感じに見えたのでしょう。
だからまだ彼女の表情と言ったら・・・。
しかし・・・、彼女もオーストラリアン・オープンに出場すると・・・・?
「ええ?何で?」
思わず僕は、こんな発言をしていました。
後になって思うと、それが彼女のプライドを大きく傷つけてしまったのかも知れません。
「わたしもプロだもん!」
「なに!?」
更に僕は、トロピの言葉に驚きを隠せなかったのでした。
こんなただの悪戯っ子みたいな娘が、プロテニス選手とは・・・・。
もっとも、それはボクの偏見なのでしょうが・・・・。
だからトロピには、僕は悪い事を言ったな、と思ったのです。
そしてさらに、彼女の話は続いたのでした。
「し・か・も!」
気を取り直しなのか、トロピはまたしてもクイクイッと自分自身を指さしながら、発言を続けました。
「わたしはこのアカデミーの支配人なんだよ!」
「!!!!!」
これには流石に、ボクは驚愕しました。
いくらなんでも、こんな若い娘がアカデミーの支配人とは・・・・。
これは自分には,到底信じられない事実なのでした。
「ふっふっふ!」
彼女は僕に対して勝ち誇っています。
トロピは腕を組んで、さも得意げな様子でした。
しかし彼女の背後に人影が迫り、何かが起こるのがボクには分かっていたのです。
==== ポン ====
「こりゃ。」
「ふっく!!」
背後から軽くチョップを脳天に降ろされ、トロピは大きな息を吐いたのでした。
「嘘はいかんぞ。嘘は。」
いかにも温厚そうな、口ひげを生やした中年の男性でした。
「私が支配人です。これは娘のトロピです。」
とても丁寧な会釈で男性は、挨拶をしてきました。
加えて右手でトロピも強制的に、お辞儀をさせていました。
そんなことをされたトロピは、非常に不服そうな顔をしていました。
その様子をみて、ちょっとボクは可笑しくなってしまいました。
彼女は調子に乗り過ぎていた、という事です・・・。
しかし・・・。
「でも、娘がプロテニス選手なのは本当ですので。」
フォローのつもりなのでしょうか、支配人は付け加えました。
(やはりトロピは、プロ選手なのか・・・。)
それだけでも僕の、トロピに対する見方は大きく変わったのでした。




