信頼されている
翌日に、僕はテニススクールに出勤して、真っ先に日向さんに話しかけました。
「日向さん、昨日の事なんですけど・・・・。」
「おう、夏目、昨日は秋原から話は聞けたのか?」
日向さんの、全てを分かり切ったような雰囲気から、僕は全てを悟りました。
「日向コーチ、貴方は全てご存じだったのですね。
紅葉さんが、どのような健康状態であるのかということ。
どうして、日向さんはそのことを教えてくれなかったのですか?
それに・・・・・。」
僕は、軽く目とつむり間を置きました。
「紅葉さんに、あの週刊誌を手渡したのは、日向さんですよね?
日向さんは、僕が昨日紅葉さんのアパートに行く前に、紅葉さんと会っていたのですね。
どうして、そんな回りくどいことをされたのですか・・・・・。
僕に、直接はなしていただいたら誤解も早く解けたのに・・・・。」
日向さんは少し沈黙してから、しゃべり出しました。
「俺の口から間接的に言うよりも、秋原本人から聞いた方が説得力があると思わないか。
だから、夏目には秋原と直接に話をしてもらいたかったのさ。」
(確かにそうだ。もし、日向さんから紅葉さんの話を聞いても、半信半疑の状態から抜け出れなかっただろう。
そして、おそらく雑誌をみた紅葉さんは、最初から僕に打ち明けるつもりで、鞄の仲の薬と注射器を見えるようにしていたのだろう。)
「それとな夏目。」
日向さんはまだ、話が終わっていないという感じでワンクッションをおきました。
「あいつから、本当のこと聞き出すの大変だっただろう。」
僕は、昨日の紅葉さんとのババ抜き・シャワー待ち・バターナイフをちらつかせてからのパンのごちそうを思い出しました。
「・・・・・。たしかに、とても回りくどかったですよね。
どうして紅葉さんは僕に誤解されるような態度を取ったんでしょうか。」
その瞬間、ハハハッと日向さんは笑っていました。
「あいつ、やっぱり子供の頃から変わっていないよな。
秋原は、自分の弱みを人に知られるのがとても嫌なんだよ。
だから夏目に対して、面倒くさいことをして焦らして、ようやくしゃべったんだよ。」
日向さんは、紅葉さんの行動をお見通しな様でした。
「だからって、紅葉さんのおかげで、僕はメチャメチャ心配させられましたよ。」
実際、僕は昨日は紅葉さんにハラハラさせられて、とても疲れました。
「まあ、秋原の事は許してやってくれよ。
でもなあ、最後にあいつがしゃべったって事は、夏目のことを信頼しているからだぜ。
秋原はあれで、とても警戒心の強い女なんだからな。
信用していない相手には絶対に本音を語ったりしねえよ。
ま、俺の見込み通り、夏目は秋原に信頼されているって事だ・・・・!」
日向さんは、僕の肩をポンッと軽く叩きながら言いました。
「そうなんですか・・・・。」
日向さんの言葉を聞いて、僕は昨日の紅葉さんの紛らわしい態度が、なんだか愛おしい様に思えてきました。
そう話をしていると、紅葉さんが廊下の向こうから歩いてきました。
なんだか昨日の事があり、僕は思わず逃げるような感じで後ろを向きました。




