【B. 無許可列車、始動】
夜が、ほんのわずかに明るみを帯び始めた。
レール連合都市・中央駅の封鎖線を破って、手作りの小型列車がゆっくりと走り出す。
車体には、かつてのアカデミー・オブ・レールの紋章がうっすらと残っていた。
それは、“希望支線”――かつて人々の夢と祈りを繋いだ、幻の路線の象徴。
制服の袖章に刻まれたその印を、彼らは今も誇りとして纏っている。
運転席に立つ青年の名は アレン・フォルス。
希望支線の建設を支えた世代のひとりであり、今は民間修理工として働く青年だった。
だが今夜、彼は“修理工”ではなく、“信念の運転士”としてハンドルを握っていた。
アレン「……あの日、先生が言ったんだ。“線路は人の心が走る道”だって。」
仲間「だったら、止まる理由なんてない!」
仲間たちが息を合わせるように、魔導ブレーキを解除。
車輪がゆっくりと、確かなリズムで回転を始めた。
キィン――と澄んだ金属音が響き、冷たい空気を震わせる。
列車は、中央広場へと滑り込んでいく。
まだ夜明け前の街。
寝静まっていた市民たちの窓が、一つ、また一つと灯り始める。
「……列車の音だ」
「まさか、運行禁止のはずじゃ――」
人々がカーテンを開け、窓辺から外を見つめる。
その瞳に映るのは、霧の中を進む小さな列車。
錆びついたはずの線路を、心臓の鼓動のように響かせながら走っていく。
ゴトン……ゴトン……。
その音は、まるで“希望の心音”だった。
アレンたちは誰に許されたわけでもない。
けれど、誰よりも深く信じていた。
――この列車が走る限り、人の心はまだ死んでいない、と。




