7. 職員室の紹介と第一印象:レールの交差点
翌朝。
悠真とリリアナは、校舎二階の職員室へと案内された。
扉を開けた瞬間――目と耳と嗅覚が、同時に過負荷に陥る。
油とインクと線香の匂い。
歯車が回る音、詩の朗読、そして“安全確認”の唱和。
リリアナ「……なんですか、この混線した職場環境は。」
案内役の学生:「ようこそ、アカデミー職員室へ! 一番騒がしいのは“平常運転”です!」
部屋の奥から、溶接用ゴーグルを頭にかけた女性教官が顔を出した。
片手にはスパナ、もう片方には回転している車輪の模型。
女性「新入りか! 動輪学担当のマキナだ! レールより重い講義を仕込んでやるから覚悟しとけ!」
悠真「……授業、物理的に重そうですね。」
彼女の机の上では、小型の機関車が勝手に動いている。
どう見ても“教材”というより“未完成の兵器”だった。
続いて、窓際の席から柔らかな声が響く。
青いローブを纏い、風に揺れる長髪。
紙ではなく、風精霊に詩を口述している女性がいた。
女性「――風よ、次の時刻を読み上げなさい。……ふふ、こんにちは。詩学担当のソフィアです。」
リリアナ「運行詩って、本当に精霊が読むんですね……。」
ソフィア「ええ。列車の時間と詩のリズムは、同じ“律”でできているんです。」
悠真(なんだここ、理系と文学の同居か?)
さらにその隣――机の上に祈祷台を据え、両手を合わせている男。
目を閉じ、ずっと同じ言葉を繰り返していた。
男「――確認、完了……確認、完了……安全、確認……完了……」
悠真「えっと……この方は?」
マキナ「安全確認学のシーグ神官だ。寝言も“確認完了”で締める。」
リリアナ(宗教と鉄道が融合した結果がこれですか……。)
一通りの紹介を終えたところで、グラン校長が姿を見せる。
グラン「諸君、今日から悠真とリリアナが新任教官として加わる。どうぞ、事故のないように。」
シーグ神官「確認、完了……!」
(※全員が自然に復唱する)
悠真「……あの、これ毎朝やるんですか?」
リリアナ「“安全祈念朝礼”だそうです。宗教行事扱いです。」
悠真「宗教と工学のハイブリッド職場って、想像以上にカオスだな……。」
リリアナは笑みを浮かべて小声で言った。
リリアナ「でも、面白いでしょう? この学園――レールだけじゃなく、“思想”まで交わってる。」
悠真は苦笑しながら頷いた。
悠真「まさに、鉄道という名の“交差点”だな。」
窓の外では汽笛が鳴り、朝の光がレールのように床を走る。
――アカデミー・オブ・レール、混線授業の始まりである。




