【D. 技師試験】
場面:鉄道ギルド支部・試験室。
壁には「神の軌跡を正しく描け」という格言。
神聖な静寂――だが、その中心には途方に暮れた悠真の姿があった。
机の上に置かれた分厚い羊皮紙。
表紙には、金文字でこう刻まれている。
『鉄道技師認定試験 兼 信仰適性審査』
悠真(心の声)
「……なんで“兼”なんだよ。」
リリアナが厳しい目で監督席に座る。
車掌帽の影が、審問官のそれに見える。
リリアナ「では、始めてください。全問、記述式です。」
悠真「記述式!? しかも、分厚っ……!」
羊皮紙をめくる。
出てきた第一問。
問1:列車とは神か、人か。理由を五百字以内で述べよ。
悠真「いやもう哲学じゃん!?」
横でリリアナが頷く。
リリアナ「当然です。列車とは“神意の器”ですから。」
悠真「こっちは“動力と効率の器”なんですけど!?」
次のページをめくる。
問2:停車とは懺悔、または黙祷のいずれかを選べ。
悠真「いや選択肢の方向性が意味不明!!」
リリアナ「信仰試験における基本問題です。停車とは“心を止める祈り”を意味します。」
悠真「乗客トイレ行ってるだけの時もあるんですよ!?」
リリアナ「トイレ……? 新しい儀式名ですか?」
悠真「違う!! 信仰じゃない!! 生理現象!!!」
ギルド室がざわめく。
試験官たちが書き留めながらひそひそ声を交わす。
試験官A「“生理現象”……新たな神学用語か?」
試験官B「彼、まさか“実践派信徒”なのでは?」
悠真「違う!! 全部違う!!!」
問題はどんどん信仰寄りになっていく。
問3:レールを曲げる者は、己を曲げる者なり。論ぜよ。
問4:乗務前に唱える祈りを古典形式で書け。
問5:発車とは“再生”か“昇天”か。どちらを信ずるか。
悠真「いやこれ絶対“技師試験”じゃないってぇぇぇぇ!!」
リリアナは淡々とメモを取っている。
リリアナ「技術は信仰の延長。正しい心なくして、正しい車輪は回りません。」
悠真「いや、普通にグリース塗って回せば回るんですよ!」
リリアナ「“グリース”……? 潤滑の聖油のことですか?」
悠真「違う! それはただの油!!」
リリアナ「では“油断大敵”の語源は……?」
悠真「それもう日本語講座の域!!」
……数時間後。
試験終了の鐘が鳴る。
悠真はぐったりと机に突っ伏した。
リリアナは答案を受け取り、真面目な顔で判定を下す。
リリアナ「――結果。信仰度0、情熱指数100。」
悠真「なんだその採点方式!!」
リリアナ「ですが……“鉄を愛する者”であることは、確かに伝わりました。」
悠真「……それ、合格ってことで?」
リリアナ「保留です。神学補修を受けてから、再試験を。」
悠真「補修!? 鉄道なのに宗教講座つき!?」
リリアナ「信仰なき技術は暴走です。試験は神聖そのものです!」
悠真「(いやもう信仰が暴走してるんだよ……!)」




