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それは禁句でした

 離宮で遊んだ双子は先に王都へ帰された。しっかり勉強とマナーレッスンをこなさなければ、次の遊びの日は子ども部屋にこもりきりになってしまう。父がつききりで教えてくれるので、それはそれで魅力的だがやっぱり遊んで欲しい。


 レイはフーレ村の雑貨屋で、月に1度の子ども通貨を握りしめて買い物にくる小さな客人の相手をしていた。最近は羽ペンやノートにも交換できる。ノートは書類が破棄される前に端の何も書かれていないところを切りとらせ、数枚を紐で綴じたもの。ものによっては長細かったり、大きさも紙質も違うが、大きな子たちにはお菓子よりも大人気だ。


「教会で週1日じゃなく、2日は青空教室開きたいな。王都で時間ありそうなご婦人を探してこなくちゃね」

「またダンスしながら勧誘か?」

「踊りたくもないのに、僕だって頑張ってるんだ。それくらいは許してよ」

「好きにしろ」


 モリオンは庭で子どもらと遊んでいる。輪に入れない子の服の裾をひっぱり、駆け出して転んだ子の膝をなめる。ケンカが始まれば猫パンチで仲裁。肝っ玉母さんのようだ。


「ふふ。モリオンも楽しんでるね。今のうちに調剤してしまおう」

「手伝う」


 2人で調剤室に入り、ヴィンが薬草をすり潰し、レイが計りにのせる。


「この前」

「いつ?」

「バーデットで野営した時。お前泣いてたか?」

「うん。ルーにね、色々と悟られていたよ」

「聡い子だからな」

「ヴィンもよく気づいたね」

「朝飯の時、目が赤かったぞ」


 すり鉢をおいたヴィンがレイに近づき、目じりに軽くチュッとした。レイは目をぱちぱちさせて驚いている。


「今日は随分と甘やかしてくれるね。何か企んでる?」

「ばーか」


 また作業に戻る。昼も過ぎて腹が減って来た。


「俺にもモチモチパンケーキ作ってくれよ。この前食べ損ねたからな」

「牛乳ないとできないんだ」

「そういえば牛乳を飲んでるの見たことないな」

「……」

「まさか飲めないのか」

「冷たくすれば飲めるし、ミルクティーは好きだよ。でも温めた時の匂いが無理。代わりにチーズは食べてるから問題ない」


 幼い頃、大事な王子様のお腹が痛くならないように温められた牛乳しか出てこなかった。蜂蜜をたらそうが残した。


「モリオンには温めてあげるのに?」

「それは匂いをかがないように気をつけてるから大丈夫」

「だから背が伸びなかったのか」


 ガタン。レイが席を立つ。


「それ。言ってはいけないやつだから」

「気にしてたのか?」


 3兄弟の中でレイの背が1番低い。病弱だった長兄アルバートは管理された食事をとっていたせいかわからないが、やせ型でも背は高い。次兄レオンも本ばかり読んでいたくせにレイよりわずかに高い。レイは女性の中に混じれば少し背があるなくらい。違和感なく可愛いヴィオラちゃんに化けられる。


「好き嫌いすると背が伸びない、食べなさい、飲みなさいって。みんなが脅すから余計食べられなくなった」


 小食なのはそのせい? 剣振るのにお腹いっぱいにはしないって言ってたよな。それは本当だろうが、元々少ないんだ。


 3度の食事を残すので、アメリアが捕食を食べさていた。今でもその癖は抜けない。ヴィンは栄養までは考えず、お菓子やくだもの等レイの好きなものしか用意しない。今さら牛乳を飲ませたところで背は伸びないだろう。


「ルーにいつか抜かされるかもな」

「ルーならいいよ。でももうおやつも要らない。出しても食べないからね!」

「意固地になるな。別に背が低かろうが、悪いとか言ってないだろう」

「低いって僕が1番気にしてること言ったのがもう頭にくる! 先帰る!」


 庭に出たレイが子どもたちに今日はおしまいと手を振り、モリオンを呼んだ。抱き上げると湖へ行こうとアリアンに跨った。


「おい待てよ」

「昼は1人でどうぞ」


 普段は大人ぶっているくせに、お子様が過ぎる。こうなったら誰を呼べばいいんだか。さすがに病床に伏しているアメリアは呼べない。


 レイは石を拾い、湖に向かって投げていた。石が12回湖面を跳ねて沈んだ。よしっ。次はルーと水切り競争だ。


「好き嫌いしようが大病だってしたことないし、誰にも迷惑かけてない。残したってヴィンやハリーが喜んで食べるから無駄にはなってないしさ」

「ミャー」


 そうよねとモリオンが返事する。


「オリビアも牛乳は飲まなかったね。2人でチーズが食べられて良かったって。よくモチモチパンケーキに挟んでくれたよね」

「ミャー」


 モリオンがレイの目じりをペロッと舐めた。くすぐったいとレイは笑う。


「君といると僕は笑ってばかりだ」


 さすがに昼を抜いたレイもお腹が減ってきた。ポケットに蜂蜜キャンディーがあるのを思い出して口に放り込み、転がしながら舐める。草の上に寝ころび胸の上に乗るモリオンをなぜていた。


「リスみたいだな」

「シルバーでなく?」

「シルバーはすぐにかじるだろ」


 ヴィンがバスケットを置いて、起き上がったレイの髪に付いた草を取り払う。


「離宮に行って聞いてきた。同じに出来たかはわからないが」

「見た目は一緒だよ」

「おやつじゃなければ食うだろ」

「……」


 無言でレイがバスケットに入ったモチモチパンケーキに手を伸ばす。


「チーズはもう少し溶けた方が美味しいし、ハムが厚すぎ」

「でも旨いだろ?」


 レイがヴィンに唇をよせ目じりにチュッとした。


「まぁ合格点あげるよ」


 レイはチーズの端をちぎってモリオンに食べさせた。


「ミャー」

「あなたにも食べていただけるとは。光栄です」


 翌日、機嫌の直ったレイはヴィンと外で鍛錬をしていた。


「汗ぬぐえ。冷やすなよ」


 ヴィンがレイにタオルを渡す。汗をぬぐうレイをみてまた余計なことを口走る。


「レイはこれだけ戸外に出ても日焼けしないよな」

「そういう質だし、お手入れの賜物だよ。何? 今度はなまっ白いって言いたいの?」

「言ってないだろう! 色白でかわい……」

「聞こえない。続きどうぞ」


にやつくレイが小首をかしげ、先を催促する。


「うるさい。支度して本邸に帰るぞ」

「待ってよーー」


本当に仲がいいのね。モリオンは木陰で2人を見ていた。

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