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愛称

「ちょっと試しに攻撃受けてみるです!」


 俺の戦闘が終わったのを知ったアペルがミノタウロスの一撃を盾で受けきれるか試すと言いだした。いざとなったらサポートに入れるようにとソフィアが魔力を循環させ始め、俺はいつでも助けに入れるように構え、その瞬間を見守っていた。


 ミノタウロスの振りかざした斧がアペル目掛けて振り下ろされ、アペルは正面からそれを受ける為に盾をかざし、衝撃を堪えられるように腰を落とした。ミノタウロスの斧がアペルの盾に衝突する。甲高い金属音が洞窟内を響き渡り、その音量が衝撃の威力を物語ってた。


「ぐぅ……」


 衝撃によって地面に膝を着いたものの、アペルはミノタウロスの攻撃を受けきり、お互いにせめぎ合っていた。今は何とか堪えているものの、ミノタウロスの方が優勢になるだろう。アペルもそれを察してか盾を外側へ傾けて斧を逸らし、その反対側へ転がって距離を取った。しかし、それを逃さないとでも言うように、ミノタウロスが間合いを詰めて斧を横薙ぎに振るった。


 回避は間に合わない。アペルは盾をなんとか斧と自分の間に割り込ませて直撃を避けたが、その威力と衝撃は途轍もなく、盾を構えたアペルごと吹き飛ばした。


 アペルの吹き飛ばされた方向は運良く、壁ではなくて俺達の居る方向で、俺が受け止めようと飛んでくる進路で待ち構えたのだが、俺と同じくして動いたシェリーの《スチールワイヤー》で作られた網クッションがアペルを受け止めていた。


「あーちゃん、大丈夫ですか?」


「ありがとです。やっぱり力比べではミノタウロスに敵わなかったです」


「手伝う?」


「次からは避けるので大丈夫です」


 アペルはソフィア問い掛けにそう返事をすると、吹き飛ばされて離れたミノタウロスへ向かって駆けていった。回避の方向でいくなら問題ないだろうが、攻撃を受けてみると言った時には少し心配した。結果は力負けして吹き飛ばされたが、結構良い線はいっていたのでもう少しレベルが上がれば、その勝敗は逆転するかもしれない。


 そうなるとボディービルダーのような筋肉を身に宿しているミノタウロスより、ソフィア程ではないが一般から見たら小柄な方の部類に当たるアペルの方が力も強くなるのか。それはそれでミノタウロスの筋肉が飾りにしか見えなくなるのが残念だ。こういうゲームみたいな《ステータス》で能力値を管理しているのだから仕方のない事なのだ。


 ただそうすると筋トレしたって意味がないかと言うと、実はそうでもない。筋トレした分は少しずつだが能力値に反映されるらしいのだ。別に筋トレに限った事でもなく、スキルに頼らないで工芸品やら装備品などを作ったり、何らかの行動をし経験した事がそれ相応の能力値に少しずつ反映されるらしい。レベルという能力値だけに限らず己を鍛え上げていけ、という言葉とともにブラームスさんからそういうやり方で能力値を上げられる事を教わっていた。実践にはまだ移せてないけどね。なんて考え事をしていたらアペルの戦闘も無事に終わったみたいでこちらに向かってきていた。


「やっぱりミノさんは手強かったです」


「ん、ミノさん?」


「ミノタウロスだからミノさんです」


「ああ、なるほどね」


「あーちゃんは、気に入った相手には愛称を勝手に付けてそれで呼ぶ癖があるみたいなんです。今回はミノタウロスの力の強さに惚れ込んだみたいですね」


 モンスターのミノタウロスをミノさんと呼ぶなんて、俺には某有名芸能人しか思い浮かばない。でもそんな癖があるというのに、俺は普通に名前を呼ばれているだけの状態に気付いてしまった。俺も何か愛称を付けてもらおうかな。


「アペルは俺の事を普通に名前で呼んでいるけど、思い付く愛称は何かないの?」


「うーん、ショージさんはショージさんです。他はもう思い付かないです」


「それじゃソフィアは?」


「ソフィアさんだと……ソフィ?」


「うん、それ良い」


 ソフィアが満足したように頷いて肯定する。ソフィアの方はちゃんと愛称っぽい。俺の方は普通に名前にさん付けだし、なんとなくそれがあるからアペルから呼ばれる時少しよそよそしく感じるんだよね。


「それじゃ、アペルこうしよう。俺の名前を呼ぶ時に、さんを付けるの禁止ね。ちなみに他の敬称も駄目ね」


「それは呼び捨てにしろって事です?」


「そういう事。あまり敬語とかで畏まって話されるのも苦手だし、そう呼んでよ」


 ここでチラッとシェリーのほうを向いてみるが視線を外されてしまった。シェリーも最初に比べれば大分喋り方も崩れてきてくれて、もうそんなに気になる程でもなくなっている。アペルのほうは今回ので気になっちゃったし、この際だから呼び捨てにしてもらおう。


「それじゃあ、ショージ改めてよろしくです」


「うん。よろしく、アペル」


「私もソフィで良い。それでよろしく、アペル」


「分かったです。ソフィ」


 少し気恥ずかしさを覚えつつ、こうしてアペルから俺は呼び捨てで呼んでもらえるようになり、ソフィアはソフィと呼ばれるようになったのだった。

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