ミノタウロス
予習通り22層は洞窟フィールドだった。《探知》の反応を頼りに洞窟の中を進み、近くのモンスター目指して向かった。《探知》の反応からするとこの層のモンスターは今までとは違い、1体か2体の少数で行動しているみたいで、今近くに居るのは1体だった。
「ブモオオオォォォ!」
遭遇したミノタウロスが雄叫びを上げて襲い掛かってくる。
「私がやる」
ソフィアが我先にとミノタウロスに突っ込んでいく。ミノタウロスは巨大な両刃の斧を所持していて、重量のありそうなそれを自在に操って攻撃してきた。ミノタウロスの振り下ろした斧をソフィアは避けるが、斧は地面に巨大な穴を穿った後すぐに切り返し再びソフィアを襲った。だがソフィアはそれも回避してミノタウロスと向かい合う。
「ソフィア、攻撃は二の次で出来る限り回避に専念してね!」
「鈍足な牛の攻撃なんて当たらない」
「それでも油断は禁物だよ」
「……分かった」
地面に出来た跡を見るからに破壊力は抜群だ。油断していると思わぬ攻撃に一撃を喰らう事もあるかもしれない。そうしたらあの威力の攻撃を受ける事になる。それはかなり致命的なのは間違いない。
ソフィアは納得してくれたのか、一撃を喰らわないように回避を念頭に、少しずつ反撃しつつダメージを加えていく。本来、真っ赤な硬い皮膚と筋肉に覆われたミノタウロスには並の攻撃では通用しないらしいが、切れ味の高いツインエッジや上位魔法ならばそのミノタウロスの防御力を上回る事が出来るだろう。
《鑑定》して確かめてみたがミノタウロスは少数で行動してるのもあって、今までのボス系を除くモンスターに比べて更にステータスが高くなっていた。それに加え《斧術》と《火魔術》も所持していてタフときた。これは戦う練習相手として申し分なさそうだった。
俺達は13層から20層までまともな戦闘をせずに進んでしまったので、30層の守護者と戦う前にレベル上げ目的の戦闘をしておきたかった。ミノタウロスはその相手候補に相応しく、29層が終わった時点で他に良い相手が見つからなければここに来ようと思った。
しかし、ミノタウロスとの戦闘時間は他のモンスターと比べると圧倒的に長かった。相手の攻撃の全てを回避しながら戦っていたのでなかなか思い切った攻撃も出来ず、懐に入って一撃を入れたとしてもタフなミノタウロスの反撃が怖い。安全性を考えていったらそれも仕方がなく、殲滅スピードを重視したら外からの魔法、特に弱点の水系統であるソフィアの《アイスランス》辺りを使えば楽に倒せるのだろうが、そればかりで倒していては技術面が上がらない。なによりソフィアがグリムリーパー戦の不満をミノタウロスで解消しようとしている所だった。全ての攻撃を避けながらカウンターで相手の体力を削る、しかもミノタウロスがタフだから戦闘も長く、それを今は楽しんでいるように見えた。
ようやくミノタウロスが灰に変わり果て戦闘が終了した。ミノタウロスのタフさが半端じゃなかった。回避に専念するあまり攻撃の手が緩んでしまっていたのも拍車をかけているだろうが、この戦闘時間の長さだとレベル上げをミノタウロスでするのは考え物かもしれない。レベル上げの効率は経験値と遭遇する敵の数の多さと敵の弱さが弱くなればなるほど良い。経験値という数値は《ステータス》にも表示されないので分からないが、ミノタウロスでは数が少ないし強くてタフだ。単体の経験値が圧倒的に高くならないとレベル上げには向かないという事実が判明した。とりあえずは22層を進んでいく中でレベルの上がり方を見て、経験値の方は判断するしかない。
「次に近くに居るのはミノタウロスが2体かな。次は俺が戦っても良いよね?」
「それじゃあ私がもう1体をやるです!」
「それなら私はその後で問題ありません」
「それで良い」
ソフィアが連続で戦うかなとも思ったけど、先程の戦闘で満足したのか俺とアペルに譲ってくれた。ミノタウロスが2体居る場所まで着くと、俺とアペルがそれぞれのミノタウロスに向かって駆け出す。
俺が近付くのに合わせてミノタウロスは水平に斧をフルスイングしてきた。それを屈んで回避するのと同時に、《結界を》スイングの方向に合わせ垂直に展開した。前々から確認しておきたかったの事の1つ、《結界》の強度がどのくらいなのかという事だ。《結界》で全ての攻撃を防げるのなら防御面が最強になってしまう。しかし、そんな事があるはずない。《結界》で耐えられない威力の攻撃だってあるはずだ。その点で今回のミノタウロスの一撃は、今現状出会ったモンスターの中でかなり威力が高い攻撃といえるだろう。それで試しておきたかったのだ。
ミノタウロスの斧が俺の《結界》と衝突する。ミノタウロスの斧が止まり《結界》が防ぎきったように見えたが、ミノタウロスが雄叫びを上げると《結界》に亀裂が入っていった。《結界》はミノタウロスのパワーの前には耐える事が出来ず、ガラスの割れるような音とともに砕け散っていった。それでも一瞬はミノタウロスの攻撃を止める事が出来るのが分かった。これなら攻撃を喰らいそうになった時に、緊急の手段として《結界》を展開すれば、一撃を喰らう事はない。
回避重視だった思考から攻撃重視に切り替える。ミノタウロスの攻撃を喰らいそうになったら《結界》を使えばなんとかなるのだ。それなら思いっきり戦える。攻撃重視に切り替えたおかげか、俺とミノタウロスの戦闘時間はかなり短くなり、ツインエッジに斬り刻まれたミノタウロスは灰になっていったのだった。




