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引越し

「屋敷の持ち主にも許可を貰ったよ。」


 屋敷の持ち主との話し合いを終えて、屋敷に戻ってきた俺達は女の子にここに住む事になったのを伝えた。


「それじゃあお兄ちゃん、今日から住むの?」


「今すぐは流石に難しいんじゃないかな」


 引越しするにあたって荷物をまとめたりする必要があるだろう。


「今すぐでも問題ありません。元々宿に荷物はあまり置いてありませんし、昨日までの掃除で各部屋問題なく綺麗にしてあります」


 もう寝泊り出来るほど綺麗に掃除が終わっていたのね。それなら今日からここで寝泊まりして良いか。


「それじゃ今日からここでお世話になろうかな」


「やったー!」


 女の子が俺の腕にしがみ付いてくる。よく考えると幽霊屋敷になってからというもの、彼女はずっと1人で孤独な生活を送ってきたのだろう。そう考えていると無意識のうちに彼女の頭に手を乗せて優しく撫でていた。すると風に乗って淡いピンクの花びらが舞い落ちてきた。見上げると庭の木がいきなり花を咲かせていて、その満開に咲き誇っている姿には見覚えがあった。見間違うはずがない、それは元居た世界で見た事のある桜だった。


「この木って桜だったんだ」


「凄く綺麗な木です」


「お兄ちゃん、この木を知っているなんて凄いね。この木は遠くの方の国にしかない、珍しい木なんだってパパが言ってたよ」


 幼い頃お婆ちゃんと花見とかしたなあ。庭も綺麗にしたし今度花見をやるのも良いかもしれない。


「でも何でいきなり桜が咲いたんだろう?」


「この木が私の本体だからだよ。嬉しくてつい花を咲かせちゃった」


 なんとなく名前に思念体って付いていたし、ドリアードという名前からしても本体が何かの植物なのは予想していた。更に木の根元に埋葬されたという事から、もしかしたらこの木が本体なのかなとは思っていた。だが、改めてこの木が桜でしかもモンスターなのだという事実を知るとちょっとショックだ。でも満開の桜を眺めていると癒されるからプラスだろう。


「そういえば名前とか聞いてなかったね。俺は神楽坂翔二、で仲間のソフィアとシェリーにアペルだよ」


 女の子の名前を聞いていなかった事に気付き、まずは自分から自己紹介をした。これからは一緒の屋敷で住む事になる訳だし必要な事だ。


「私の名前はヨシノだよ。よろしくね、お兄ちゃんとソフィアお姉ちゃんとシェリーお姉ちゃんとアペルお姉ちゃん」


「うん、よろしくヨシノ」


「ヨシノさん、よろしくお願いします」


「お姉ちゃんって呼ばれたです!ヨシノちゃん可愛いです」


 ソフィアがヨシノの頭を撫でながら返事をしていた。今までソフィアが最年少だったが、より年下のヨシノがお姉ちゃんと呼んでくれて妹が出来たみたいで嬉しいのだろう。シェリーはいつも通りクールに挨拶をしていた。アペルはソフィアと同じようにお姉ちゃんと呼ばれた事が嬉しいようで歓喜に震えていた。


 落ち着いた所で屋敷の中に入り、誰がどの部屋を使うのか決めていった。シェリーが言うには1階には客室やらオープンスペースを作ることが多いようで、2階の奥の方にある部屋が基本プライベート空間らしい。そういう訳でテーブルに座る時と同じ配置で、角部屋が俺、隣がソフィア、向かいがシェリー、斜向かいがアペルとなった。ヨシノはもともと使っていた部屋があったのだろうが、今は眠る時には思念体が解除されるそうだから部屋は要らないとの事だった。


 そして一度宿に戻り荷物を回収して、部屋の滞在契約も解約の手続きを終わらせ宿を出た。日本なら引越しは荷物の持ち運びが大変で、荷物をダンボールにまとめたりしていたが、この世界は《道具》に収納すればどんな物でも簡単に持ち運びが出来てしまい、取り出しも自由だ。改めて異世界の凄さに感心しつつ、屋敷に戻った。


「お兄ちゃん、お帰りなさい」


「ただいま」


 屋敷に帰るとすぐにヨシノが出迎えてくれた。後で確認した事だが、ヨシノは本体である桜の木から一定の距離までしか離れられず、ダンジョンに連れていけない事が分かった。連れていけたら更に戦力アップで、ダンジョンの攻略も楽になっただろうに。だが、世の中はそう甘くなかった。


 しかし、これで幽霊屋敷のクエストも終わり、アペルも既にトラウマを克服した。ようやく明日はグリムリーパーにリベンジする予定だ。万全の体制で行く為に今日はもう休む事にして、明日に備えたのだった。

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