解決
何でさっきの女の子が描かれているのだろう。もしこの肖像画がここに住んでいた家族の絵ならば、娘の女の子は病気で亡くなっているはず。メモに書かれている通りなら、庭にある一本の木の根元に埋葬されているはずだ。となると庭で会話したあの女の子は本当に幽霊……。そう考えたら背筋に冷たいものが走った。
「ねえ、ソフィア。亡くなった人が幽霊になって出てくるとかってある?」
「そんな事聞いた事がない」
幽霊系のモンスターは出るものの、死人が幽霊になって出たりする事はないようだ。ゾンビ系のモンスターになる事もないのは、盗賊を倒したの時に確認しているし、やっぱりまだこの屋敷には何かがある。
「少しずつ原因に近付けていると思う。これを見て」
俺は皆に肖像画の描かれた紙を見せた。皆が肖像画の描かれた用紙を覗き込む中、俺は件の女の子を指で指し示した。
「ここに描かれている女の子だけど、実は昨日の庭での作業中に俺の前に現れて少し会話したんだ」
「それは本当にこの女の子だったのですか?」
「間違いないと思う」
見間違いではない。確かにこの女の子と話をしたのだ。居ても立っても居られず、女の子が埋葬されたという庭の木まで向かった。
「お兄ちゃんまた来たんだね」
木に辿り着いた時、木の陰からあの女の子が出てきた。
「君は何者なのか聞いても良いかな?この屋敷の娘さんは病死したらしいんだけど 」
「確かに私はパパとママの娘だった。その記憶があるけど、でも私が死んだのも確かだよ」
「それじゃやっぱり君は幽霊なの?」
「うーん、この姿は幽霊と言っても良いかもしれないけど、私が何かと言ったらモンスターって言うしかないかなー」
一瞬女の子の言った事が理解出来なかった。しかし、モンスターならばと《鑑定》してみると、名称はドリアード(思念体)となっていて、種族も人族ではなく樹人族となっていた。確かにこの女の子は人ではなくモンスターだった。
元人間のモンスター。こんな事ってありえるのだろうか。これが本当なら、人は死んでもモンスターにならないという常識が覆ってしまう。
「君は自分が何故モンスターになったのか分かる?」
「んーん、分からないや。死んじゃう前の記憶はあるけど、気付いたらこうなってたの。ただね、気が付いた時にはもう屋敷はボロボロになってて、モンスターも出現するようになってて、知らない人達が屋敷を壊そうとしていたから、モンスターを増やして邪魔しちゃった」
「屋敷にモンスターを出現させていたのって君がやってたのか」
「うん、ダメだった?私の家を壊そうとしていたんだから邪魔して当然だよね。屋敷がなくなるくらいならまだモンスターが居る方が良いかなー」
なんという事だ。モンスター出現の原因を作っていたのは彼女で、屋敷を取り壊されないように邪魔していたという。
今では屋敷の持ち主は取り壊しを諦めているらしいが、元々はモンスターが出るから取り壊そうとしていたっぽいし、それなら屋敷も取り壊さずに誰かが住めるようになるのではないだろうか。そうなれば両者ともにウィンウィンの関係になれる。俺はそれを彼女に提案してみた。
「うーん、本当に屋敷を壊さないならそれでも良いよ。ただ、屋敷に住むのは知らない人達は嫌だけど、お兄ちゃん達なら良いよ」
「何で俺達なら良いの?」
「何でって、お兄ちゃん達が私の家を綺麗にしてくれたからかな」
屋敷を掃除して庭も手入れをした俺達だから良いのだそうだ。確かに赤の他人が住むよりかは見知っている人が住んでくれた方が良いだろう。とはいえ俺達もほぼ赤の他人のはずなのだが。それでも女の子の提案は俺達にとってもメリットがある。宿が必要なくなる分お金も浮くのだ。これが結構毎日支払っていると馬鹿にならない金額になるのだ。
そもそも女の子は屋敷に住む事を快諾しているが、当然の事だが彼女が現在の屋敷の持ち主ではない。多分クエストの依頼を出している人が所有者だろうから、一度冒険者ギルドに帰ってその辺りの説明をした方が良さそうだ。
「屋敷を使って良いならありがたいけど、今ここでは決められないかな。屋敷の今の持ち主に相談してくるから待ってて」
そう言って冒険者ギルドに向かい、プリメラさんに説明するとすぐにクエストの依頼主を呼んでくれた。やはり依頼主が屋敷の持ち主だったようで、屋敷を取り壊さなければモンスターは出現しない事、女の子に気に入られた俺達なら屋敷に住んでも良いと言われた事を伝えた。
屋敷の持ち主は半ば諦めていた屋敷が再利用出来るようになったのであれば、これ以上の事はないと喜び、俺達が住む事もクエストの報酬という事なら問題ないそうで、家賃を払う事もしなくて良いと言われた。ただ、その代わりにモンスターが本当に出なくなったのかどうかも合わせて、住んでいる間は確認してほしいと言われた。
それでモンスターが本当に出なくなっているのであれば、俺達が居なくなった後は屋敷を貸し出したり、もしくは売りに出せるようになる。ただ、その辺りの許可が下りるかは屋敷の持ち主さんに女の子と相談してもらうしかないと思う。それでも今まで幽霊屋敷でお金にもならなかったものだから、無料で俺達に貸し出しても大丈夫なのだろう。
屋敷の持ち主とも話が纏まったので、俺達は屋敷にいる女の子に報告しに行くのだった。




