死神
「この辺りのモンスターと2体を同時に相手は厳しいかなと思ったけど、案外なんとかなるものだね」
「うん、問題ない。まだまだいける」
結局シェリーの援護なしでも、問題なく倒せてしまった。やっぱり使えるスキルの種類が多いとかなり楽に戦える。
「幽霊とか骸骨とかもう嫌です」
「この層はなるべく早く終わらせるからもう少し待ってて」
シェリーの話だと他にも何種類かのモンスターが出るらしいのだが、アペルのためにもこの層はなるべく早く終わらせよう。
その後はシェリーの情報通り、主にレイスと何度も遭遇した。俺はその度にダークネスダガーに持ち替える。ダークネスダガーはダークネスウルフの素材から作られているのだが、その名の通り闇の属性を纏っているのだ。
《火魔術》を《能力付与》したダガーに火属性が付いてレイスに攻撃が通り、ソフィアの《装備作成》出来た蒼玉のウォータースティレットも攻撃が通るのならば、ダークネスダガーの闇属性も同じく攻撃が通ると考えて良いだろう。
ダークネスダガーをレイスの頭蓋骨目掛けて《投擲》すると、無効化される事なく命中した頭蓋骨が砕け、レイスは灰になっていった。
その後もレイスが出てくる度にアペルから絶叫が響き渡る。レイスはそんなに強くないので、ソフィアと一緒にさっさと斬り伏せていった。
「ショウジ様、そろそろホワイトゲートが近いはずです」
シェリーによるともうすぐでホワイトゲートに辿り着く所らしいのだが、ここで新しいモンスターが現れた。一瞬レイスかと思ったのだが、レイスにはない大鎌をその手に持っていて、そして髑髏の瞳の部分が赤く光り、まるで死神のようだった。
「今度は目が赤く光ってるです、怖いです!」
「あーちゃんは危ないので下がっててください。ここは私達3人でなんとかしますから」
シェリーが戦えないアペルを避難させる。俺は新手のモンスターを《鑑定》してみる。名称はグリムリーパーといい、レイスと同じように《霊体》を所持していて、更に《怨念魔術》のレベル10を所持していた。ステータスもレイスとは比べ物にならないくらい高く、スケルトンソルジャー達よりもさらに上だ。久しぶりに見るフィールドのボスモンスターなのだろう。
「やばい、あいつ《怨念魔術》のレベル10所持してる。具体的にどんな魔法なのか分からないから気を付けて」
「《怨念魔術》ですか。確か精神に直接攻撃するような魔法でしたね」
「何それ、どういう事?」
ソフィアは《怨念魔術》の効果が良く分からないみたいだった。
「要は身体を傷付けずに心を攻撃するような感じかな」
「んー?良く分からない」
こちらも何と言ったら良いのか説明が難しい。これはあまりお勧めしないが、《怨念魔術》に関しては身をもって体感してもらうしかないかも。
「グリムリーパーも《霊体》を所持しているから、魔法か属性武器じゃないと無効化されるから気をつけて!」
「分かった!」
「分かりました。いつも通り魔法で援護します!」
グリムリーパーに向かって俺とソフィアが突撃し、シェリーが《ロックバレット》を放って援護をしてくれる。ソフィアと左右に分かれてグリムリーパーを挟み撃ちにするが、グリムリーパーが大鎌を振りかぶり俺に向かって横薙ぎに振るってきた。グリムリーパーの大鎌を伏せて回避し《フレイムブレス》を放つ。幽霊やゾンビといったら一番は聖なるもの、光や回復の属性だろうけど火属性も弱点っていうのも良く聞く話だ。しかしグリムリーパーは《フレイムブレス》を大鎌を回転させて盾みたいにする事によって防いでしまった。
だが俺に気を取られている間にグリムリーパーの背後からソフィアが《アイスランス》を放つ。グリムリーパーの足元からいくつもの《アイスランス》が飛び出してグリムリーパーを襲うが、回転させていた鎌を地面に突き刺し、その反動を利用して《アイスランス》と《フレイムブレス》をもかわしていった。
「こいつレイスと違って動きは機敏だね」
「それでこそ倒し甲斐がある。動きが早いならそれ以上の速度で行くだけ、ライトニングボルト!!」
ソフィアから放たれた電撃が瞬く間にグリムリーパーに襲い掛かった。電撃で一瞬怯んだ隙にグリムリーパーに一撃を加えようと間合いを詰め、頭蓋骨に向けて《クロスインパクト》を放った。8連撃を受けた頭蓋骨は砕ける事はなかったが、亀裂が入るのを目の当たりにした。更にシェリーの《ロックバレット》がグリムリーパーの手首に直撃し、そこにも亀裂を入れていった。
グリムリーパーの鎌捌きも手首の亀裂のおかげか衰えていた。シェリーの援護に感謝だ。グリムリーパーが一旦大鎌を構えたまま動きを止め、何かを仕掛けようとしているのが見て取れた。俺は何が来ても大丈夫なように構えるが、グリムリーパーの瞳が一瞬強く光った。それに引き寄せられるように俺の視線がグリムリーパーと交差した瞬間、時間が止まったかのように俺の身体は動かなくなった。
一体何が起きたのだろう。身体を動かそうとしても全く動いてくれない。まるで自分の身体ではなくなったみたいに動かなく、また声も出せないような金縛りに近い状態が俺を襲っていた。多分これも《怨念魔術》の魔法なのだろうけど、冒険者の心得には《怨念魔術》については大雑把にしか記載されていなく、どんな魔法があるのかまでは書いていなかったのだ。
そんな俺を放置してグリムリーパーが振り返り、次はソフィアに何かをしたのだろう。ソフィアは何もない虚空に向かって魔法を放ったり短剣を振るったりし始めた。そして動けない俺や良く分からない行動をしているソフィアは後回しと言わんばかりに、グリムリーパーはシェリーへと向かっていった。
接近戦のスキルがないシェリーは《アースシールド》と《スチールワイヤー》で防壁を作るが、《アースシールド》の方に狙いを定めた大鎌の一振りによって破壊されていった。破壊されて出来た隙間をグリムリーパーの手が伸びていき、その手の中にシェリーが捕まってしまう。
「アアアアアアアアアアアアッ!」
グリムリーパーがシェリーを握り締め、周囲にシェリーの悲鳴が響き渡る。実際には数秒の出来事だろうが、それがとてつもなく長く感じた。グリムリーパーの手からシェリーが落下し、再びグリムリーパーが振り向き俺に視線を向けた。グリムリーパーが何をしたのか分からなかったが、その頭蓋骨と右手首に入れたはずの亀裂が跡形もなく消えていたのだった。




