甘えん坊
冒険者ギルドで買取済ませて《道具》内を整理した俺とソフィアは、プリメラさんに挨拶して冒険者ギルドを出ると、そこへ後を追いかけてくる予定だったシェリー達が遠くから向かってくるのが見えた。
「お待たせしてしまって申し訳ございません」
「こっちも今、用事が済んだところだから気にしないで。それじゃご飯食べに行こうか」
俺達が外で待っていたと思ったのか、律儀に謝ってくるシェリーに気にしないでと一言添えて、食事処が集まっている南地区の西側へ移動する。
ティーリアの街での外食は初めてだった。どこの店が美味しいとかの評判も一切知らずに、とりあえず目に入ったお店に入ってみた。今は一番混み合う時間帯だったが、ちょうど食事を終えた人達が出ていく所で、そんなに待つ事なくテーブルの席に案内された。
メニューを見ていくと全体的に野菜の種類が豊富そうで、冒険者の為か特に肉料理が多い。俺は肉料理と野菜をバランスよく頼み、ソフィア達も同じように頼んでいって注文を終わらせた。飲み物はこちらにも蜂蜜酒があったのでそれを頼んだ。こちらにもエールや葡萄酒もあったけどその辺りの本格的な酒はもうちょっと慣れてから飲んでみたいと思う。
蜂蜜酒で乾杯をしてから暫くして料理が運ばれてきた。俺が頼んだものは牛肉のステーキだ。ただシンプルに肉厚のある牛肉を焼いただけ。味は元の世界と比べたらやっぱりそっちの方が美味しいけれど、こっちはこっちの味付けがあってそれがまた面白い。野菜の方は大きい葉っぱのような物で、色とりどりの野菜達を包んで食べ易くした料理だった。甘みがあるけどピリッとした辛さもあるソースが野菜達と一緒に包まれていて美味しかった。
食事を終えた帰り道、今までなら酔いの回ったソフィアを背負って帰っていた。だが今回のソフィアはある程度酒に慣れたのか、多少フラつくが歩けるくらいの状態だったので、そのまま歩いて帰ろうとした。
「今回は背負わなくても良さそうだね」
「えー、それは駄目ー。ショウジは私を背負うのー」
ちなみにアペルはいつも通りシェリーの背中の上で既に眠りに就いている。それを見たソフィアが駄々をこねて座り込むが歩けるなら歩いてもらう方が良い。歩けないなら仕方がないが無意味な甘やかしはしない。ここは厳しくしてちゃんと歩かせる事にした。
「歩けるんだから背負わないよ。ほら、早く宿に帰るよ」
手を差し伸べてソフィアを立たせる。今まではすぐに酔いつぶれて分からなかったが、ソフィアは酒を飲むと幼児退行してしまうみたいで、特に甘えん坊になるみたいだった。
「それならー、このまま手を繋いでくれてたら歩くー」
「うーん、歩いてくれるなら仕方がないな」
ただ厳しくするだけだと駄目だろうから、ここはソフィアの交渉に応じる事にした。その後はソフィアと手を繋いだまま宿まで帰ってソフィアを寝かし就け、シェリーに淹れてもらったお茶を飲んで一息つく。ソフィアもアペルも寝台で眠っている。明日は南のダンジョンへ初めて行く予定になっていた。それを考えると、俺も早く寝た方が良いだろうなと思い眠りに就く事にしたのだった。
翌朝、準備をした俺達は南のダンジョンへ向かっていた。いつもの癖で東へ向かいそうになったが、シェリーの指摘により進路を変えた。
「南のダンジョンでもいつもと変わらないと思うけど、頑張っていこう」
「どんなモンスターが出てくるのか楽しみ」
「頑張るです」
「以前ショウジ様から頂いた冒険者の心得に、30層までの情報だったら載ってましたので、一応それらは頭に入れてありますのでご安心ください」
ちゃんと最後まで読んでいなかったが冒険者の心得には攻略されたダンジョン内の情報も載っているらしかった。昔からあるダンジョンだからそういう情報も共有されているみたいで、それをシェリーはちゃんと読破して記憶しているという。流石シェリー。これはもうダンジョン内の道案内はシェリーにお任せだな。
そしてダンジョンに到着した。ダンジョン前には他の冒険者達も沢山居て、ダンジョンに入る前に準備などに漏れがないか最終確認をしているようだった。今までは人気の少ないダンジョンに通っていたから気にしていなかったが、他の冒険者達が居るなら道中のモンスターとの遭遇率とかも減ってしまうのではないだろうか。そうなるとレベルの上がる速度が落ちてしまう。そんな問題が出てきてしまいそうだが、冒険者達が集まるのはどうにも出来ない。いっそさっさと攻略して先へ進み、人の少ない階層まで行ってしまおうかとも考える。
とりあえずダンジョンに入って様子を見てから考えようと思ってブラックゲートへ入る。ウィンドウに表示された最も深い階層は13層で、どうやらトリスティアの森のダンジョンで、最後の13層の迷宮主が居た階層は攻略した分にカウントされないらしい。俺は階層を選択して13層へ転送してもらうのであった。




