帰還
「ようやくティーリアに帰ってきたなあ」
視界にはティーリアの町並みが遠くに見えていた。ヘルグミルを出発してから10日が経っていて、行きの倍の時間を費やしていた。奴隷達を乗せた荷台があるので速度も出せず、ゆっくり走っているから仕方ないが、正直疲れた。
出発初日の夜には魔王の幹部が襲ってきた。襲ってきたと言っても戦闘にはならずに去って行ったが、イザリナという女は何がしたかったのだろう。その初日の出来事があってからというもの、夜の見張りは緊張が続き精神的にもかなり消耗した。今すぐ宿に行って心ゆくまで安眠を貪りたい。
しかしまず先に、護衛のクエストの完了を冒険者ギルドに報告しに行かなければならない。ささっと行って早く終わらせてしまおう。
「ヘルグミルの街より凄いです。あの奥にある大きい建物は何です?」
「あーちゃん、あれはこの国の王様が住まわれているお城ですよ」
言われてみて気付いたが、ヘルグミルの街には城みたいな建物がなかった。シェリーに聞いてみると城ではなく、平屋の豪邸があるんだとか。ホルグレンさんの豪邸も巨大だったが、それより更に巨大という事だ。あれよりさらに巨大な豪邸とか言われても想像がつかない。
街の中に入った後はタランドーさんやソフィア達と別行動になった。タランドーさんは自分の屋敷に奴隷を連れて行き、ソフィア達は先にいつもの宿に向かってもらっている。宿の部屋が空いてなかったら即寝れないので、これは最優先事項だ。そして俺は冒険者ギルドへ向かった。クエストの報酬は前もって冒険者ギルドに渡してあるらしく、そちらで受け取る形なのだそうだ
冒険者ギルドに辿り着いた。この建物もどこか懐かしい。プリメラさんやブラームスさんは元気にしているだろうか。
中に入って受付にいるプリメラさんを探した。冒険者ギルドはまだ昼過ぎの時間帯のおかげか、比較的空いていてお目当の人物をすぐに見つける事ができた。
「プリメラさん、お久しぶりです」
「あ、ショウジさん。ヘルグミルから帰ってきていたんですね」
「今さっきティーリアに着いたばかりですよ。とりあえずクエスト完了の報告に来ました」
「かしこまりました。それではギルドカードをお預かりしてもよろしいでしょうか?」
俺は《道具》に収納していたギルドカードを取り出してプリメラさんに渡した。プリメラさんはそれを受け取ると専用端末に置き、端末の操作を始めた。
「はい、クエストを完了いたしました。送金はタランドー様からの報告が来たら送らせて頂きますね」
プリメラさんが専用端末からギルドカードを外してそれを返してくれる。とりあえずはこれで冒険者ギルドの用件は終わった。さっさと宿に行って眠りに就こうと受付の席を立つと、丁度そこにブラームスさんがやってきた。
「おう坊主、向こうで兄貴に会ったみたいだな」
「ええ、あんなに似ているなんて凄いですね。初めて見た時ブラームスさんが居るのかと思っちゃいましたよ」
「がはは、よく言われるわい。それで向こうでも大活躍だったらしいじゃないか」
「ブラームスさん、ショウジさん達に何かあったんですか?」
ブラームスさんはブルータスさんから聞いていたのだろうけど、プリメラさんは知らなかったようでブラームスさんから説明してもらっていた。
「モンスターの大群を殲滅って流石はショウジさんですね!」
そうだ、大事な事を伝えるのを忘れていた。
「ブラームスさん、ヘルグミルの街を出発した日の夜の事なんですけど、八柱将と呼ばれる魔王の幹部の1人に出会ったんです。名前はイザリナと言ってサキュバスらしいのですが、そのイザリナ自分で言っていました、モンスターの大群を使って獣人族の村を襲わせていたと」
「それは本当か?」
驚きに満ちた声でブラームスさんが確認してくる。確かにイザリナの言っていた事が本当ならば人族や獣人族にとっては大問題だ。イザリナの発言から推測するに、既に滅ぼされている獣人族の村がいくつかあるみたいだし、獣人族にとっては由々しき事態だろう。
「ええ、本当です。既にいくつかの村は滅ぼしたみたいな事を言っていました。それにイザリナは一緒にダークネスウルフを7体も同行させていました。そこから考えてもイザリナ本人の強さはそれ以上と考えられます。魔王の幹部という信憑性は限りなく高いでしょう」
「しかし坊主、それでよく生き延びてこれたのう」
「出会ったとは言っても本当にそれだけで、幸いな事に戦闘にはならなかったんですよ」
「とりあえずこの件はギルドマスターに報告しておく。引き止めてすまなかったのう」
ブラームスさんはそう言って奥へと下がっていった。これで本当に用件はなくなった筈だ。
「それじゃプリメラさん、また来ますね」
プリメラさんに挨拶して冒険者ギルドを出た。さあ、今度こそ宿に帰って寝よう。いつもの宿まで戻ってくると入り口の所でシェリーが待ってくれていた。どうやら部屋の確保は出来たのだが、今まで使っていた所とは違う部屋みたいで、その連絡の為に待っていてくれたみたいだ。
部屋に入るとソフィアとアペルはテーブルの席で眠ってしまっていた。俺が帰ってくるのを待っていてくれたのだろうが、疲労もあって睡魔に勝てなかったようだ。シェリーにお茶を頼んで淹れてもらうまでの間にソフィア達を抱き上げて寝台の方へ移動させた。
お茶を飲んで一息つくと、俺にも睡魔がやってきた。シェリーにも疲れたから寝るねと一言伝えて寝台に潜り込み目を瞑った。そうするとそんなに時間を置くことなく、睡魔があっさりと俺の意識を刈り取っていったのだった。




