お手伝い
浜辺を駆け抜けて声のした方へ向かう。辿り着くとそこにはやはり先程の5人のパーティーがいて、全身鎧の人がモンスターの攻撃をひたすら盾で防御して耐えていた。そのモンスターはアクアハーミットクラブではなく、鰐型のモンスターだった。身体を起こし長くはない足で2足歩行していて、その巨大な口や尻尾を振り回して攻撃していた。
もう1人の前衛の盾と短剣を持っていた少年が離れた所で倒れている。たぶん鰐型のモンスターに吹っ飛ばされて気を失っているのだろう。赤く染まっている所から結構な出血をしているみたいだった。それを《回復魔術》で癒す為、倒れている少年の所へ後衛の3人が向かっている最中だった。
後衛の少年が倒れている少年に《回復魔術》を使用して倒れていた少年が復活する。起き上がった少年は戦線に復帰するが、相手の皮が硬く短剣を振るうが深くまで入っていない。一番火力のある魔法使いの女の子が《ウィンドカッター》や《ウィンドストーム》を使ってはいたが、相性が良くてもそこまでダメージが入っているようには見えなかった。このままだと5人組のパーティーはジリ貧になるのは明らかだった。
だがまだ目の前で戦っているパーティーは戦意を失っていない。悲鳴を聞いて駆けつけたのは良いが、俺は冒険者同士のルールみたいなものを知らなく、このまま救援に入っても良いのだろうかと思ってしまった。横取りとか思われたら嫌なのでソフィアたちの合流を待つ事にした。
ソフィア達が合流したが5人組のパーティーは諦めず戦っていた。シェリーに聞くと基本的には戦闘中のモンスターに横から勝手に手を出すのは駄目らしい。命に関わる緊急時は例外だそうだが、それなら今は見守るしかない。
暫くの間見守っていたが、どちらも決定打はなくお互いに消耗し合っていた。そしてとうとう戦況が傾く事態が起きた。《回復魔術》を使用していた少年が魔力切れで倒れてしまったのだ。そうなると壁役の全身鎧の人や盾と短剣の少年は回復が受けられず、ダメージが蓄積していきこのままではやられてしまうだろう。皆頑張っているしそのまま倒させてあげたい、回復のサポートくらいならしても良いよね。俺は皆を待機させたまま戦っている彼らの後衛の所へ合流する。
彼女達は突然現れた俺に警戒するが俺は両手を上げ、何もしないという意思表示をして近付いていった。
「回復だけサポートしようか?」
俺がそう伝えると後衛の女の子2人は軽く相談して、お願いしますと声を揃えて答えてきた。俺はソフィア達に合図を送りこちらへ来るように伝えた。前方では全身鎧の人と盾と短剣の少年が戦っている。鰐のモンスターを《鑑定》すると名称はアリゲーターといい、所持しているスキルはないけれどその代わりにステータスが高めだった。それでも今の俺達には敵わないだろうが、戦っている5人には厳しいみたいだ。
それでもアリゲーターとの戦闘は続き、盾と短剣の少年がアリゲーターの尻尾を避けきれず吹き飛ばされていった。
「シェリーは鎧の人の回復を頼んだ。俺は飛ばされた少年の所へ行く」
「お任せください」
俺は吹き飛ばされた少年の所に駆け寄ると、少年はぼろぼろになりながらも起き上がろうとしていた所だった。すぐに《治癒》を使用すると、少年は助かりますと一言だけ残して再びアリゲーターへと向かっていく。それを見送って再び後衛の皆の所へ戻った。
アリゲーターも消耗してきていてそろそろ決着が付きそうだった。盾と短剣を持った少年が《デルタスラッシュ》を放ち、弓の少女が初めて見る弓の技《ドライシューティング》を放つ。矢がアリゲーターを突き刺さるのを見届けた魔法使いの少女が《ウィンドストーム》でとどめを刺してアリゲーターは灰になっていった。
「助けて頂いてありがとうございました」
戦いが終わり弓の少女がお礼を言ってきた。弓の少女がクレア、魔法使いの少女がカトリーナ、魔力切れで倒れた少年がラウリー、盾と短剣の少年がセイン、全身鎧の人がハワードだそうで自己紹介をしてきた。俺も名乗り出てソフィアとアペルとシェリーを紹介する。ラウリーの意識も回復したが、動きが鈍く倦怠感が酷そうだった。
「ソフィアさんってもしかして妖精族のエルフだったりします?」
耳が尖っているのを見たクレアが質問をしてきた。実際はハーフエルフなのだがソフィアは頷いてそれを肯定する。
「わあ!ドワーフは見た事あったんですけど、エルフの方は生まれて初めて見ました。感激です」
クレアが感激のあまりソフィアに抱き付いた。それをカトリーナが止めようとクレアの身体を引き剥がそうとしていた。
「すいません、クレアは興奮するとつい抱き付いちゃう癖があって」
ようやくソフィアからクレアを引き剥がして一旦休憩を取る事になった。俺達は先程休憩を取ったのだが観戦していた時間も長く、丁度お昼ぐらいになってしまっていたので一緒にお昼を食べる事になった。彼女達のパーティーは新世代の風と言って、いつか強くなって西のラグゼニア王国の巨大なダンジョンに行くのを目標にしているそうだ。俺達がその国から一時的にフルグミルの街に来ている事を言うと、興味を引かれたのか質問が沢山飛んできた。それに答えているうちに時間はあっという間に流れていったのだった。




