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外食

 宿に帰ってきた俺達は、まず食事の準備をし始めた。何時もはシェリーに任せっきりだったが、奴隷でもなくなったんだし手伝っても問題あるまい。


「シェリー、手伝うよ」


 俺は元の世界では1人暮らしをしていた。料理は得意ではないにしろ多少は自分で作っていた事もあり、何か手伝えないかと思ったのだ。


「ショウジ様、大丈夫です。お食事の準備は全て私が致しますので」


 手伝おうと思ったら断られてしまった。うーむ、シェリーがダンジョンも行くとなると、今までのように家事も全て任せると負担が大きい。いっそ今日から食事は外で取っちゃうか。たまに海の幸が食べたくなったらシェリーに調理してもらうが、それ以外は外食しよう。


「やっぱりシェリーの負担が大きいから、どこか外でご飯を食べよう。」


 俺は提案するとソフィアもアペルも賛成してくれて、その様子にシェリーも観念したのか、外食するのを了承してくれたようだ。


「シェリーの手料理は海の幸を食べたくなった時お願いするよ」


「分かりました」


 宿を出てシェリーの案内で食事処が集まっている地域まで向かった。色々な店があったが、どこからも騒がしい声が聞こえてきて賑わっているようだった。特にどの店に入るか決めていなかったが、ふと目に入った店の名前が翻訳されて頭の中に浮かんできた。そのお店は『妖精の宴』という名前だった。シェリーに確認すると昔からある老舗のお店らしく、シェリーも子供の頃に何度か両親と一緒に食べに来た事があるらしい。味も子供の頃の感覚だが文句なしに美味しいかったとの事だった。


 よし、『妖精の宴』にしよう。お店に入ると小柄な女の子がいらっしゃいませと挨拶しながら入り口までやってきて、人数を確認した後テーブルまで案内してくれた。テーブルは四角く俺とソフィアが隣同士で座り、対面にシェリーとアペルが座った。ホールを担当しているらしき先程の女の子がメニューを持ってきてくれる。メニューには写真など無く、ただ料理の名前が並んでいる簡易的なものだった。


 ふむ。それぞれの料理の名前を確認していくと、俺が気になったのはじゃがバターと大地の恵みサラダだ。この世界の文字を俺が分かるように勇者の恩恵で翻訳されているからか、サラダが面白い名前だがじゃがバターがあるとは思ってもいなかった。俺はこの2つに決めて他の3人が何を注文するのか確認する。3人とも決まったみたいで俺は店員を呼んだ。


「俺は豚肉の香草焼きとじゃがバターに大地の恵みサラダをください」


「私は鳥肉のスープと大地の恵みサラダ」


「私はパンのバター添えと鶏肉のスープをお願い致します」


「あたしは豚肉の香草焼きとじゃがバターがいいです」


 それぞれが料理を注文していく中、店員の女の子はメモを取り注文を繰り返して確認してくる。そしてお飲み物はいかがですかと尋ねてきたので、飲み物のメニューを見るとエールとワインなどの酒類しかなかった。


「それじゃこの蜂蜜酒をお願いします」


 他の3人にも聞くと同じのでいいとの事だったので、蜂蜜酒を4つ頼んだ。再び注文の内容を繰り返し確認してくるが、問題なかったので頷くと女の子はカウンターの方へ下がっていった。


 さて、いつもと違う晩御飯って事で楽しみなのだが、明日からの予定も立てなければ。


「シェリーは今日初めてダンジョンに行ってみてどうだった?」


「一応魔法も多少使えるようになりましたし、レベルも上がったのでスキルポイントを使って《火魔術》や《風魔術》のレベルを上げれば、まだまだ先の層にもいけると思われます」


 ふむ、前回の守護者戦は2人だけだったが、今なら4人いるしレベルも上がっている。ここのダンジョンの守護者に挑戦しても大丈夫そうだが、安全を取ってこの後も7層から順番に攻略していこう。


「前回守護者戦で痛い目見たから、明日も7層から順番に行こうと思ってる。それでシェリーのレベル上げを念入りにやってその後守護者で良いよね?」


 全員頷いて肯定してくれた。明日の方針が決まり、丁度良いタイミングで料理が運ばれてきて、各々の前に頼んだ料理が並べられる。


「それじゃ頂きます」


「いつも思っていたけどショウジのそれって何してるの?」


「うーん、俺の住んでいた所の風習かな。簡単に言うと御飯のありがたみを感謝して、手を合わせて頂きますって言ってから食べるんだよ」


「そうなんだ。それじゃ私も頂きます」


「頂きます」


「頂きますです」


 ソフィアが俺の真似をしてから食事を始めた。それに習うようにシェリーとアペルも手を合わせてから食べ始めた。ふと昔、頂きますを言わずに食事を始めてお婆ちゃんに怒られた時の事を思い出し、クスリと笑ってしまった。


「ん、何で笑ったの?」


「いや、ちょっと子供の頃、頂きますを言わずに御飯を食べ始めて、お婆ちゃんに怒られたのを思い出してね」


 それからは俺のお婆ちゃんがどんな人だったかソフィアに聞かれ、皆にお婆ちゃんの思い出話を語って聞かせた。もちろん異世界の文明的な良く分からないだろう所はぼかしてだけど。


 そしてじゃがバターうまっ。蒸したジャガイモとバターに塩でシンプルに素材の味が引き立っている。豚肉も香草によって香りも良く塩胡椒で味が引き締まってて美味しい。サラダも良く分からない色々な葉野菜が皿の中に盛り付けられていたが、中央にある黄色いソースはまさかマヨネーズではないだろうか。野菜に少し付けて口に入れるとマヨネーズっぽいけれどなんか味が違った。それでも美味しく野菜とマヨネーズがどんどん口に運ばれて止まらない。シェリーに聞いてみるとこのマヨネーズはオリーブオイルから作られているらしい。俺のいた世界の一般的なマヨネーズは卵から作っていたはず。味の違いは材料の違いみたいだ。


 御飯を食べ終わってもそのままついつい喋りすぎてしまった。時間も遅くなってきていたので、そろそろ帰ろうと店員を呼び会計を済ませて店を出ようとしたが、アペルが蜂蜜酒1杯で酔っ払ってしまったらしく、シェリーに抱きつきながら起こされていた。確かにソフィアやシェリーは俺の話に相槌を打っていたりしたが、アペルは途中から反応もなくなり何も喋らなくなっていたような気がする。


 シェリーがアペルを支えながら店の外に出た。


「しーちゃん、もー歩けないでーす」


 アペルが甘えた声音を出してシェリーに抱きついている。シェリーも全く仕方がないですねと嘆息しながらアペルを背負い歩き出す。俺の隣を一緒に歩いていて、それを見たソフィアが立ち止まり俺に言った。


「ショウジー、私もあれやりたいー」


 ここにも酔っ払いがいた。てっきり獣人の村の宴の時は勧められるがままに飲んだ為、酔い潰れたと思っていたのだが、こっちもアペル並みではないがお酒に弱かったらしい。仕方なくソフィアの前に背中を向けてしゃがみ込んで、ソフィアが後ろに乗れるようにしてあげる。すぐにソフィアが喜んで背中に乗ってくるが、良くある胸が背中に当たってドキドキなんて事はなく、ソフィアの胸の膨らみは慎ましい限りで余り感触がなかったのだった。


 この世界で胸が無いとかで女の子が怒るかどうかは分からないが、その辺りの事情はどこも一緒だろうと思い何も口に出さず、シェリーと2人で酔っ払いを背負って宿まで帰ったのだった。

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